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元公務員が異世界転生して辺境の勇者になったけど魔獣が13倍出現するブラック地区だから共生を目指すことにした  作者: 甘酢ニノ
第2話 勇者、分業制を提案する

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〜2〜

 採用試験をしたいから、会場を貸してくれ。


 副市長にそう言うと、引きつった顔で「今度は何を企んでいるんだ……?」と呟かれた。


 そのくだりは、もうやっただろうが。


 +++++


 そうして副市長は、市庁舎の中の会議室を快く貸してくれた。

 一昨日から街に求人ポスターを貼って待っているが、今のところ収穫はない。


「今日こそ、誰か来てくれますかね……」


 事務所から市庁舎に向かう途中、ニーアは街の壁に貼った求人ポスターを見て、ため息をついた。

 地元の人間と長期滞在する観光客が利用する商店が並ぶ1番街や2番街に貼ったから、人目にはついているはずだ。


 『勇者と一緒に働く仲間を募集しています』と太字で書いたポスターには、具体的な仕事内容は書いていない。俺の職務放棄の後始末が主な仕事だから、書かないほうが正解だ。

 この世界には、ワードアートもフリーいらすとの素材サイトもない。

 前世の仕事で散々使っていたから、何の思い入れもないけれど、心に隙間が空いたような寂しさがある。

 代わりにニーアがポスターに描いたイラストは可愛いが、俺に似ても似つかない筋骨隆々の人物は、一体誰だろう。


「ポスターに白魔術師限定って書いたのが悪かったんですかね?黒魔術師もたくさんいますから」

「黒魔術師に来られてもな」

「でも、頼めば転向してくれたりしますよ」

「まあ、そうだけど」


 魔術師は、能力の高さゆえ、頭が固くてプライドが高い奴が多い。

 だから白魔術師と黒魔術師は、互いの主義を否定して殺伐としている、とよく勘違いされるが、別にそうでもない。ウィンタースポーツはスキーかスノボかくらいの、好みの問題だと思う。

 ただ、黒魔術のほうが、人の死や世界を破滅させる方法に少しだけ直接的だ。

 だから養成学校では、黒魔術を専攻すると、倫理観の授業とか精神鑑定がついてくる。俺はそれが面倒くさいから白魔術師を選択した。


「今日も誰も来なかったら、『黒白問わず』って書き直してもいいですか?」


 ニーアに聞かれて、ニーアが作ったポスターだから好きにしてくれ、と俺は頷いた。


「ついでに、『※履歴書持参』っていうの消していいですか?」


 それは必要だ。俺は就活でどれだけ苦しめられたことか。

 俺の前世のとある国で、手書きの履歴書がいまだに根付いている理由を語ろうとしたが、上から「ニーア」と呼ぶ声が聞こえて、ニーアは背後の商店の屋根の上を見上げた。


「何してんだ?」


「あ、お疲れ様です」


 2階建ての建物の屋根の上に、市の作業着を着た男が立っている。

 はしごを使って地面に下りてくると、俺を見て「おお、勇者だ」と小声で言った。


「市職員のウラガノです。ニーアの同期の。どうも、よろしく」


 こいつが副市長の手先の可能性があるが、ニーアより少し年上くらいの若い職員だから、大した権力は持っていないはずだ。俺は差し出されたウラガノの右手を握り返した。

 ウラガノは俺から手を離すと、ニーアに顔を寄せて、俺に聞こえないように囁く。


「……勇者って、案外普通だな」

「街付の勇者は、見た目はそんなに厳つくないですよ」

「でもニーア、『なんか違くない?』とか言ってただろ」

「しっ!馬鹿……ッ!……それで!上で何やってたんですか?」

「ああ、あの屋根の修理」


 ニーアに尋ねられて、ウラガノは今まで登っていた屋根を指差す。

 屋根の下に『肉屋』の看板が掛かっていて、店先に商品が並んでいて、間違いなく肉屋だ。

 だからどうというわけではないが、俺は顔が見えないように、着ていたマントのフードを深くかぶって、ニーアの後ろに隠れた。


「魔獣に壊されたんだってさ。ここの主人は修理に失敗して足を怪我したから、頼まれたんだよ」


 前に市内放送で、そんな微笑ましいエピソードを聞いたが、あれは肉屋の主人のことだったのか。

 魔獣に襲われるし、足は怪我をするし、踏んだり蹴ったりで、さすがに哀れだ。

 しかし、噂によると、俺をあんなに恨んでいるのは「勇者が来るなら魔獣を討伐するから、商品が増えて店の売り上げがアップ!!」と勝手に期待して、店を増築して負債を抱えたからだと言う。

 見通しの甘い肉屋が悪い。


「とりあえず雨漏りだけなんとかしようと思ったんだけど、俺じゃうまくいかなくてさぁ」

「あー……派手に壊れてますねぇ……」

「店の主人が魔獣と屋根の上で格闘したんだって。大工に頼んでも、しばらく忙しいから無理って言われるし」

「うーん……あそこまで壊れてると、私の魔法でもちょっと難しいです」

「だよな、呼び止めて悪かったよ……あ、もしかして、勇者様なら、これぐらい簡単にできる感じですか?」


 ちょっとした興味から聞いてみました、といった様子でウラガノに話を振られて、俺は聞こえないふりをした。


 俺の魔術なら、屋根の修理どころか新築に建て替えることだって可能だが、この状況で「簡単にできますが、俺はやらないから頑張ってください」と立ち去れるはずがない。

 だからといって、一度引き受けてしまうと、屋根の修理が勇者の仕事だと市民に思われてしまう。

 1番街の誰々が「他の家の屋根を修理していたのに、私の家はやってくれない。市民対応に差が生じているのではないでしょうか?」と市内放送に投書するのも、時間の問題だ。


 白魔術師が仲間になったら、いくらでもそいつがやってくれる。

 早く採用試験会場に向かおうとしたが、俺が頼んでもいないのに、ニーアが胸を張って代わりに答えてしまった。


「当たり前じゃないですか。だって勇者様ですよ!その程度、朝飯前です!」


 ニーアの瞳は一点の曇りもない。悪意がない分、断りづらい。

 そしてウラガノは、待ってましたとばかりに「それなら、ま、頼んますわ」と片手を上げて軽く頭を下げて、俺にはしごまでの道を空けてくれた。


 俺はやるなんて言ってないし、俺を嫌っている市民のために労力を割きたくない。

 が、それを街中で公言できるほど馬鹿ではない。

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