第2話 魔法学校の生徒
昼前になると飯屋の満腹亭には客足が多くなる。
金髪の男、アオルはシャツの腕を捲り直しながら満腹亭のドアを押して入店した。
ドアに連動した鐘が鳴りアオルの入店を知らせる。
店内は大勢にも対応可能な程広く、客は冒険者風の者や肉体労働者と思われる筋骨隆々の見た目をした者が多かった。
まだ営業開始して間もないからか、空席は幾つもあった。
アオルは迷いもせずに真っ直ぐ隅の2人用テーブル席へと進む。
既に黒いローブ姿の少年が箸で器をつついていたが、アオルは気にせず向かいの席にドカッと腰かけた。
「いや~、暑いっすよね~」
座ると同時にアオルは少年に声を掛けたが、少年はアオルを一切無視して食事を続けている。
すぐに従業員のお姉さんがやってきた。
「ご注文は?」
「ジンさんと一緒のお願い」
少年がピクリと反応し箸を止めてアオルの顔を見た。
「オークラーメン・大が1つね」
従業員のお姉さんは注文をメモした小さな伝票をテーブルに置いてすぐに厨房へと向かって行った。
「初対面ですよね、何で僕の名前知ってるんですか?」
少年は眉を寄せて不快そうな顔をしながらアオルに聞いた。
「どうしてでしょうねぇ?そんなに人生経験豊富なのに分からないんですか、随分意味の無い人生だったんですねぇ」
「僕はまだ14歳ですよ。それとまだ無名の魔術師ですから敬語も必要ありません」
「いやあ、ジンさんの方がゴリゴリの年上じゃないですか、もしかしてチートの使い過ぎで脳ミソ雑魚になりましたぁ?」
アオルの挑発的な言葉を聞いてジンが睨む。
「おかしな人ですね、明らかにあなたの方が年上の見た目ですし、僕はチートなんて知りません」
「俺28なんすよ、ジンさん今の身体で14歳ですよね、年下なら前世で14歳未満ということになるんすけど、ラーメン食いに通ってるじゃないす…」
「前世なんてありません」
「いやあるんすよ、地球の日本じゃ親が財布握ってるし満足に外食出来るの最低でも大学の18からじゃないですか、食べ歩きの趣味あったら地球18年こっちの世界で14年だから最低でも32歳。つまり俺より年上なんすよ」
「フッ、憶測かよ」
ジンは鼻で笑いながら止まっていた箸を再稼働させて麺を食べる。
「でも当たってるでしょ?」
「全然」
不敵な笑みを浮かべるアオルと敵意を露にするジンが顔を合わせたまま睨み合う。
「ジンさんは魔術学校で成績トップだそうじゃないですか、学校内で随分イキリ散らしたとか、どんなチートを持ってるんですか?」
「チートじゃないですよ、他の人よりも偶然魔術の才能があっただけ。それも成績が良かったのは初年度だけで今は全然ですよ」
「たかが試験で試験会場より大きなファイアボールを放ったそうですね、他にも雷魔法で永久に減らない電気を開発したとか、夏には氷魔法で町全体を冷却し続けたそうで?」
「…それが?」
「チートですやん」
「噂が独り歩きして尾ひれがついたんですよ、実際はそんなに凄く無いんです」
「まだ認めませんか、じゃあ手っ取り早く真実の秘薬を飲んでくれません?」
アオルがズボンのポケットから紫色の粉が入った小瓶を取り出した。
「何なんですかあなたは?精神汚染の魔法および薬は禁止されてますよ、使えばあなたは犯罪者ですからね」
アオルは茶色いベストの内ポケットからクリスタルの星型バッジを取り出した。
「残念~俺、調停局の者なんすよ~、転生者って自供してもらうのに真実の秘薬使うの許可されてんすよねぇ」
ジンはアオルの正体を察していたのか動じず少し間を空けて口を開いた。
「だとしても転生者だという証拠が無いと一般市民への精神汚染の使用は禁止されてますよね?」
「今証明しますよ」
アオルがニヤリと笑い少しの間が空くと従業員のお姉さんがやってきた。
「はいお待たせ、オークラーメン・大ね」
底の深い大きな器がアオルの前に置かれる。
中にはオーク肉らしい角煮と麺、そして熱々の濃厚スープが入っていた。
「どうも」
アオルがお礼を言うとお姉さんは笑顔を見せてから他のテーブル席へと向かって行った。
「これが証拠ですよ」
アオルがラーメンを指差す。
「は?ラーメン食べたからって転生者だと断定は出来ないでしょ、確かにラーメンは転生者が広めた食べ物だけど100年以上前の転生者が広めてからもう既にこの世界に根付いた定番料理じゃないですか、誰が食べても不思議じゃない」
「いいですか、このオークラーメン・大はこのお店、満腹亭の看板メニューです。周囲を見てださい、肉体労働者や前衛の冒険者に人気で彼らはあまり魔法を使わないからこのラーメンを好んで食べます、逆に魔術師、ましてや日々魔法の実技に追われる魔法学校の生徒は絶対にこのラーメンを食べません、なぜなら…」
アオルがベストのポケットから緑色の液体が入った小瓶を取り出した。
それを見て敵意丸出しだったジンの顔が一気に冷めていく。
「…マナポーションですか」
「そう、ご存じの通り日々多くの魔法を使う魔術師という連中は毎日嫌という程マナポーションを飲みます。水分過多でスープ系の食事を控えたいというのもあるとは思いますが、何よりこのマナポーションの味がオークの肉汁と同じなんですよ。だからこのオークラーメン・大を注文する魔法学校の魔術師は魔力チートを持っていてマナポーションを飲まなくて良い人しか考えられません」
「フフフッ確かにそうだね…」
降参の笑いを浮かべながらジンが壁に立て掛けてあった杖を握る。
途端にジンの中央に黒紫の渦が発生しジンが飲み込まれていく。
「おっと、時空間魔法で逃走なんてさせませんよ」
テーブルの下でアオルが人の足を踏みつけると、渦からジンの上半身が吐き出された。
消えた渦を見てジンはやっと観念したのか天井を仰いだ。
「僕はどうなるんですか」
「調停局に連行した後、地球に強制送還」
「…スキルは?」
アオルは少し間を溜めて、満面の笑顔を作り、両手の中指を立てて答えた。
「無しでぇーっっす!!!」
満腹亭はいつもより少しだけ賑やかになった。




