第3話 ベテランS級冒険者
アオルは冒険者ギルドに来ていた。
ギルド内では様々なタイプの冒険者が昼間から数多く居た。
大半はエントランスの脇にあるテーブル席で談笑しているか、クエストボード前で依頼書を眺めているかだ。
アオルの姿はそのどちらにも見当たらず受付のカウンター越しにギルド職員の女性と話をしていた。
「─それともう一つお願いがあるのですが」
「別のご依頼ですか?」
「いえ、"夢馬"が今どんな依頼を受注しているのか知りたいのですよ」
ギルド職員の女性は口を開いたものの、アオルのベストに飾っている星型のクリスタルバッジをチラリと見て出掛かった言葉を一旦飲みこんで、声を落として話始めた。
「…黒竜の魔石の納品依頼を受注中です」
「そうですか、ありがとう」
アオルはお礼を言って冒険者ギルドを出た。
「黒灰山の山頂ダンジョンだとさ」
アオルは足元を見ながら呟くようにそう言うと、遥か先に小さく見える黒い山の方へと向かったのだった。
♢♢♢
ダンジョンの内部は様々だった。
洞窟風の階層もあれば、石材と思わしき材質で造られた迷路もあるし、山の内部のダンジョンだというのに草原と青空の階層もあった。
アオルが地下20階層に到着すると、剣と魔法の戦闘音と人の声を聞いた。
銀色の金属みたいな蔦を無数に集めて作ったような通路を進み、音の方へと向かう。
そこには5人の冒険者が居た。
モンスターと戦闘を終えたらしく、武器を仕舞って解体道具を取り出し、熊の様な死体から素材の剥ぎ取りをしていた。
見かけた瞬間からアオルは笑顔になりハイテンションで冒険者達に声を掛けた。
「うぇ~い!やってんねぇ!」
冒険者達は解体作業と次の戦闘準備の手を止めずにそれぞれの顔を伺う。
「…誰か知り合い?」
金の差し色が入った黒い鎧と真紅のマントを着た無精ひげの男が他のメンバーに聞くも、他4人の女冒険者は首を横に振っただけだ。
アオルは気にせずグイグイ声を掛ける。
「あっれぇ~、S級冒険者パーティ"夢馬"の皆さんって男1女4なんすか?」
黒鎧の男が肩をすくめる。
「何が言いたのかな?」
「チーレムじゃないっすかぁ!!」
アオルはわざと寄り目にして手をバタバタさせてみせた。
「君は誰なんだ?冷やかす為にわざわざここまで来たのか?」
アオルはオーバーリアクションを止めて自身が着ている茶色いベストの左胸部分を指差した。
「調停局のアオルで~っす」
黒鎧の男は驚いた様子でアオルの指差す箇所を見つめている。
そこには調停官の証、星型のクリスタルバッジがあった。
「なっ、何故だっ!5年前に転生検査をしただろうっ!私が転生者じゃないことは証明されたはずだ!!」
「あれは暫定措置的な対応っすよ。影響力が強くて可能性の高い対象を先に潰そうとしただけっすね。B級以上の冒険者を対象にした鑑定スキルによる転生者の判別だったっす」
「私はちゃんとギルド指定の鑑定士による検査を受け問題無しの判定だったんだぞ!」
「あれって隠蔽スキル持ってたら意味無いんすよ、それぐらい知ってるっしょ?」
「ぐっ…だ、だとしても急過ぎる!前もって連絡してくれないと!今クエスト中なんだぞっ!!」
「抜き打ちチェックっすよ。クエストはそのまま進めて大丈夫っす見届けますから」
「付いてくる気か?」
「監視でね」
「チッ…死んでも知らんぞ…」
「うい」
アオルとのやり取りを見て女性冒険者4人が心配そうな顔をしている。
「ぺリル、大丈夫?」
水色のショートヘアをした革の軽装備の美少女がぺリルと呼ばれた黒い鎧の男の元へ寄って抱き着いた。
「心配ないよマリン、私に任せておけ」
ぺリルがマリンの水色の頭に手を乗せてをポンポンと優しく叩く。
それを見て、白い鎧ドレスを着た黄色いツインテールの美少女冒険者がアオルに指を差しながら叫んだ。
「ちょっとアンタ!…確かアオルだったわよね、いきなり何言ってんの?ぺリルを悪者と考えて失礼な態度を取ってるみたいだけど、今ぺリルは善良な冒険者でしょう!勝手に決めつけないで頂戴っ!!」
「よせベロニカ」
ぺリルの制止を振り切ってベロニカと呼ばれた黄色いツインテールがアオルを睨む。
「こういう奴には礼儀ってもんを教えてやらなきゃだわ!」
ベロニカに続いて緑色のポニーテールの美少女と赤髪ロングの美少女がアオルに近寄る。
アオルは手で払う仕草をしてベロニカたちを追い払おうとする。
「くっさぁ!チーレムの茶番なんて嗅ぎたくねーよ、俺に近寄んないでくれる?」
「こぉんのクズ野郎…」
ベロニカがこめかみに青筋を浮かべて肩を震わせている。白い籠手の拳に相当な力が入っていた。
「落ち着けベロニカ!奴は調停官なんだぞ!それを忘れるな」
