119城に憑りつく亡霊(タツヤ)
翌日のこと。
俺たちは再び玉座のある広間に来ていた。
昨日来たときは、確かに、玉座には誰もいなかった。
代わりにその場で座していたのは、まるで人形のようなアイギス。
アイギスが小さすぎて、まったく玉座との大きさとのバランスが全く取れていない。
きっと元のアイギスが座していたならば、威厳というのもあっただろうが、可愛い過ぎて威厳もない。
薄暗かった広間も、今日はシャンデリアで照らされて、蜘蛛の巣なども綺麗に取り払われている。さすが、小さくてもアイギスがいるとまるで違う。
「おい、虫よ。わかってるじゃろうな。後で報告するのじゃぞ。」
「あら、自分で見に来たらどうよ。」
「ふん、今は生気が足りぬ。アースホールを耐えるにはある程度の生気が必要じゃ。」
はて?俺の見間違いだろうか。
なんだか、やたらにニヤニヤしてないか。あの自称最高血種の姫と言っている奴がだ。
しかも、あれほどまで羽虫を憎んでいたというのに、今日はやたらに仲良くなっているし、話の筋が見えてこない。はて、一体何の話をしている?
まぁ、とにかく、アイギスはこの城に留まるらしい。結局、宝物庫も空だったし、もう、この城に用はない。
俺たちは、さっさと城を出ようじゃないか。
「おい、人間、アースホールに行くのじゃろ。」
声をかけられたので、踵を返せば、小さいくせして、いっちょ前に玉座のひじ掛けに頬杖つきながら話しかけてきた。
「人間、勘違いするな。あれは自然の産物、重力場が集中したことで、過去に発した光がそこに閉じ込められ、空間が歪んでいるだけじゃ。自然の摂理を超越することはできぬ。空間を移動すること、過去の世界を見ることはできても、決して過去には戻れない。それが、アースホールじゃ。」
「あぁ、わかったさ。」
俺たちは玉座を背にして、このホールを後にした。
昨日は、何か枝を折るような音が聞こえた気もしたが、きっとアイギスがアリエルを捕まえるために、近くにいたのだろう。
俺たちは、昨日の幽霊騒ぎを話題にしながらも、このホールを後にするのだった。
が、、、
。。。
「!」
殺気!
キン!
振り返様に、即座に抜刀する。
何が起きたのはまったく把握できない。まず、把握できたのは、刀と刀がぶつかり合う音。
霞も殺気に反応し、相手へと風と炎の魔術を吹き付けるが効果はわからない。
刀との鍔競り合いをしながらも、ゆっくりと顔を上げて相手を見る。
そこにいたのは、果て?人間?、いや、それはどう見ても人間ではない何か。黒い靄が人型となって刀を持ち、俺と鍔競り合いをしている。
追撃で霞が真空で空間を切り裂く魔術を放った。真空は黒い靄を切り裂くが、まるで空気を切り裂くように靄はすぐ戻る。
俺は、奥の玉座に未だ優雅に座しているアイギスに向かって大声で叫ぶ。
「おい、アイギス!こいつは何だ!」
「あぁ、城でたまに見かける奴じゃ。まるで城に湧いたように、たま~に出てくるんじゃがの。」
とアイギスは、自分は関係ありません、というような感じで返答してくるが、その間にも、刀を持った黒い靄は、二撃目、三撃目と連撃をしてくる。
キン!キン!
その度に俺も刀で防戦するも、連撃の合間をついて、瞬時に相手の背後にまわ、、、あ?
キン!
悪いが、移動の速度には自信がある。転生しているうちに昇華したようで、ある転生した時代には、「縮地」とか呼ばれていたほど。
だが、こいつは何だ?俺の移動速度に追従し、俺の背後からの攻撃を防ぎやがった。
なるほど、、、舐めて相手にできるほど容易い相手ではないことはわかった。
黒い靄はそのまま俺を相手にするかと思ったが、次は朱音に照準を合わせたようだ。
刀を突きの構えで、朱音へと突進、、、いや、速い。
俺の直感がヤバいと伝える。俺も全速力で移動し、刀の刃が朱音の首筋に触れたあたりで、黒い靄の刀をはじく。
キン!
その後も黒い靄は朱音をターゲットに選んだか、朱音を狙って連撃する。
朱音は射撃で対抗しようとするも、黒い靄の速度にはついてこれない。それに、銃は近接戦で不利すぎる。せいぜい銃身で護身をとるぐらしかできない。
「おい、アイギス、たまに見かけるなら、あんたいつもどうしてるんだ?」
「無視しておる。ただ、妾もこうも攻撃的なのは初めて見たのぉ。いつも、少しは理性が残って、『血をくれ』、とか言うだけじゃが。まぁ、以前から鬱陶しいとは思ってはいたのじゃ。いずれ始末しようとは思っていたがの。」
と、朱音を黒い靄からなんとか守りながらも、アイギスと会話を続ける。
「少しだけ理性が残って」か、、、いや、理性が残っているようにはまったく見えないのだが。。。
理性があるようには見えないし、何せ物理攻撃が効かない。霞も炎、風、雷、水、氷といった属性魔術はもちろん、さきほどから重力魔術や、暗黒魔術などの強力な魔術も浴びせているが、効果は見えない。
「おい、止まれ!、いったん落ち着け!」
と一応は、声をかけてみたが、止まる気配なく朱音を攻め続ける。やはり会話が通じる相手ではない。ある意味、こいつはアイギス以上に厄介かもしれない。
ふと、あの羽虫はどこだと見まわすヒマもないが、頭上の安全なところで飛び回っていることが確認できる。
「おい。虫!少しは援護しろ。」
「もういいですけど、虫じゃなくて妖精なのです。昔、バンパイヤを研究していたので、話で聞いたことがあるのです。バンパイヤの血を飲めば、バンパイヤになれると。」
「ほー、そういえば思い出しぞ。虫よ。確かに昔にそん奴がいたの。『俺を不死しろ』だとか。まったくふざけたことよ。この最高血種がどうして劣等種の人間などの言うことなど聞くか。野垂れ死んだと思っておったが、怨念となっているというわけじゃな。」
「おそらく、その怨念が、繰り返し繰り返し湧くことで、転生を繰り返したタツヤたちと同じく、異常なほどに力をつけたのです。」
なるほど、そういうことか。バンパイアになることを望んだが、結局バンパイヤになれなかったなれの果て。
その怨念だけが、この城に憑りついたというのだろうか。
「ねぇ、そ、それって、つまりは、幽霊じゃん!勘弁してよ。もう。」
霞は、魔術が効かないとわかった今、その怨念から朱音へと突き出させれる素早い突きを、空間魔術で転送し、朱音に当たらないようにしている。ただ、霞は幽霊が苦手なようだ。




