↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元公務員が異世界転生して辺境の勇者になったけど魔獣が13倍出現するブラック地区だから共生を目指すことにした  作者: 甘酢ニノ
第2話 勇者、分業制を提案する

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/34

〜3〜

 この世界の「魔法」と「魔術」は、どちらも魔力を使う技だが、難易度が違う。


 魔法は、魔力さえ持っていれば、誰でも使える技。

 数学にたとえるなら、足し算や掛け算といった四則演算にあたる。

 日常生活を送るうえで知っておいたほうが便利な、物を浮かせたり、くっつけたり、ぶつけたりする程度のものが多い。

 魔術は、術式という数式を組み立てて発動する、専門的で高度な技だ。

 数学にたとえるなら、Σとか∫とかが出てくる世界。数字よりも記号が多くなり、「これって社会に出ても使わなくね?」とついていけなくなって脱落する者がほとんどで、才能と訓練のある限られた人間だけが習得できる。


 魔法剣士のニーアは、剣術に加えて一般的な魔法を使えるから、魔法使いでもある。

 魔術師になるには、そこからさらに専門的に学び、治癒と復元の白魔術か、破壊と災厄の黒魔術か、進む方向を選ぶ。


 俺は勇者だから、黒でも白でも、巷の魔術師と同じレベルには達している。

 ニーアが言うように、家の修理も怪我人の治療も俺が自分でやれば早い。

 だが、白魔術師がいるとクリーンなイメージを持ってもらえるので、勇者のパーティーに1人は雇用したほうがいい、というのが、養成学校で言い伝えられている教えだ。


 +++++


「来ませんねぇ……」


 屋根の修理を終えて会議室に着いてから、ずっと姿勢よく座っていたニーアは、退屈に押し潰されたような声を出した。

 市庁舎1階の会議室。ドアの真正面に置いた長机に俺とニーアが並んで座り、その正面に1つ、志望者用の椅子を出している。

 今日で3日目、まだ誰もそこに腰掛けていない。


 俺は前世で、似たような受付仕事を押し付けられる機会が多かった。休日出勤してくれる使い勝手の良い奴なら、馬鹿でも務まるからだ。

 こういう時の時間の潰し方は慣れている。周りからサボっていると思われないように、姿勢だけ固めて、手元の資料に目線を落とし、頭の中で人生の些細な疑問、たとえば庭から石油が出たらどうやって大家から隠すか、などを考えられるようになれば楽勝だ。

 しかし、今は俺の仕事ぶりに目を光らせている市民はいない。机に手入れ道具を広げて、剣の整備をしていた。


「採用は、どうやって決めるんですか?」


 ニーアはさっきから、ちらちらと横目で俺の剣を気にしている。

 生体認証機能が付いていて、本人以外が握ると暴走するから勝手に触るな、とニーアに釘を刺しているが、「そうなんですね」と棒読みで返されたから、おそらく嘘だとバレている。


「筆記試験、集団面接2回、最後に個人面接」

「現時点で志望者ゼロなので、そこまで絞る必要ないと思います」


 ニーアは大きなため息と一緒にそう言った。

 しかし、俺が屋根を修理した礼に、ニーアの同期のウラガノが知り合いに声をかけてみると言っていた。

 ニーアが言うには、ウラガノは最(・)近(・)引っ越してきて、8年ほどホーリアに住んでいるらしい。

 ホーリアは、住民同士が皆顔見知りの小さな街だ。白魔術師の1人や2人、知り合いにいるだろう。

 関係ないが、8年を最近と言い表すニーアの土着の思考回路は、俺の前世の職を思い出すから、なんとなく嫌だ。


「白魔術師なら誰でもいいですか?」

「素行が悪いのはダメだ。服装が乱れてるのとか、派手な髪色してるのとか」

「派手な髪色、とは?」

「……」


 光が当たると宝石のように透き通って見える赤毛のニーアが、首を傾げる。

 この世界の人間は、12色の色鉛筆では間に合わないくらい、カラフルで鮮やかな髪や肌をしている。

 それでも、地毛が好きな色と違うから染めている奴もいて、一般的に正しいと言える髪色が分からない。

 人権侵害だとか騒がれると厄介だから、それに関しては前世の就活マナーを忘れることにした。


「あとは、言葉遣いとかだ」

「なるほど」


 ニーアは頷いて、俺の採用方針に一応納得したらしい。


 俺は人事の経験がなく、前世の就職活動では落とされてばかりだったから、採用試験には少し興味がある。

 どんな相手からも長所を見つけ出し、将来性を見抜くのが、「人を見る目がある」ということだ。

 だから、俺は訴訟一歩手前の圧迫面接や、「自分を動物に例えると?」なんて暇な休み時間の心理テストのような質問はしない。

 規定の人数を埋めるために選ぶのではない。俺の信念に本気でついてきてくれる奴を、社会から見つける。それが採用試験だ。


 まあ、しかし、受験者が誰もいないから、そんなに熱くなっても仕方ないが。


「勇者様、もしかして、誰も来なくてもいいとか、考えていませんか?」


 俺が読み捨てた魔術書をめくっていたニーアが、静かに尋ねてきた。


「事務所にいるより、仲間を集めているふりをしているほうが、仕事をしているとアピールできるから、無駄だと分かっていてやっていませんか?」


 沈黙が会議室の時を止める。

 剣を磨く俺の手も、電撃を浴びたように固まった。

 この不自然に空いてしまった間を埋めるために、何か言わなくては。


「ニーア」

「はい」

「ニーアは、本当に優秀だな」

「どうして、今、褒めたんですか?」


 ニーアの緑の目が、俺を横から貫いてくる。喉を食いちぎろうと狙う蛇のような視線に耐えて、剣の整備を続けようとした。


「失礼します」


 その時、俺を救うかのように、会議室の入り口から1人の女の子が顔を覗かせた。


 真っ白の長い髪を、後ろでまとめて1つに結わえている。

 髪型、合格。

 しわのないジャケットと、膝下丈のタイトスカート。色はどちらも白だが、俺の記憶にあるリクルートスーツのような服を着ている。

 服装、合格。


 会議室に俺とニーアしかいないのを見て、少し不安そうな表情を浮かべつつも、深くお辞儀をしてから中に入り、俺とニーアに書類を一枚差し出した。


「採用試験の会場は、ここで間違いないですか?」


 手書きの履歴書、合格。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。