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パーティーを追い出された僕は、まず町の中心にあるギルドを訪れた。
僕にベイト達を紹介されたギルドは、この町じゃない。けどほとんどの各国にあるギルドは情報共有をしているから、パーティー追放の件を報告するのはどこでもいい。
ベイト率いるパーティーは近いうちにSランクに昇格すると噂されるほど有名だったから、その元メンバーとなると多少は優遇されるはずだ。
「すみませ」
受付嬢が僕を見てギクッとしたので、僕は「ん?」と固まった。
他の受付員も顔を強張らせ、ひそひそし合う。
「あの……?」
「し、失礼いたしました。少々お待ちください」
彼女達の中でも先輩風の女性が、奥の部屋に入っていった。
僕が異世界人だから緊張したのだろうか。ちょっと凹むぞ。
異世界人というのは、この世界ではなく令和の世界を生きていた人間のことだ。僕はとある国のギルドによって人材派遣という目的で召喚されたあと、すぐベイト達と組まされると、人々を苦しめる魔族の王──魔王の討伐に向けての旅に出ていた。
異世界人はこの国に令和の世界の知識と技術をもたらして文化の発展を促したそうだが──それはそれとして、別の世界から来た人間というのは、この世界の住人にとって宇宙人みたいに感じてしまうらしく、たまに怖がられる。
先程の女性が戻ってきた。気の毒そうな顔をして。
「マサヤ・ハギノ様でいらっしゃいますね?」
「そうですけど」
「もしやベイト・リバース様のパーティーを追放された……?」
「よくわかりましたね?ついさっき追い出されたんですよ」
「わかるといいますか、あのパーティーでよく四ヶ月持ちましたねって感じでしょうか……」
ギルドには、冒険者としての依頼の受注やその他の手続きのために老若男女がちらほらいた。その誰もが噂し合っている。哀れみの目で、僕を見る。
「そうなんですよ!僕は可哀想な子なんです!あんなにいい声の三人と、お別れするはめになったんですから!」
「い、いい声というは?」先輩嬢がちょっと引いた。
「ベイトの力強いワイルドな声、アザレアの包容力あふれる低めの声、ネルのそっけないながらも愛らしい声……!」
「お、お静かに。他の冒険者の皆さんもいますので」と、彼女は声をひそめる。
「あぁ、すみません。つい熱くなってしまって」
「元Aランクのヒーラーとなると、他の方がこぞって欲しがります。また劣悪なパーティーに利用される恐れもあるので、ご注意ください」
「別に悪い人達じゃなかったけどなぁ」
「所属先をお探しでしたら、アシュレイ男爵家の親衛隊はいかがでしょうか。アシュレイ家にはご子息が二人、ご令嬢が一人、彼等は国全体を対象とした世情調査を自ら足を運んで行っているため、特に冒険経験のある方を、優先して採用されているとのことです」
「親衛隊……」
「まずは試用期間を二ヶ月。貢献次第によっては永久雇用もなくはないかと。仮に採用がなくても、親切な方ですので、新たな勤め先のアドバイスをいただけるでしょう。面談だけでもどうですか?」
「行ってみます!」
親衛隊ができるほどだから、アイドル並みに可愛い声に違いない!うまくいけば、歌も歌ってくれるかもしれない!ものすごく会いたくなってきた!
「それでは、こちらの用紙へのご記入をお願いします」
僕の前に書類風の、白い半透明のモニターが現れる。
羽ペンを渡される。記入するのは、そこに個人名やパーティー所属歴、職業、これまで倒した魔族の中で最も強かった奴の名前や、攻略したダンジョン名。
書類作成の間、それからギルド長が推薦状を書いてくれている間は、屈強な警備兵が、僕の背を守ってくれたので、無事支度は整った。
大事な推薦状は、アイテムボックスに収納する。
アイテムボックスというのはCランク以上の冒険者に与えられる魔力を消費しない能力で、どんなものでも異空間に収納と保存が可能だ。
こういうのを見ると、通学鞄に分厚い教科書を何冊も詰めて登下校していた、幼き日々を思い出す……つらかったなぁ、と思うと、ちょっと泣ける。
それにしてもアシュレイ家か……。
「アシュレイ家五投手の見事な手腕とか、優秀な三人のお子さんとか良い噂は聞きますけど、ご自宅までは馬車で一時間かかるんですよね……瞬間移動魔法でびゅんと飛べたら──」
僕の足元が、白く光る。
景色が一瞬で変わり、空気がさわやかな森が広がる。いや、僕自身が、森の中にいる。小鳥があわただしい鳴き声を鳴らしまくっている。
木々の隙間から平坦な草原が見え、そこに灰青色の寄棟屋根の屋敷があった。
アシュレイ家の家だ。ってか僕、瞬間移動した!?いつの間に覚えたんだろう……。この世界には、ゲームみたいにレベルという概念がないから、気づけば使える技が増えていたなんてのはざらだ。だからといって、瞬間移動持ちはレア中のレアと聞くけど……。
