120弱いということ(朱音)
謎の黒い靄、正体は不明です。さっきまでタツヤさんを攻撃してましたが、どうやらターゲットをあたしに変えたようです。
あたしはいつものように、銃を向け射撃します。RGF社の銃であれば、照準が合えばピーっという音がするのですが、それはあくまで対象が生き物である場合。生き物でないものには音など鳴りません。
すぐに構え、射撃、、、えっ、うそ。
射撃をするよりも前に、いつの間にか、背後を取られます。そして、付近は時間がそこだけが止まったかのようなスローモーションの世界となり、首元に向けて刃が真っすぐに進んできます。
あ、やばい。。。
と思った瞬間、刃は既に自分の首の皮膚へとめり込みます。
キン!
刃と刃がぶつかり合う音。その途端にスローモーションのような感覚は消え、現実の世界へと戻ってきます。
気づけば、タツヤさんが首元の刃をはじいてくれたようでした。首にはうっすらと血が線状の跡として残ります。
あやうく九死に一生を得たところです。
にしても、この黒い靄、というか、亡霊、異常に素早いです。
その後、霞さんが炎、氷、風の魔術を放ちますがこの亡霊にはまったく効果なし。真空の魔術を放ちますが胴体に一瞬だけ空隙できただけで、すぐに戻ります。さらに重力系の魔術なども放ちますが、まったく効果なし。
亡霊はあたしに向かって再び、突進してきます。ですが、それぐらい躱すのは、余裕で、、、
えっ。
躱したはず、、、だというのに、躱した瞬間、亡霊は視界から消え、再び、背後から、あたしの首元へと刃が再び、突きつけられ、、、
えっ。やばい。。。。死ぬ。。。。
キン!
その瞬間、タツヤさんが再び間合いに入り、首元の刃をはじき返してくれました。あと一歩で首が離れるところでした。
その後も、タツヤさんが異常とも思えるスピードで斬撃の連弾を与えます。ですが、相手は黒い靄、ただ空中を切り裂くだけで、なんのダメージも与えられていません。
霞さんも空間魔術でしょうか、空中に黒い穴があいて、突きをしてきた刃の先の空間を別の空間に転送することで、あたしへの攻撃を防いでくれています。
そして、それでもなお、黒い靄の人型は、再び、あたしをターゲットとして、攻めてきます。
なぜ、あたしなのか。
「おい!アイギス!」
タツヤさんが、バンパイヤさんと話をしているようですが、耳にはまったく入りません。
耳に入るよりも、考えるよりも、とにかく相手を攻撃を防ぐことを考えます。
ですが、それでも間に合わない。
銃身を盾に防御に徹します。ですが、明らかに黒い靄のほうが速いのです。
ダメ。。。勝てない。
その度、タツヤさんと霞さんが援護してくれて、何とか繋ぎとめている状態です。その状態が何度も続きます。
はぁ、はぁ、はぁ。
まったく何もできてないというのに、息だけは立派に切れます。
これでもあたしはRGF社の元社員。これぐらい、耐えられ、、、えっ?
キン!
再び、あたしの首を狙われ、そこをタツヤさんに救われます。
あっ。そういうこと。。。ですか。。
なぜ、この黒い靄があたしを狙うのか、、、なんとく気づけた気がします。
アイギスさん、妖精さん、タツヤさん、霞さん、この中で、、、あたしが、、、『一番最弱』だ。。。
あたしはこれでも、RGF社の元社員、それもエリートと呼ばれる第一調査部隊。冒険者もAランク。
今まで様々な困難があった。1000mの崖から突き落とされたり、720時間不眠不休の勤務。
でも、それは自分が勝手に困難であったと主張しただけで、自分の能力からすれば、超えることのできる壁でしかなかった。
今までは蹂躙する側であって、蹂躙される側ではなかった。
今あたしが課されているのは、黒い靄を前に蹂躙される最弱な自分。超えられるとは思えないような高い壁。そこから何度も突き落とされようとしているところを、タツヤさんと霞さんに助けられているだけのただの木偶の坊。
今、初めて超えられない壁にぶち当たってしまったことに気づいた。
今のあたしは、タツヤさんと霞さんに、ただ生かされているだけの、存在意義のないゴミなのだと。
とそこへ、
「ふむ。仕方ないの。別にどうでもいいのじゃが、以前から鬱陶しいとは思っていたのじゃ。」
玉座で突っ伏していたアイギスさんが立ち上がり、タツヤさんが黒い靄を抑えている間、あたしに近づきます。そして、
「助けてほしければ、血を分けよ。ふん、この『劣等種』が。」
「え。」
あたしの脳内に響いたのは『劣等種』という言葉。おそらく、アイギスは人間は『劣等種』という意味で言ったのでしょう。ですが、今、ここにいる自分は、タツヤさんたちに比べれば、明らかな『劣等数』なのです。あたしは、それを宣告されたようなもの。。。
自信がなくなり、ボーッとその場に立ち尽くします。
そこへ、背が小さくて届かないはずなのに、あたしの眼前にアイギスの顔。そして、直後には、あたしの、肩口に牙が突きつけられてました。
ドクン!
その瞬間に心臓が大きく波打ったのです。
そして、あのアイギスと呼ばれていたバンパイヤは明らかに様子が変わっているのが分かります。
背の大きさは変わってません。ですが、アイギスから発せられる気、魔素とでもいうのでしょうか、雰囲気が明らかに違うのです。
それと同時に急に、全身から力が抜け、立つこともできず、あたしは、その場にへたれ座りこみます。
「ふぅ、久しぶりの美味じゃじゃったぞ。」
その黒い靄はアイギスへと向かいます。
「ふ、不死、ふし、ふしをち、血、血、血、ち、ちちちちち。」
あぁ、確かに狂っているのです。
「貴様、以前から我が城をほっつき歩き寄って。鬱陶しいのじゃ。」
アイギスも黒い靄に対して、一歩を踏み出します。
「邪魔じゃ。去ね!」
圧倒的な力の差。
アイギスから発せられる黒色の波動。なんの魔術かはわかりませんが、それが亡霊を包み込みます。
「ふむ。やつは怨念じゃ。魂の根源を消せねば、殺せぬぞ。まぁ、転生していようと『劣等種』なんぞには無理じゃろうがな。かっかっかっ。」
アイギスは、その結果も見ずに玉座へと戻ろうとします。その姿は颯爽としており、まるで王者の風格。
なの、ですが、、、
「おい、アイギス、まったく効いてないぞ。」




