第4話 工場経営者
アオルは豪華な屋敷へとやって来た。
塀の門にあるレバーを倒すと、塀より随分奥の方で鐘が鳴り、メイド姿の女性が内側から門を開けて出迎えた。
「どもー、調停官のアオルですー」
「お待ちしておりました、どうぞ中へお入りください」
アオルは門を潜りメイドの女性に案内されて屋敷の玄関へと向かう。
「いや広いですねぇ、流石は生産チートで建てた豪邸ですわ」
アオルの言葉に反応しメイドの女性の眼がキツくなる。
「旦那様は誠実な商売でお金を稼いでおります」
「工場生産でしょ、それにしては卸す数と種類が多過ぎじゃないですか?」
「旦那様は様々な製造工場を稼働して効率化してるのです、おかしなことなんてございません」
「武器防具に飲食、衣類、薬に雑貨まで扱ってるのは流石に多過ぎだと思うなぁ、だってまだ貴方のご主人様21歳ですよね?」
「才能を羨むお気持ちは分かりますよ、しかし事実ですから」
屋敷の入口前へと到着しアオルが立ち止まりメイドの女性にニッコリと笑顔を向け言葉を放つ。
「いや貴方のご主人様はチーターでしょ、楽して荒稼ぎしてるクズを羨むわけないですね」
「旦那様への暴言は許しませんよ、場合によっては名誉棄損で訴えますから」
メイドの女性が険しい表情でアオルを睨む。
「その前に、貴方のご主人様が転生者だと判明した場合はこの世界から即消えて貰いますからね」
愉快そうに笑みを浮かべるアオルとメイドの女性の鋭い眼がぶつかり合った。
「…ご用件が済みましたら速やかにお帰りくださいね」
冷たくそう言ってメイドの女性は豪邸の扉を開け、アオルを玄関に通した。
「…こちらです」
辛うじて理性を保てているメイドの女性は職務に専念して迷いそうな程広い屋敷内を案内する。
屋敷の中は実に豪華だった。
ピカピカの大理石みたいな床、見事な刺繍の絨毯、ミスリルとプラチナを用いた豪華な照明等が嫌でも目に付く。
「高級品ばかりじゃないですかぁ~、この中で一番高かったのはどれです?」
アオルの問いにメイドの女性は一瞬答えるか迷った様子を見せたがすぐ返答した。
「…黒竜の壺です」
「貴方じゃなくて?」
「っ!…ど、どういう意味でしょうか」
「転生者がよくやる奇行なんですよ、ロリコンにメイドに奴隷、3連コンボです」
「こ、今度は私に暴言ですか」
「いえ、その美貌ですから、当時のご主人はさぞホクホク顔で貴方を買われたことでしょう、股間にテント張ってたんじゃないんですか?」
「そのような事実はございません」
「あっそ、じゃあ最近ご主人に抱かれてます?」
「き、急に何てこと言うんですか、失礼ですよ」
「ご主人はほぼ間違い無く筋金入りのロリコンですから、貴方の年齢を考えるとそろそろ若い子に目移りする頃じゃないかと思うんですよ」
「っ…」
「ここに来る前に調べたらご主人はやっぱり膨大な関係持ってたんですよ、娼館通いに貴族の娘、知り合いの商会のお子さんに王族、それから王女ご本人まで、全員貴方より若そうな美少女です」
メイドの女性は思わず廊下で立ち止まり、眼をつむった。
「そ、それは…言われなくても薄々気付いていることです…」
「転生者の奇行には4つ目のコンボが存在するんですよ、つまりハーレムです、しかし今の貴方はそのハーレム要員から除外されようとしてる」
「何でそこまでっ…アオルさんには関係無い事です」
「最後に抱かれたのはいつですか?」
「最低な質問ですね」
「調停官という職業はですね、ドラブルを引き起こさない様に下調べを入念にやってるんですよ、調停官が名乗って来たのであれば相手は100%転生者です」
「なぜそんな事を使用人の私に言うんですか」
「転生者を地球に強制送還したら貴方は奴隷から解放されて自由の身になります、もう悩まずに済みますよ」
暫しの沈黙が流れた。
雑務用と思わしき数体の人型ゴーレムが床や装飾品の手入れをしたり荷物を運んだりして通り過ぎた。