ぺリルが後ろからベロニカを抑える。
「でっ、でもぉ…」
怒りが収まらないベロニカをなだめるように、ぺリルの手がベロニカの腕から腰に回り側頭部にキスをした。
「良い子だから落ち着いてぇ、なぁ?ほらぁ」
耳元でささやくぺリルの言葉を聞きながらベロニカの顔がとろけ紅潮していく。
「キモイキモイ、昼間から人前でおっぱじめるのは止めてください、あなた達は猿ですか?」
「うっさい!まだ何もしてないでしょうが!」
ベロニカがアオルに噛みついて雰囲気が解けると、ぺリルがベロニカから離れてダンジョンの先へと歩き出す。
「行こう、続きはクエスト達成後になっ」
続いてベロニカ達女性陣が後を追う。
そしてアオルもその後に続く。
道中でモンスターが現れるも"夢馬"の連携で鮮やかに討伐される。
「いやあの、パンチラがやかましいなぁ!何で戦闘するのにミニスカなんすか?」
アオルの言う通り、4人の女冒険者達は装備の材質や種類は違えど全員丈の短いミニスカートだった。
「見るな変態っ!」
「これはぺリルさんの好みでゅぅ…」
マリンの口をぺリルが手で塞ぐ。
「い、いや~!夏だし涼しい装備が良いと言うからだなぁ」
「くっさぁ、臭過ぎだよアンタら、全員脳ミソ性器じゃん」
そう言ってアオルが呆れた顔をする。
「うるさいっ!愛は人それぞれなのっ!」
ベロニカがまたアオルに噛みつく。
「じゃあ4人全員ぺリルの女なんすね?やっぱチーレムじゃん!」
「そ、それは違っ」
「チーレム発見!チーレム発見ーっ!恋愛弱者の雑魚雄がイージー繁殖で劣等遺伝子ばら撒いてんぞぉ~」
アオルの発言にベロニカは我慢出来なくなった。
「いい加減にしなさいよっ!ぺリルを馬鹿にするなんて許さないんだからっ!」
ベロニカがアオルに飛び掛かろうとした。
「ベロニカ!止めるんだっ!」
ぺリルが間一髪のところでベロニカを取り押さえる。
「なっ、何でっ、そんなに調停官は偉いわけ?」
「アイツらは世界のバランスを守る管理者だ、転生者だと決めつけられたら消されるんだよ、それに特別な力を持ってて私と相性が悪いし…」
そう言いかけてぺリルの口が止まった。
ぺリルは襲い掛かろうとしたベロニカを見てアオルを見る。
「そ、そうか、フフフ、何でこんな簡単なことに気が付かなかったんだろうなぁ」
ぺリルが意地悪くニヤリと笑う。
「なになに、チーターさんさぁ、俺とやんの?良いよ早くチート見せて見せてぇ」
機嫌よく笑いながらアオルがぺリルに背中を向けて尻を振る。
「フッ、それが狙いだったのだろうが残念だったな、私はお前を攻撃出来ない、しかしだ、私以外なら可能だっ!殺せハニー達っ!」
ぺリルがアオルに指を差して叫ぶが、ベロニカ達4人の女冒険者達は躊躇いを見せていた。
「えっ、なにも殺さなくても良いんじゃない?悪口言っただけなんだし」
「そうだよ、マリンもそう思う」
「ウチもゲンコツぐらいが良いんじゃないかって思うけど」
「殺しちゃったら犯罪だもん」
ベロニカ達の反応を見てぺリルの眼が冷たくなった。
「フンっ、これはご主人様の命令だっ!」
その言葉を聞いて女性4人の身体がビクンと反応した。
「「はい、ご主人様…」」
露出度の高い服では隠せない素肌の部分に4人それぞれ1つの模様が浮かび上がった。
「はい確定ぇ~、奴隷化スキル持ってんの転生者だけだから」
アオルが勝ちを確信すると、ぺリルも勝ち誇っていた。
「何とでも言え、ここは私達S級冒険者以上の存在でないと来ることが出来ない高難易度ダンジョンの深部だ、冒険者カードを持たないお前は殺しても証拠は残らないさ、殺れメスガキ達!!」
ぺリルの合図で女性4人が一斉に襲い掛かる。
ベロニカのオーラを纏った拳がアオルへと繰り出され、マリンが放った矢がアオルへと射出される。
そして金属音が鳴り響いた。
突如としてアオルの影から忍者風の黒装束が現れ、刀で4人全ての攻撃を弾き返した。
「なっ、何故ジョニーが何故ここにっ!」
驚くぺリルを見てアオルが笑う。
「残念~っ!!こうなると思って冒険者ギルドで護衛の依頼したのよ、彼S級だから高かったんだよなぁ~、当たり前だけど確保したらお前に金請求しとくからよろしく」
「くっ、くそがぁあああっ!!!」
激昂したぺリルが我を忘れ腰の剣を抜いて目にもとまらぬ速さでアオルに振り下ろした。
アオルは何も動かなかった。
そしてアオルの胸に当たると同時に剣が粉々に砕け散った。
アオルから衝撃が発生しぺリルが吹き飛ばされ、蔦の壁に激突して倒れ込んだ。
「お疲れしたぁ」
アオルはそう言って魔法陣を作成すると、ぺリルを中に投げて調停局へと飛ばしたのだった。




