107グローリーホールの底へ(タツヤ)
今は、とんでもないものを見てしまった気がする。
だって、目の前で、一緒に行かせてください、と言っているキレイな女の子に向けて、猛獣のようなオッサンが、突進してきて、会社を辞させないだとか、告発するだの、賠償しろだの、告訴するだの、挙句の果てに、武力行使で魔術や小銃で銃撃している。
自分も転生を繰り返す前は、ブラックと呼ばれた会社にいたのかもしれない。だが、これを見る限りあまりにブラックすぎて、自分にいた会社がホワイトな企業に見えてしまった。
そして、武力行使だ。銃撃をしてまで従業員を働かせるブラックっぷりもすごいが、この朱音という兵士が、飛び交う銃弾をめがけて銃撃でそれを止めるという、とてもつもない荒業にポカンと口が開いてしまっていた。
そして、銃弾に魔力を込めて、撃つというスタイルも、これまで転生してきたなかでも、初めて見た戦闘スタイルなのだ。
そして、ポカンと霞と並んでその様子を見ていたわけだが、、、
「さぁ、行きましょう。グローリーホールの底へ。」
と朱音は笑顔で俺に話しかける。
だが、その背後で、
「あ~~か~~ね~~!!!」
と、殺意に燃える朱音の猛獣のような上司と、その兵士たちがこちらへと襲ってきているのだ。
パンパンパン、ズドンズドンズドン
と、銃撃、魔術が朱音だけでなく、うちらにも目がけて嵐のように撃ち込まれる。
「お、おい、ちょっと待て!うちらを巻き込むな!」
「う、嘘でしょ!」
とにかく、霞を引きつれてとにかく逃げ出す。
「おい、アリエルいるか??」
「任せなさいなのです。いつでも飛び込んで大丈夫なのです。」
どこに言えるかと思えば、自分は飛べるからと、銃撃、魔術の嵐から離れた遥か俺たちの頭上で高みの見物をしてやがる。
まぁ、いい。
とにかく、この場をしのぐしかない。
俺たちは目の前にぽっかりと開いた真っ黒な大穴に目がけて全力疾走する。
真っ黒な大穴の淵が目前に迫ってくる。
いつもならば、その淵で踏みとどまったのかもしれない。だけど、俺たちは一度、この淵を飛び越えているんだ。
それに、この銃撃と魔術の嵐、踏みとどまっていられるほど、うちらに悠長はない。
「霞、いいか?」
「えぇ、大丈夫よ。」
俺と霞は、その大穴の淵を飛び越える。突然、体がふわっと浮いたと思えば、体が自由落下をし始めた。
俺は態勢を立て直し、穴の入り口のほうを確認すると、あの朱音も、この穴に飛び込んだようだ。
「ぁぁぁぁぁああ!」
朱音は悲鳴とも思える声をあげている。
「おい、アリエル、頼むぞ。」
「ほいさー。」
と、ふと気づけが、透明な薄い膜が球状に形成され、その中に俺と霞、朱音とアリエルが包まれていた。
アリエルの魔術だ。
「ぁぁぁぁぁあああああああああああ!死ぬぅぅぅぅぅ!」
朱音はこの膜に包まれても、なお、悲鳴をあげている。
「おい、落ち着け」
「あああぁぁぁぁ、あ、あ、、、、あ、、あれ?」
「あんた、周りをよく見るのです。このアリエル様の魔術のおかげで宙に浮いているのです。プー、クスクス、『死ぬ―』ですって。どっかの誰かと同じなのです。」
「おい、アリエル、少し黙ってようか。」
朱音は、周囲をキョロキョロとする。
「アリエルの魔術だ。おい、アリエル、どこかに足場でいったん休憩しよう。」
「了解なのです。」
そうしているうちに、グローリーホールの大穴の壁に足場が見えてきた。前回も利用した足場だろう。いったん、そこで休憩し、呼吸を整える。
さすがに、ここまで、あの朱音の上司たちも追っては来れないだろう。上を見れば、真っ暗な風景の中に、ぽっかりと、頭上のグローリーホールの入り口だけが点のように提灯虫が照らす明かりが漏れていた。
「それにしても、あんたの上司は凄いな。」
「あれが普通なんです。あの会社は一度入ったら最後、辞めることは出来ないんですよ。」
ところで、今回はどうやってこの穴を攻略するかだが、作戦は前回と同じだ。
グローリーホールには、一定の深さの毎に、足場が設けられている。だから、この足場の度に休憩し、アリエルに生気を与えることで、アリエルの魔力を補充するという作戦だ。そして、アリエルの魔術で降下を繰り返すというもの。
まぁ、当然、誰が、アリエルに生気を分けるかということになるのだが、俺たちは既に経験済みで、新入りが一人ここにいるのだ。
となれば、解決したも当然だ。
「へっ??」
朱音はまだよくわかってないらしい。だけど、これも、この仲間でやっていくからには、避けては通れない道なのだ。そう思いながらも、泣く泣く、アリエルには、朱音を引き渡す。
いやぁ、申し訳ない。
「おい、アリエル。朱音から生気を分けてもらえ。」
「いや~、こんなに生気もらっちゃっていいんですかね?」
「いいか、何回も言っているが、必要な分だけだぞ、ちょっとだけだぞ。」
「それでは、生気をいただきます!」
アリエルは朱音の指先に食らいつく。
「。。。」
しばらくの沈黙が続き、
「ぷは~、ごちそうさまです。」
と、朱音は表示一つ変えずにいた。
「あ、あの、朱音さん??大丈夫でしたか?」
「ふむ。特に、大丈夫ですが。何か。」
「えっ、なんか、最初は気持ちいいのだけど、そのあと、生命を持ってかれるような感触なかったですか?」
「そう言われれば、最初は気持ちいいという感触がして、そのあと体内の気を持ってかれる感じはしましたね。」
「えっ、大丈夫でしたか?」「えっ、大丈夫なんですか?」
俺も、霞も、あのアリエルの生気の吸うやつに、何一つ表情を変えない朱音に驚きを隠し得ない。
「大丈夫ですよ。というか、それぐらい耐えられないと、720時間徹夜とかできませんので。。。」
その言葉を聞いて、俺も霞もドン引きしたことは間違いない。




