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善き闇がち魔闘士が、  作者: シトラチネ
怒涛の再始動 編
48/50

48. 人生を重ねたい

「それが兄さんの遺志で願い…闇堕ちしてても純正魔力を魔導できる」

「先輩くんの精霊を前段階とすることで、二体目の精霊に純正魔力を渡せるようになるということか。どんな精霊でも嫌われることなく使うことが出来る。蓄魔晶石に頼る必要がなくなる」

「闇性魔力を混ぜて魔導した強汚染の半闇性魔力も試しました。同様に純正化しています」

「つまり後輩くんが先輩くんの精霊を通すことで、闇性魔力を純化できるわけだ。今まで回避し、除去するしか手段のなかった闇性魔力を純正魔力に変換して使えるようになる。これは…魔力の構造を覆す革新だ」

 後輩魔闘士は唖然として両手を見ている。自力で大気から魔導した魔力で精霊を使う日が再び来るとは想像していなかっただろう。それも先輩の、文字通り命を使って贈られた方法で。

「先輩、あの人は…僕をどこまで使い倒すつもりなんだろう」

 彼は苦笑しているが、眼に涙が溜まっている。

「これじゃ僕は『都合良き』後輩です」

「大丈夫。後輩さんはずっと善き後輩さんでした」

 先輩の妹は晴れやかだ。

「魔獣討伐のために寝る間も惜しんで研究して開発して、魔闘士の鍛錬して魔獣倒して…フィッシュパイだってがんばって食べました」

 魔獣とフィッシュパイが並列されている。

「兄は後輩さんとまた一緒に壁に突っ込んでいくんです。王国の人々を守るために」

「人々を守るなんて青い優等生みたいなこと、言ったことないのに」

「兄も言ってません。でもきっと思ってた。『先輩が魔獣に食われた時は、僕が看取ってやりますよ』…一緒に戦ってくれて、あの言葉を守ってくれる善き後輩で、兄は嬉しかったと思います」

「そんな会話がありましたね」

 後輩は涙目でも爽やかに笑っている。

「だけど先輩の精霊には問題点があります。耐性の高い僕でも、大気から大量に魔導すると自家汚染とでも言うんでしょうか…闇堕ちの特性として帯びる半闇性魔力に自分自身が汚染されていきます」

「兄さん、詰めが甘い…」

「常態での有害性を抑えるだけなら除染技術を改良して、薬品で足りるかもしれない。けれど先輩の精霊を積極的に使って汚染が蓄積するようになったら、頻繁な定性調整を際限なく続けて有害性を除く必要があるかもしれません」

 彼は固く腕を組み、先輩の妹へ険しい視線を固定した。

「あなたには僕という枷がつくんです。魔術省は王国存続のために僕を留め、僕のためにあなたを留めるでしょう。北嶺の闇性魔力の発生源を封印か消滅かさせるまで」

「望むところです」

「待ってください。僕はあなたの意思を尊重します。先輩の精霊が望んでいるように見えるからといって、あなたが責任を感じる必要はありません。定性調整は遠隔会話でも有効ですし、調整がなくても僕は除染や他の方法を研究します」

「後輩さん。わたしが人生を重ねさせて欲しいって言ったの、覚えてませんか」

 彼の頬がすっと赤くなる。

 これは恐らく二人にとって大事な時間だろう。眼鏡の遠隔会話術具越しに聞いているに違いない新米審査官のために会話が拾えるぎりぎりまで、さりげなく距離を空けることにする。

「覚えています。僕はあの時、すぐに返事ができなくて…謝りたいと思っていました」

「断るってこと?」

「違う。違います」

 思わず踏み出してしまったようで、闇がち魔闘士は彼女のローブの闇性魔力反射機能にバチバチと反応されてしまっている。

「僕は驚いたんです。闇堕ちしたのは僕の意思だと言っておきながら、妹さんに受け入れて欲しいと言われた時、自分は受け入れるかを決められるような立場を失ったと感じていたことに気付いたんです。受け入れてもらうのを乞う側になった、とどこかで感じていた」

 闇堕ちして忌避され、隔離されたら誰でも尊厳を傷つけられるだろう。魔闘士隊の仲間たちの存在は彼の心を支えていたようだが、それでも魔術省の過酷な仕打ちに心は傷んでいただろう。

「だから、あんな風に言ってくれたのがすごく驚きで…しみて、言葉が出なくて。ごめん」

「わたしの意志は決まってます。兄も精霊越しに一緒にやらかしたがってるみたいですし。兄の精霊を使ったら定性調整必須なんて、詰めが甘いけど」

「僕があなたと一緒にいるには好都合な仕様ごめん忘れて」

「兄さんいい仕事したー! あとは後輩さんが受け入れてくれるか、ちゃんと聞いておきたいんですけど」

 後輩はもう耳まで真っ赤にさせているが、先輩の妹から目を離さない。踵を一、二度上げて背筋と勇気を整えたようだ。

「あなたがた兄妹は自分の身を顧みないほど献身的な仕打ちをするし、させる。この魅了の術が一生終わって欲しくないんです。ずっと受け入れていたいし、僕からも人生を重ねさせて欲しいと思っています」

「すっごく喜んで!」

 と答える妹は満面の笑顔だ。それが、ふと思案顔に変わる。

「…本当に兄がこっそり後輩さんのローブ剥いで魅了術をかけたから、そう言ってるわけじゃないですよね?」

「魔術師のローブを意に反して強引に脱がせようとした者に何が起きるか、知っていますか」

「そういうことは、わたしが不意打ちする前に教えてくださいよ!」

「やめてください相談してくださいって散々警告しました」

「傲慢魔能士といい魔術師は…ローブの危険性を隠す教育でも受けているんですか!」

「あなたは魔導士の新人研修座学で寝ていたんですね」

「あー…。さあ! 三人一緒に働く意思確認ができました! 打倒野獣! 打倒北嶺!」

「そうですね。奥の手が一つ可能になりました」

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