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声がっ!!

声がいいッ!!!!!


「ぼさっとすんな!ぐずぐずしてると俺が手柄を独り占めするぞ!」

「抜け駆けは許さなくてよ、ベイト」

「……負けない」


野性味あふれるリーダー。

妖艶な魔法使い。

鬱々としたデバッファーの少女。

そしてヒーラーの僕。

四人はギルドからの依頼を受け、森の奥にある竜人(ドラゴニュート)達の集落を襲撃していた。

人間のように二足歩行をし、武器を手に持って向かってくる彼等は人語を話さず、鱗の生えた青黒い肌に爬虫類の目を持つ。

彼等は気まぐれに盗賊として人々を襲うので、討伐命令が出されていた。

下手をすれば命を落としかねない危険な依頼だが、僕としてはどうでもよかった。


(最高だ……! 最高に声がいい……!)


僕の仲間は最高だ。

ベイトの苛烈な剣捌きも見事だが、特筆すべきは声だ。高飛車な口調に合ったハスキー声は、獅子の唸りを連想させた。

アザレアはあらゆる攻撃魔法を得意とする。ベイトと同じ十八歳だが年の割に低く、甘ったるい声に被虐心がそそられる。

この二人に罵られたい人は大勢いるだろうが、ネルのロリ声も捨てがたい。寝ぼけたしょうな子どもの声で罵倒されると、新たな扉を開きそうだ。

僕とネルは後方支援タイプの魔法使いだ。離れたところで残りの二人をサポートする。

僕が味方の身体能力を上昇させ、ネルが敵の能力値を低下させる。

ネルの魔法は、竜人の鎧や盾を腐食させて塵とさせた。

こうなると魔法使いを先に倒すのが戦いにおいてのセオリーだが、そうして彼女達に近づいてきた魔物は杖で殴打され、兜ごと頭蓋を割られ、肋骨がへし折られた。

バケモンである。


「あらあら、肩慣らしにもなりませんわね」

「……弱すぎ」


僕にはできない芸当だ。この二人が魔法使いの標準などと世間に誤解されたらたまったもんじゃない。

こうして五十匹いた竜人は、全滅した。

死体は、縄張り外で待機している連中が回収する。ギルドに雇われた武器や服飾雑貨等を扱う職人が、素材として買い取ってくれるからだ。冒険者パーティーが取り逃がした魔物を退治する役割も担ってくれている。

買い取り金の三割がギルドに入り、残りが僕達の手元に入る仕組みだ。

そのあと僕は任務達成の報告書をギルドに提出。それからベイト達のいる酒場に入った。

淡黄色の照明の下。特に男性客が多く、野太い声ががやがやと騒いでいる。

椅子やテーブルは木目の荒い古い作りだが、ベイトの前にはジョッキがあった。異世界の技術によるガラス工芸だった。


「ご苦労、駄犬。これがお前の取り分。それから俺のおごりだ」


テーブルに放られた袋は、僕の両手くらいの小ささだった。

べ、ベイトの強者感たっぷりの美声で、ご苦労って言われた……!

