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123アースホールのほとり(朱音)

 

 例の亡霊は消えました。霞さんが片づけたようです。

 すごいですね。あのアイギスさんですら、対応できなかったというのに。


 あたしは、これまで、挫折というものを知りませんでした。

 あの黒い靄、そこに感じたのは、殺されるかもしれないという恐怖。

 死ぬかもしれないという恐怖。


 あたしはベベルを追うために、RGF社に入りました。そして、まさかのあの優秀な第一調査部隊に配属。超多忙な中で多くの魔獣を倒してきました。常に「常勝」。それこそが、RGF社の理念であり、そこに「負」や「敗」と言った文字を残すことは許されていなかった。それに自分はAランク冒険者。


 ところが、、、初めての敗北、挫折、、、自信がなくなりました。あたしは、このメンバーであたしは最弱です。

 常勝という奢りで、いかに自分が突き動かされていたことか。


 ふと、気づけば、もう、先ほどの崖から対岸に着いてました。さすが、妖精さんですね。

 前回は、先ほどの崖からここまで来るのに数日かかったと聞きましたが、わずか数時間で到着しました。

 確かに、移動中は重力場のかかる向きがころころ変わって凄かったです。三半規管が壊れるかと思ったほどです。でも、この程度、元RGF社時代の訓練に比べれば大したこと、、、ありません。


 出た、、、また、『RGF社』。あたしは何かあればすぐに『元RGF社の』とか言う癖があるようです。このメンバーでは最弱だというのに。。。


「どうよ、任せなさいよ!」


 と妖精さんは自信たっぷりに宙を舞っています。

 一方で、タツヤさんと霞さんは、とてもグロッキーな様子です。


「か、か、霞。生きてるか?」

「え、えぇ、な、なんとか、、、もう、あたし、お嫁にいけない。。。」

「だ、大丈夫だ。そんときは、お、俺が引き取る。」


 どさくさに紛れて、愛の告白がなされているのは気のせいでしょうか。

 しばらく、動けなさそうなので、そっとしておきます。


 仕方がないので、少し下を向きながらも、歩みを進めます。そこに見えてきたのは、大きな穴でした。

 グローリーホールとは違って中を覗くとあらぬ方向へとひねられた構造の大穴。そして、目を細めれば、遥かその先に、虹色のような空間が僅かに見えます。


「アースホールなのです。」

「これがアースホール。。。」


 妖精さんの言葉に、あたしもつい口が出てしまいます。きっと自分が元気であったならば、この穴を前にはしゃいでいたことでしょう。でも、今はそれほどの元気は湧いてきません。


 グローリーホールとは違う巨大な大穴。これが地球の反対側にまで抜ける程の大深度があるという大穴です。

 もちろん、その大穴にも興味は尽きません。

 ですが、タツヤさんから聞いたところによれば、その穴の付近にあるテントのような物。

 そこにベベルの手紙があったと聞いています。


 対岸が見えないほどの巨大な大穴を見渡すとすぐに気づきました。

 大穴のほとりに、確かにテントのような物がある。近づけば、付近には焚き火をしたような後に、ゴミなどが散らかっています。

 それは、まるで、ここに人が住んでいたかのような痕跡を思わせます。


 古い布切れで張られた粗末なテント。中を見れば、こちらもゴミが散乱し、ここで寝泊まりしたのか、古びた茣蓙が敷かれています。


 あたしは、テントの中に入り、散乱したゴミを見つめます。話によれば、ここにベベルの手紙があったらしいです。


 ドクン!


 今はそんな気分ではありません。でも、なぜでしょうか。いつもよりも心臓が力強く鼓動を波打つような気がします。散乱したゴミをそっとよけると、確かに手紙のような紙が数枚、放置されてました。

 最初の一枚をそっと手に取りますが、そこに書かれている文字は、だいぶ古い文字のようです。


 少なくとも、ここ、ラビリンスにいる住人が使える文字ではありません。おそらく過去の文字なのでしょう。

 ですが、あたしには読めます。


 元RGF社の時代、、、はぁ、出た。また『元RGF社』、、、訓練の一つに古代文字を解読する訓練がありました。ラビリンスに広がる大迷宮、そこで鉱物などの資源が発掘されますが、ごくまれに古代の遺物も見つかることがあるからです。

 まぁ、それの意味するところ、この大迷宮は今のラビリンスが出来るよりも前に、過去にもここに辿り着いた先人がいるということ。


 ドクン!ドクン!


 相変わらず、心臓の鼓動が強く打ち付けますが、これは、古い文字、ベベルの手紙ではありませんでした。ですが、内容は気になってしまいます。


 解読には少し時間はかかります。ですが、一応は目を通してみようと思います。


「『憎い、憎い、憎い、憎い! ようやく辿り着いたのだ。確かに魔城はあった。まるで逆さになったかのように聳える尖塔、浮くしいまでの城の姿。そして、ついに俺は出会った。噂されていたバンパイヤに出会ったのだ。銀髪、オッドアイ、そして、美しいほどのドレス姿、あぁ、俺はついに夢にまでみたあのバンパイヤに、ついに我が人生のすべてを投資して、出会ったのだ。それも儂の不死という体になる大いなる夢のため。だが、、、なんだ?あのバンパイヤに出会ったというのに、この俺を完全に無視した。俺は何度も何度も懇願した。不死になるため、血が欲しいと、主張しても、あいつは、まるで俺がその場に存在しないかのように無視をする。何度も懇願し、そして、ようやく口を開いたかといえば、『お前ら人間が歩くときにわざわざ地べたを這う蟻を気にして歩くか?それと同じようにどうして妾が劣等種なんぞ意識して行動しなければならぬ。邪魔じゃ。去ね』と言ったんだ。この儂をそこらの蟻と同じと言うたのだ。その後は完全に無視。まるで空気のようにしか扱われない。そうしている間に、時間は経過した。この地に到着した時点で、すでに高齢の身、いつ最後を迎えてもおかしくない。もし、儂を不死にせずに見殺すというのであれば、せめてお主の手で殺せしてくれ、とも懇願した。じゃが、あいつは、、、あいつは、儂を殺してほしいという儂の願いすら無視した。許せん。この身、滅びようとも、許せん。一体、俺がどれだけの時間をこの長大な洞窟攻略に費やしたと思っているんだ。数えているだけで50年、この巨大な洞窟を見つけ、それ以降、幾度となく挑み続け、ついにこの場所に達することができた。それも不死の体を得んがため。だというのに、許せん!あいつは、俺のことを蟻だと言うた。この儂が弱者じゃ。若かりし頃は、我が一人で亡国の部隊を殲滅させたこの儂が弱者だと言いおる。ふざけるな!この身はまもなく果てるじゃろう。じゃが、この儂を弱者として無視したこと、絶対に許せん。儂は間もなくこの地で身が滅びるじゃろ。だが、儂は弱者ではない!この恨みだけは、決して忘れない。』」


 読んでいて気づきました。

 この手紙を書いたものの正体。たぶん、それは先日、城で襲われたあの黒い靄、亡霊の正体ではと、そう直感で感じ取りました。そして、あたしを襲ったのか。それもなんとなくわかったが気がします。

 あの中で、あたしがもっとも弱者、、、です。

 そう、それもAランクの冒険者であって、優秀と言われていた『元RGF社』の調査部隊として、あたしは完全に浮かれた。どうやら、この手紙を書いた人も同じ境遇なのかもしれません。

 自分は今まで強者であったと思っていたけども、所詮、弱者に過ぎない、、、ということなのでしょう。



 まだ、手元にある手紙は、他にもあります。せっかくです。

 他の手紙を見てみましょう。

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