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今回から新章です!勇者の新しい仲間?の日常です!
一体、何を間違ってしまったのか。
何が引き金になったのか、俺にもわからない。
今となっては後悔することしかできないが、あえて言うなら、時期が悪かった。
最近のホーリアは、日中は過ごしやすい暖かさだが、夜と明け方は冷え込んで、外套なしでは外を歩けないくらいの寒暖差がある。条件はそろっていた。
しかし、俺はこの世界に生まれて十数年経っているから、季節は言い訳にならない。
それに、勇者といえども、自然現象に逆らって魔術で天気を変えるのは査問案件だから、これに関しては仕方がない。
糾弾する気はさらさらないが、続けてあえて言うなら、最近コルダと一緒に寝ていた。
コルダが仲間になった翌日の夜中、「こんなにボロい洋館で1人で寝るなんて、怖いのだー!」と言って、勝手に俺の布団の中に入ってきたからだ。
白銀種の女の子が同じ布団に潜り込んできた時は、法律的にピンチだと思った。白銀種と同じ布団で寝ていたと獣人の保護団体に知られたら、どんな言い訳も通らない。俺は朝まで、ベッドの端で直立不動の姿勢を保って眠れなかった。
しかし、尻尾を抱えて丸まって、ぷーぷー寝ているコルダを見ていたら、俺の警戒心は1日しか持たなかった。
犬が勝手に入ってくるのと同じだ。もちろん、獣人のコルダを動物扱いしているわけではないが。
最近は毎日、コルダは夜になると、ぬいぐるみを片手に俺の部屋に勝手に入ってきて、朝まで同じ布団で寝ている。
俺は人と一緒に寝るのが初めてで、こんなものだろうと思っていたが、どうも獣人のコルダは体温が高いらしい。
もこもこの毛だらけのマグマに追い詰められる悪夢が続いて、妙だと思っていた。
気付かない間に布団を蹴り飛ばしていて、明け方に凍えて目が覚めていて、不思議だった。
そして、俺は見事に風邪を引いた。
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風邪を引いたから今日は休むとニーアに伝えると、「またお得意のサボりか」と言いたげな顔をした。
本当に風邪を引いたんだと、体温計で熱を測ってみせたら、それ以上に落胆した顔をしてみせた。
「勇者って、風邪引くんだ……」
期待外れもいいところだとニーアは呟いたが、ベッドに寝ている俺が一応病人だと思い出して、慌てて濡れタオルを俺の額に乗せる。
「あの、勇者って頑丈なイメージがあったので!季節の変わり目に普通に風邪を引くんだなぁと、驚いてしまいました」
「コルダのせいなのだ……」
コルダは俺の上に馬乗りになって、「勇者様、死なないでなのだー」と言いながら、肉球の付いた手で俺の顔をぺちぺち叩いている。大した風邪じゃないけれど、怪力のコルダに叩かれると、脳みそが揺すぶられて意識が飛びそうになるから、やめてほしい。
「コルダさんのせいじゃないですよ。嫌なら、勇者様が部屋の鍵をかけておけばよかったんです」
「うーん……客観的にみると、コルダもそう思うのだ。2:8くらいで勇者様が悪いと思うのだ」
コルダはしれっと被害者面をしてみせたが、獣人のコルダには物理的な鍵などあってないようなものだから、初日にドアノブごと壊された。いくら修理をしても、コルダが当然のように鍵を壊して入ってくるから、諦めて開けたままにしている。1:9でコルダが悪い。
「それに、男女が一緒に寝るなんてよくないですよ。リリーナさんが、コルダさんと一緒に寝てあげたらどうですか?」
皆が集まっているから、お菓子でも食べているのかと思って俺の部屋に来たリリーナは、お茶の時間ではないと気付いて、暇そうに俺の部屋の本を読み散らかしていた。
ニーアに言われて、リリーナは不機嫌そうに白い眉を寄せて、本を放り投げる。
「はぁ?なんであたしが、そんな毛むくじゃらをベッドに入れないといけないのよ」
「獣人差別なのだぁ……今後リリーナとの会話は、記録を残させてもらうのだ……」
コルダがいつもの調子で言ったが、声に元気はない。2割は責任を感じているらしく、俺の顔を肉球でぽにゅんぽにゅんと叩き続けている。
「リリーナさん、勇者様を魔術で治してくれませんか?」
「えぇー……」
リリーナは、コルダに続いて俺の上に乗って、体温計を俺から奪い取った。数字を確認すると、ぽいっと床に投げ捨てる。
リリーナの部屋に入ったことはないが、たぶん床に物が散らばっていて、足の踏み場もないくらいだと思う。この様子だと、早く対処しなければ、事務所の床が抜ける。
「だって、ただの風邪でしょ?別に高熱ってほどでもないし。怪我なら始点がはっきりしてるから簡単なんだけど、風邪はねぇ……」
「リリーナさんでも、治せませんか?」
ニーアにそう言われて、モベドス卒のリリーナのプライドが黙っていられなかったらしい。俺の上に乗ったまま、やれやれとニーアの無知に呆れるようにため息をついて、足を組んだ。
いつものぶかぶかのスウェットの裾から、素足が出ている。俺が言うことではないが、そんな格好で病人の部屋にいたら、リリーナが風邪をひくのも時間の問題だ。
「魔術を学ぶときに忘れちゃいけないのは、人間は魔法がかかっていない状態が最良ってこと」
「つまり……魔術に頼り切っちゃ駄目ってことですか?」
「そう。白魔術は、悪くなったものを戻す『治癒と復元』の魔術。人間は、病気でもないし怪我もしてない、魔法もかかってない普通の状態が最良なの。だから、寝てれば勝手に治るレベルの病気には、わざわざ魔術は使わないの」
「万能でも、無闇に使っちゃダメなんですね……」
リリーナが俺の上で偉そうに語ったことに、魔術を学んだことがないニーアは感心していた。
しかし、「食べすぎたけど、魔術で脂肪を除去すればセーフ」とか言いながら、夜中にホールケーキを食らっているリリーナを時々見るから、モベドスの教えがどこまでリリーナに残っているかは疑わしい。
「リリーナさん、ニーアに魔術を教えてください!」
ニーアがベッドの上に乗って、リリーナの両手を握りしめた。
リリーナはニーアの勢いに気圧されて、さっきまでの威勢が消え失せて口ごもる。
ホーリアに住んでいるリリーナは、ニーアが魔術を使えないことを知っているし、勇者に憧れていながら、それで諦めたことも薄々気付いているはずだ。
しかし、ニーアは負けずにリリーナに詰め寄って、4人乗って限界が近い俺のベッドが、嫌な音を立てて軋んだ。
「使えなくても、勇者が知っていることを、ニーアも知りたいんです!」
ニーアの純粋で情熱のこもった瞳で見つめられて、リリーナは調子を取り戻して、ニーアの手を握り返した。
「まあ、いいけど。あたしは厳しいからね」
「はい!」
ニーアが優等生の返事をして、リリーナは気分をよくして、胸を張ってふふんと満足そうに笑った。
引きこもりのリリーナは、ニーアに頼り切っているように見えていたから、これを機に互いの長所を認め合って、個々の成長につなげてほしい。仲間が絆を深めていくのは、勇者の俺としても歓迎すべきことだ。
それはそうとして、そろそろ俺を寝かせてほしい。
俺はニーアとリリーナを部屋から押し出して、俺の上でぐずぐず泣いていたコルダを放り出して、やっとスペースが空いたベッドに倒れた。
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