第29話 3/28 ツメヅメ
3/28(土)
昨日は会社の送別会の帰り、元婚約者ユーイチと遭遇してしまい、相当罵倒されてしまった。その時はわりとショックだったけど、眠って目が覚めたらわりとどうでも良くなっていた。
「もう少し、見る目を養わないといけないな……」
とはいえ、昔のユーイチはもっと謙虚で優しかったように思う。
弁護士になってから、色々と交友関係が拡がって、きっと自分とは違う世界の住民になってしまったのだろう。
それこそ、お金を得たことで人が変わってしまったのかもしれないな、なんて思う。
「私もこれからは、貯金をしながら洋服を買っていくって決めた」
そう言えば、今日はトウヤ君に返事をする予定の日だった。
どうしてだか、彼への返事を考えていたら、課長の顔が頭に浮かんだ。
最近、どうも気になって仕方がない……。
まさかハツミさんという彼女がいるかもしれない相手が気になってしまうなんて、よろしくない。
だけど今のまま、もやもやした調子でトウヤ君と付き合うのは失礼な気がした。
「トウヤ君ごめんね」
人を者扱いするのは失礼な話だが、最優良物件とも言えるトウヤ君との交際をお断りすることにしたのだった。
本当は電話じゃなくて、直接会って断りたかったのだが、トウヤ君から電話だとダメージが少ないからと言われて電話にしたのだった。
スマホの画面を見る。
自分が振ったはずなのに、なぜかしょんぼりしてしまった。
気を取り直すためにベランダに出たら、ちょうど隣に課長が見えた。
「昼間から、ビール飲んでて、ちょっとひきました」
うっかり素直に思ったことを口にしてしまった。
普段なら叱られそうなところだが、課長は笑っていた。
そして、ちょっと勇気を出して聞いてみた。
「課長は、ハツミさんとはどうなんですか?」
「ハツミ? お前はなんでハツミを知ってるんだっけ?」
「この間、電話で……」
もにょもにょ小声で告げると、課長から返答があった。
「ハツミは、弟だよ」
なんと弟さんの名前だったのか。意外だった。
課長の弟が、今度「十一月二十九日」と書いて「ツメヅメ」という友達さんの結婚式で余興をするから、その相談を受けてたんだって。
そっか、と思って、少しだけ安心してしまった。
あれ? あれあれ?
「そうだ、明日ドライブ行かないか?」
突然課長からデートに誘われたぞ。
なんだかこれは良い予感???




