126彼を追い求めて(タツヤ)
ここは地下10万mの世界。
大迷宮地下都市ラビリンスがあった場所とは訳がちがう。
重力の方向が場所によって違うのだ。足元に石ころが落ちているが、目と鼻の先の場所を見れば、石ころは足元ではなくて、天井に転がっているんだ。
そんなところを、宙に浮かんで、高速で移動すればどうなるか?
体が上へ下へ左へ右へ、あちらこちらに引っ張られるのはまだいい。三半規管が狂うんだ。
人間はいつも重力のかかる方向が下方向と認識しているが、どっちが下なのかわからなくなり、目が回るというか、今自分がどうなっているのかがよくわからなくなって意味不明状態になる。
さらに、内臓が上へ下へ左へ右へとかき回される。
その結果、、、これだ。。。
ここは、アースホールのほとり。そこに2匹の死体が並んで転がっていた。
よく見れば、胸を上下に動かしていることから、辛うじて、死体ではなくまだ息はしている様子。
動く様子は見られず、口を開く様子もない。
まるで、辛うじて、死を免れることができただけの瀕死の動物の様である。
タッタッタッタッ
ふとそこへ、軽快な足音を響かせながら、死体に近づく人影が見えた。
人影の後ろには、羽の生えた小さな虫のような存在も見える。
その人影は、アースホールのほとりに転がる瀕死の死体の1つを叩き起こしては、揺さぶりはじめ、目を輝かせながら、話しかける。
「タツヤさん!行きましょう!今すぐアースホールへ。確かにベベルの 手紙はありました。ベベルもこのアースホールに通ったに違いありません。タツヤさん!何をボーっとしているんですか?ほら、今すぐ行きましょう!」
だが、そのタツヤと呼ばれていた人の形をした物体に、反応はない。目があらぬ方向を向き生気が感じられない。揺さぶっていた手を離すと、その場に倒れこむ。
「お、お、オエっ。。。。」
そして、その場でアースホールへと口からキラキラと嘔吐する。
その人影は、もう1つへの死体へと駆け寄り、同じように叩き起こしては、揺さぶりをかけては、目を輝きさせながら話しかける。
「霞さん!どうしたんですか!しっかりしてくださいよ。行きましょう!今すぐにアースホールへ。ベベルは確かにこの場所に来ていました。ベベルだけではありません。セイイチも魔女も、ここに来ていたんです。」
だが、その霞と呼ばれていた人の形をした物体も、反応はない。目があらぬ方向を向き生気が感じられない。揺さぶっていた手を離すと、その場に倒れこむ。
「お、お、オエっ。。。。」
そして、同じく、その場でアースホールへと口からキラキラと嘔吐する。
その背後で、ふと、羽をつけた小さな虫はつぶやく。
「ダメだこりゃ。」
――――
はっ!
と気づき、ふと周りを見る。
そこは、前回に来たことのあるアースホールのほとりだった。確か、そこにはテントのようなものが設置されていて、焚き火のあとがあったはずだった。
ちょうどその跡を利用してか、同じ場所で焚き火がされている。
さすが、地底10万mの世界なのか、焚き火の煙は真っすぐには上に登らず、空間を縦横無尽にまるで竜が空中を這うかのように登っていた。
となりで霞は寝ているようだったが、朱音とアリエルは焚き火にあたりながら暖を取っているようだった。
「気分は良くなりましたか?」
声をかけたのは朱音だ。
そう、思い出した。やめろと言ったはずなのに、アリエルと朱音が、この重力の方向が目まぐるしく変化するこの迷宮を強引に高速で飛行したせいで、グロッキーになっていたのだ。
しばらく休憩したので、とりあえず体調は回復したようだが。。。
「体調は大丈夫だ。。。あんたはあの高速飛行で大丈夫だったのか?」
「あたしは大丈夫です。RGF社の兵でしたから、あれぐらいは日常茶飯事です。慣れています。」
日常茶飯事、慣れてます。。。という回答に、どんだけだよ、RGF社、という思いは込み上げる。
「う、う、、、ん。あと、もう少し、、、」
隣にいる霞も目を覚ましたようだ。ただ、二度寝モードには入ってるが、、、。
そこに朱音は立ち上がる。
「さ、皆さん、目が覚めましたね。そしたら、行きましょう!アースホール。霞さん、ほら、行きましょう。」
朱音は、二度寝に入った霞を揺さぶって叩き起こしている。
朱音はやる気モード全開だ。何があったのかは知らないが、先ほどまで、下向いて元気がなそうであったというのに、何があったのいうのだろうか。
ベベルの手紙を見つけたらしいが、そこから急にスイッチが入ってしまったようだ。
まぁ、元気になってくれて何よりだ。
ただ、自分には、このままこのアースホールに飛び込んでしまっていいのかという葛藤が湧き上がってくる。
前回もあまり深く考えずに、このアースホールへと突っ込んだ。
結果、よくわからないがラビリンスまで無事に転移することは出来た。
そして、霞に過去の姿を見ることもできた。
だが、自分は、あと少しのところでためらってしまった。勇気がなかった。
果たして、このまま飛び込んでも大丈夫なのだろうかという不安、そして、再び、霞の過去の見ることができるのであれば、ちゃんと勇気を出して、真実を受け止めることができるのかという不安、その二つが未だ葛藤している。
「ベベルも、セイイチも、魔女も間違いなくここに来ていたんですよ。ほら、行くしかありませんよ。」
この朱音のやる気モードは止まらない。
まぁ、別にこのアースホールに行くのは構わない。あのとき、俺は霞と一緒についていくと言った。だから、霞は、ここにあるレッドダイヤが目的のようだけども、アースホールに行くというのならば、俺もついていく。
今回は、このアースホールは霞からすれば、ただの寄り道でしかない。
でも、一方で、霞は、俺の好きだった人に、とてつもなく似ている。霞があの人、本人である可能性は十分あるかもしれない。アースホールへ行けば過去からそれを確認することができるはず。
だがもし、もしもだ。全く別人であったならば。。。
勇気を出すといったのに、再び不安がよぎる。
なんて自分は優柔不断なのだろうか。
「ほら、行きますよ!起きてくださいよ。」
朱音やる気モードは二度寝した霞を叩き起こして、何度も揺さぶりをかけていた。