ベイトはアザレアの肩を抱いて、二人してにやにやしている。声もいいし顔もいい。

僕は銀貨十数枚程度しか入っていないだろう袋を掲げて「ありがとうございます!」と心から言った。

今回の総額の一割にも満たないだろうが貧しくはない。それに残りの金が、この美声三人組の懐に入るならこんなにも嬉しいことはない。僕にとってのスパチャだ。


「飲めよ。一杯おごりだ。お前のために、俺が厳選した美酒を味わわせてやる」

「いや、僕はお酒はほんとダメで……」


ダメっていうか飲んだことがない。僕はまだ十七。異世界でいうところの未成年だからだ。


「あ? 俺の言うことが聞けねえってのか?」

「よしなさいよ。ワンちゃんはお子さまだから、人肌並みの温かいミルクしか飲めないのよ。ねえ?」


瞳孔を開くベイトにアザレアが頬ずりすると、怒り顔がニヤつきに変わった。気持ちはわかる。アザレアには母性があった。僕も甘やかされたい。うんと躾けられたあとで。


「お前もネルを見習ったらどうだ。子どもに負けてて恥ずかしくねえのか」

「……私の母国では、子どもは少量なら飲んでいいことになっている」


ぼそぼそと言うネルは、僕の方を見もしない。この収支そっけない感じが絶対にブレなくて、だがそこがいい。蔑まれるのもいいけど無視されるのも気持ちが高ぶる。


「飲まねえっていうならしゃーない。この四ヶ月間、仲間だった情もあるし、最後に一杯やりたかったんだけどなぁ?」

ベイトの笑みに嫌味がましさがプラスされた。

悪い顔が癖になるほど似合ってる……ん?


「待って、その言い方だと別れみたいに聞こえるけど」

「みたいじゃなくてそうだよ。お前にはパーティーを抜けてもらう」

「な、なんで!?ヒーラー抜けたらやっていけないでしょ!?」

「鈍い野郎だな。代わりがいるからに決まってんだろうが。──おい、ダスク!」


一人でタバコを吸っていた男が、携帯灰皿で火を消してから近づいてきた。

長いダークグレーの髪。無彩色の軽装と丸眼鏡。女みたいに綺麗な顔立ちだが、歩き方には一切の隙がなかった。

愕然とする僕を、ベイトがせせら笑った。


「マヌケなお前にもこいつのすごさがわかるか。ヒーラーとしてだけでなく武術も優れている。俺達の後ろでこそこそ補助するだけで甘い汁吸うようなヤツはいらない。今日からこいつが二代目犬っころ。お前はお払い箱」

「い、(いん)踏んでる」

「あ?」

「ちょっと待ってよく考えて欲しい!こいつはダメだ!こいつ糸目じゃん!!伊達眼鏡ってだけてうさんくさいのに糸目はダメだって!!絶対裏切る!!」

「私はベイト様のカリスマ的存在感と凄まじいリーダーシップに惚れ込んでお供させていただきました。麗しきベイト様に、この命が尽きるまで付き従う所存です」

「こう言うんだから間違いない!!絶対裏切る!!」

「さっきからテメェ、俺のこと馬鹿にしてんな?」


ベイトは、ふんっ、と鼻を鳴らして、余裕ぶった笑みを見せた。


「別にパーティーにしがみついてもいいが、何も俺一人の意見じゃねえ。他の二人を見てみろ」


アザレアは僕と目が合うと、くすっと笑った。その息づかいだけで世の男を陥落させそうなほどの艶めかしい響きに、震えが止まらない。

ネルとは目が合うと、ぷいっとそっぽを向かれた。声を聞かせてくださいッ!!


「これでわかっただろ。だぁーれもお前を求めちゃいないんだよ。いい加減わかれよ。お前はッ、必要とされてねえんだよ!」

「そ、そんな……嫌だ、抜けたくない!悪いところがあったら直すから!何でも言うこと聞く!だから捨てないで!」


僕は彼に泣きついた。この美声がもう聞けなくなるなんて冗談じゃない。僕に飯を喰うなと言っているのと同じだ。


「何でもって言ったな?だったら、そこに土下座しろ。頭を床にこすりつけて、みっともなく泣き喚いたら考えてやらんこともない」

えっ。

心臓がどくどくと高鳴った。

ど、土下座しろってセリフは、えっちすぎやしませんかね……。


「できないんだろ?だったら俺の前から消えろ!ダスク、こいつを追い出せ!」

「えっ、ちょっと……!」

「悪く思わないでくださいね。ご命令なので」


新顔にぐいぐい押されて、僕は乾いた風の吹く酒場の外へと追いやられた。

無彩色の背中があっさり店内に引き返していった。

立ち尽くす初代駄犬。


「土下座……してもよかったのに……」


ぽつりぽつりと呟く言葉は、誰の耳にも届かなかったようだ。

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