メイドの女性が歩き出し、続いてアオルも歩き出した。
2人はお互い無言だったが、既に全てを理解しているように見えた。
豪華な装飾が施された扉をメイドの女性がノックした。
「旦那様、お客様をお連れ致しました」
「入ってくれ」
中から男性の声がすると、メイドの女性がドアを開けた。
「調停官のアオルです~」
「これはこれは、ようこそ御越しくださいました、ナール工場を営んでおりますナールです、立話もなんですからどうぞ腰かけてください」
ナールと名乗った男は20代前半の見た目でシャツにズボンの至って庶民的な恰好だった。
ナールの言う通りアオルが向かいのソファーにドサッと座る。
「いや~随分儲けてますねぇ~毎日笑いが止まらないんじゃないですかぁ~?」
アオルがニコニコしながらわざとらしく部屋を眺めて言った。
「いえいえそんな、もっとお金を持ってる方は沢山いらっしゃいますから」
「資産はナールさんが一番でしょ?」
そう言われてナールの顔が少し強張った。
「そうですか?そんなに持ってないですけどもねぇ」
「いやいや、随分豪快なお買い物をされてますよ、例えばこちらの奴隷とか」
アオルがソファーの隣に控えて立っていたメイドの女性を指差す。
「な、何を仰いますか、彼女は雇用してるだけの使用人ですよ」
ラフに座っていたアオルが膝に肘を乗せて前のめりの姿勢になり顔をナールに近付ける。
「お屋敷に入ってから違和感がありましてね、というのもこんな豪邸なのに使用人の方がこちらの女性だけなんですよ、どうやってお屋敷の手入れしてるのかと思ったらゴーレムが自動でやってて驚きましたよ」
「はい?それが何か?」
「ここへ来る前にナールさんの女性関係を全部調べ尽くしたんですよ、これがそのリストです」
ローテーブルの上にアオルが羊皮紙を置いた。
そこにはズラリと名前が並んでいて、詳細情報も詳しく記載されてた。
「なっ…!」
「全員今のナールさんより一回りは若い美少女ですよね、つまりナールさんはロリコン。そんな筋金入りのロリコン狂がもし日々顔を合わせなくてはならない使用人を雇用する場合、当然若い美少女にするわけですがこちらの女性はどう見てもナールさんより年上なんですよ」
ナールがチラッとメイドの女性を見て顔を伏せた。
すかさずアオルが話を続ける。
「ロリコン狂のナールさんは今の使用人にもう興味が無くもっと若い美少女を雇いたかったけどクビに出来なかった、なぜなら奴隷契約だったから。もし彼女を放置して新たに雇えば拘束されない新使用人が奴隷所持を漏らしてしまう恐れがある、そうだよね、地球から転生してきたナールさん?」
「…フッ、全部アオルさんの嘘ですね」
「じゃあ今ここで彼女に殴られてみてください、奴隷じゃなければ可能なはずです」
「な、何で僕が殴られなきゃならないんですか、嫌です」
「調停官の権限でご協力頂きます、使用人さん直ちにナールさんの頬を殴ってください!今すぐっ!!!!」
アオルがそう叫んだ。
ナールは何か懇願するような顔でメイドの女性を見た。
メイドの女性の顔は今日一番冷たかった。
「失礼します」
メイドの女性がナールの前に歩み出た。
右拳を握ってナールの顔目掛けて振り抜こうとした。
「あ”あ”っ」
すんでのところでメイドの女性が首を押さえて呻き床に倒れ込む。
少ししてメイドの女性が落ち着いてきた。
首筋を見ると複雑な模様が浮かび上がっているのが見えた。
「奴隷紋発見~、はい転生者確保ぉ」
「…ま、待て、過去に奴隷を買っただけだ、僕が転生者と決まったわけじゃ…」
「それは真実の秘薬を飲んだお前が自供してくれるから」
ソファーの上で放心状態のナールを魔法陣に連れて行き、調停局への送り飛ばした。
「お疲れさん」
涙が頬を伝うメイドの女性にアオルはそう言って部屋を出たのだった。




