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29. 祭られ損ねる

 うわ、と新米審査官は驚嘆と憂慮の混じった声を漏らした。

「後輩さん、転移しちゃいました。純正魔力を蓄魔晶石から渡すことで転移の精霊とも取引再開できるという推論が的中しました。これは形勢が劇的に変わります」

 茫然と息をつく。

「隔離措置はすでに機能を失いました。これを脱走、逃亡とみなされると後輩さんは厳しい苦境に立たされます」

 隣の中堅審査官は難しい顔であごをさすっている。

「後輩くんの隔離措置に法的な効力があるのか、が焦点かな」

 闇堕ちを隔離措置とし、門番と転移の精霊の使用禁止令が出されていれば後輩魔闘士は命令違反したことになる。

 一方、闇堕ちであるが研究員として北嶺に配置。異動の際に門番の精霊を二度と使えなくなったが意図的ではなく不可抗力。帰路の転移紋の撤去理由は魔獣討伐完了で今後の使用がほとんど見込まれないため、として事実上の隔離でありながら魔術省が言い逃れして禁止令を出していなければ、命令違反にあたらない。

「恐らく後者だろう。だからこそ後輩くんは転移を使った。魔術師名門一家の占める東塔派は、身内の闇堕ちを隠そうとしたのが仇になった形だ」

「でも、黒と言えば黒にできる東塔派ですよ。後からでも隔離措置だったと無理を通しかねません」

「手遅れかもしれないが、彼の処遇周りを押さえておこう。間に合う可能性はある。当面の間、東塔派は再審査がかかる案件で保身に追われるからね」

「再審査ですか。お手伝いします」

「頼りにしてるよ。さて、幸い魔闘士隊長はどうやら後輩くんの味方だ。典型的な魔闘士隊長ぶりだねえ」

「魔能に筋肉にヒゲ、も典型的です。資料によれば魔力の嗅覚識別に優れ、半闇性野獣の探知と駆除においては右に出る者がいないと。後輩さんが狩られる時は隊長さんが最大の敵になると言えそうです」

「そんな事態にならないことを祈ろう」

「後輩さんは事実確認後、隊長さんに王への報告を託すつもりのようです。門には隊長さんの識別紋章はないのに門番を障壁とみなす様子がありません。魔闘士隊長は北嶺の門に識別紋章を描く権限を持っていると思われます」

「元は魔獣討伐の前線基地だ。魔闘士隊の本拠地だったんだから当然だろうな」

「我々も王に中間報告を送りましたが、彼らの報告が先着でしょう」

 新米はがっかりして肩を落とす。

「王に名を売る機会を逃してしまいました」

「北嶺の闇性魔力発生源についてはもともと後輩くんの業績だよ」

「あふれる情報の海の中から選別されたとびきりのネタを最速で届けるのも立派な能力の一つです」

「後輩くんの場合、とびきりが多すぎるが。さて、彼の用事というのはさしあたって傲慢魔術師だろう」

 記憶石再生水盤に映るのは継続して北嶺研究所の除染室だ。妹の遠隔会話指輪から後輩魔闘士の動向が流れてくる。鐘の音のようだ。

「あーこれは中央塔の鐘です。見つかるなと言われてるのに、昼間の魔術省を堂々と横切ったようです。確かに魔術師のローブは魔術省内では最強のカモフラージュですね。フードをかぶってしまえば誰だか分からない」

「後輩くんの闇がちは公表されていない。固有魔力を感知されても、闇がちと知らない者は彼がそこにいることを疑問に思わない」

「闇性魔力の識別に優れた魔闘士隊長さえ臭くないと認めた闇性の低さなら、距離を保てば彼の闇がち魔力に気付かれないでしょう」

「勝手知ったる古巣の東塔、保安体制も後輩くんは知り尽くしている。すんなりと傲慢魔術師氏の部屋に入ったようだ。再会のハグを求めているぞ…きっとあの社交的な笑顔でやってるな。怖いぞ後輩くん」

「傲慢氏、降伏が早い。後輩さんは傲慢氏が妹さんにかけた記憶封印術の識別子や設定鍵を聞き出したようです。いつでもハグしに帰って来ますのでって、彼は恐らく生き生き笑顔でキレてますね」 

 映像を見たかった、と新米は悔しがる。

「傲慢氏は北嶺登山を命じた手下魔闘士二人を呼び戻すように言われて応じています」

「やはり送り込んでいたんだな。妹さんに門を通らせさえすれば連れ戻せるし、食事の差し入れなどを装って後輩くんを害することも出来たはずだ。傲慢氏が手下くんたち用の魔導コストをケチって転移紋を使わずに登山させたことで、後輩くんたちは時間を稼げた」

「傲慢氏は策に溺れたと」

「策と言うほどの策でもなかったんじゃないかな」

「中堅さんが辛辣」

「小物悪役としてしか使い道がないじゃないか」

「思春期ロマン的に毛穴が開かないんですね」

「それにしても東塔派の圧力というのは強力なものだ。魔獣討伐の立役者である先輩くん、先輩くんを救命しようとして闇堕ちした後輩くん、人望のありそうな魔闘士隊長氏。彼らのことを知っていてなお、手下魔闘士くんたちは傲慢氏の指示に従って妹さんを拉致したり北嶺登山したりしたんだ」

「東塔派が関わった不審な案件を再審査するなら、我々も身辺に気を付ける必要がありますね」

「登庁退庁の際は警備にエスコートを頼むんだよ。さて、後輩くんは魔闘士本部に戻って隊長と合流したようだ。鐘でチン! の特許使用料受取人の件で特許局に行くかと思ったが、見つかるリスクをこれ以上取らずに我々に任せる算段かもしれないな」

「というか、そもそも後輩さんはフィッシュパイをキーワード設定することで不正を告発する、という体で記憶石を送ってきたんでした。一応の本題です」

「そうだ。国家規模の危機を聞いているうちに忘れていた」

「自分が行ってきます。座りっぱなしでそろそろ歩きたかったところです」


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