というか、呑気にしている場合じゃない。小鳥達が騒いでいる。森の中で異変が起きている証拠だ。
小鳥達が逃げていく方向とは逆に向かって、僕は急いだ。
ある程度走ると、邪悪な魔力の気配を感じた。
森が開けると、血の匂いがした。小川の傍で、横転した飾り気のない馬車に、繋がれたままの馬がぐったりしている。運転役の御者二人と、鎧姿の兵士二人、全員息はあるようだ。
座り込んだ、薄茶色の髪に碧眼の令嬢さん。その膝元には、従者らしき細身の男が目を閉じている。数人の男達が二人を囲み、大振りの刃をぎらつかせている。
彼女は泣きそうになりながら、僕を見た。
「た、助けてください!お願い……!何でもしますから!」
「か、可愛い……!なんて可愛いんだ……!最高に可愛い……!」
「ええっ!?」
なんて弱りかけの小動物のように愛らしい声なんだろう……!これは絶対に助けたい。僕は杖をぎゅっと握り、男達へ掲げた。
「《オール・リカバリー》!」
清らかな輝きが、男達を包み込んだ。
彼等が一瞬ぽかんとし、のちに大笑いをする。
こんな場面を見せられては苦笑しか出てこない。
「魔族に操られてはいないわけか……しょうがない、あとは頼みますよ!《ブレッシング・ライト》!」
全員の怪我を治すには、一瞬で充分だった。
次の瞬間には、連中のうち三人が、どさりと倒れた。
「な、何だぁ!?」
と狼狽えた男が、鳩尾を殴られて地に伏せた。
肩までの髪を緩く結った男。令嬢さんに泣き縋られていたはずの従者が、うつむいたまま、異様な空気をまとって佇んでいる。
「ちょ、調子に乗ってんじゃ──」
と言いかけた男を、兵士が殴り飛ばした。
別の男を、もう一人の兵士が膝蹴りで沈める。
さらに細身の御者が、暴漢を見事なアッパーで打ちのめした。
御者見習いというような痩身の青年が不埒者の背後に回り、相手の腰に両腕を巻きつけ、後方へと持ち上げて地上に叩きつけた。
残ったのはリーダー格の男。
逃げ出した男を馬の蹄が弾き飛ばし、木に衝突させて失神させた。
「こうなったら、女を人質に……!」
と令嬢さんに飛びかかるも、その手が空を切った。
「き、消えた……!?」
彼女は背後から男の利き腕を取り、全体重と腕力で、相手を地面にねじ伏せた。
「──遅い」
怪我を治した途端に、この有り様。この人達はバケモンか。僕は震えた。
こんな非常事態はたびたびあるらしく、馬車には拘束用の縄が積んであった。
男達はしっかりと縛り上げられた。御者が通信用の魔法で、屋敷に連絡。代わりの馬車と、男達を投獄するための兵士達を呼んだらしい。
「先程は助けていただき、ありがとうございました」
令嬢さんはスカートの両端を小さく持ち上げ、会釈した。
小鳥のように声がか弱げに震えているのは、まだ恐怖が残っているからだろう。それdめお大きな眼は、早くも立ち直りかけていた。
「私はアシュレイ男爵家長女のエレナといいます。こちらは執事のギルバート」
「お嬢様のお命を救っていただき、こころから──」
「糸目だぁぁぁあああああ!!糸目はぁぁぁ、裏切るんだよなぁぁぁあああああ!!」
「なっ、う、裏切りなどいたしません!第一、裏切らない糸目だっているでしょう!?」
「裏切る裏切らないはどうだっていいのよ。だって、金が得られるうちは、人間誰しも裏切らないもの」
「お嬢様!?」
令嬢さんが笑顔になったが、同時に彼女の目からハイライトが消えた。何、この闇深そうな人。
「なんか……なんか違う!エレナさんの繊細な声で闇落ちセリフ言わせるのも滾るけど、もっと幸せオーラ出してほしい!ギルバートさんの頭良さそうな強キャラボイスも素敵だけど、へっぴり腰なのは似合っていない!ギルバートさんは、自分でそう思いませんか!?」
「変態め」
「ありがとうございます!!」
嫌悪に顔を歪めまくってちょっと汗かいてるギルバートさんの言葉に、この上ない感動を覚えた。この人はSっぽいセリフがぴったりだった。
「実はアシュレイ家の親衛隊に加えさせていただきたく、ギルドからの推薦状を持ってきました。鑑定をお願いしたいのですが……」
「冗談じゃない!いくら力があっても、お前のような不躾な輩など、お嬢様の傍には置けない!」
「ギルバート、いいではありませんか。優秀な部下が増えるのは嬉しいことです」
「いいえお嬢様、この男は信用ならない!」
「人間を信じる方が愚かなのです」
「この令嬢さんって人間に一族を滅ぼされた魔族ですか?」
「失礼なことを言うな!ちゃんと毎日、鑑定スキルを行使している!」
「不安になってるじゃないですか」
ギルバートさんはちょっぴり悲しそうだったので、御者や兵士に慰められていた。




