魔導書との困窮
「しっかし、あの連中早めにどうにかしないと絶対まずいわよね」
ドグラ・マグラ達との戦闘の翌日、休日ということで暢気にテレビを見ているとライラがソファーの後ろでそう言う。
僕の肩に寄りかかっているカレンさんや僕の膝の上に座っているグースも思わずライラのほうを向く。
「お姉ちゃんの八握劔とやらが効いたんだから、そんなに心配しなくてもいいんじゃない?」
僕もライラに影響されたのか能天気に答える。
「若葉と焚書官はそれでいいけど、私たち用の八握劔は流石に焚書官でも用意できないでしょ……」
ライラがうつむき加減にそうつぶやく。
まぁ、仮にもヴァチカンの装備を魔導書のために用意などできるわけないか……
「お姉ちゃん、どうにかならないの?」
僕はカレンさんに上目遣いで尋ねる。
最近僕も慣れてきたのか弟らしい甘え方が自然とできるようになっていて、少し日頃の慣れに恐怖を覚えている。
「うう、若葉君のお願いなら何でも聞くよぉ! でも、私が八握劔を用意してもあの子たちには装備できないんじゃないと思うよ?」
カレンさんがアヘンでもキメたような顔をしながら、そう僕に答える。
時々ビクンビクンと震えるのがものすごく怖い。
「どうして? お姉ちゃんは上級焚書官なんだから、どうにかなるんじゃないの?」
僕が首をかしげて尋ねると、気難しそうにカレンさんは答える。
「んーとね、八握劔って簡単に言えば現実改変抑制装置なの。それを非現実の塊であるあの子達に装備させると……」
そりゃ大変な事態である。
「そうとなれば、余計に対策を練る必要が出てきたじゃない……」
沈痛そうにライラがつぶやく。
「それに、ライムちゃんが心配だから早くしないとまずいと思うんだよ」
先ほどまで静かに膝の上で話を聞いていたグースもそう主張する。
誰だ、さっき暢気にどうにかなるって言ったやつ……
先行きの見えない不安で部屋が埋め尽くされる中、カレンさんが陽気に口を開いた。
「大丈夫! とりあえずお姉ちゃんと若葉君で連中を倒した後で、ライラちゃんがあの外道どもを回収しちゃえば問題ないよ!」
彼女はそう言って胸を張っているが、問題しかない気がする……
自分で言うのもなんだが、僕の戦闘能力は皆無であるし。
「そんなことできるわけないでしょ! これ以上若葉を危険な目にあわせられないわ」
ライラがそう叫ぶ。
「確かに今のままの若葉君じゃ危険だよ。でも、このまま何もしなかったら若葉君はあの連中よりやばい魔導書に瞬殺されちゃうもん! ここでお姉ちゃんが心を鬼にして鍛錬しようと思って……」
カレンさんが珍しくまともに建設的な話をしている。
実際僕はこのままだとひたすらゴーレムと幼女の後ろで震えている役立たずであるし、カレンさんがそう言ってくれるのなら断る理由はない。
「悔しいけど、確かにその通りだわ……」
ライラは眉間にしわを寄せながら渋々そう答える。
「グースちゃんはどう思う?」
カレンさんは本来敵対しているグースへ妹と接するかのように話しかける。
「私は若葉の安全が第一なんだよ。でもライムちゃんのこともあるし時間はかけられないから一週間だけ待ってあげるんだよ。その間に若葉を私と『蒐集』に勝てるぐらいに仕上げられる?」
グースは淡々とした声音でカレンさんに尋ねる。
「それはもちろん、お姉ちゃんだからね。ありったけの意地と権力を使って三日で終わらせて見せるとも」
ドヤ顔でカレンさんはグースに答える。
「本当に大丈夫かしら…… あと、さっきから私達の呼び方どうしたのよ? ぞわっとするんだけど」
ライラが鳥肌を立てながら言う。
「え? だって私は若葉君のお姉ちゃんなんだから、若葉君の契約魔導書である二人も妹だし普通でしょ?」
超ひも理論とかそういう次元を超えている……
「え、どういうことよ!?」
「『蒐集』、これ以上考えたら負けなんだよ……」
ライラは動揺し、グースは達観した目でどこか遠いところを眺めていた。
「まぁ、とりあえず若葉君も、トレーニングすることに反対意見はないよね?
僕がふがいないままだとライラ達まで、傷つけることになるんだ。
いつまでも足手まといでもいるわけにもいかない。
そんな僕は迷わずカレンさんの言葉に首を縦に振る。
「じゃあ明日から三日間██山で特訓しようか! やっぱ鍛錬とかって山でやるべきだしね」
そう言って彼女が指を鳴らす。
バサバサバサバサ
突然ヘリ特有の騒音が外から響く。
「急に何なのよこれ!?」
「とってもうるさいんだよ!」
ライラもグースも耳をふさいでいる。
徐々に音源は近づいていき、僕の家の頂上まで来たかと思うと騒音がやんでいく。
おそらく僕の家にとまったのであろう。
多分カレンさんが勝手に人の家にヘリポートを建てていたのだ……
「さぁ、三人とも上に行こう! 大丈夫、生活用品は用意してあるし、朱里ちゃんや学校はヴァチカンの記憶消去剤とカバーストーリーでごまかせられるからね」
ヴァチカンって本当に何者なのだろうか?
世界を牛耳る悪の組織といわれても違和感がない……
カレンさんがそう言っていつの間にか現れていた隠し階段を昇っていく。
僕らも彼女の背についていく。
登り切った先にはテレビでしかお目にかかれないような巨大なヘリが止まっていた。
周りには多くの黒服が各々作業をしており、そのうちの一人がカレンさんに耳打ちをする。
「いつでも離陸可能らしいわ。さぁ、██山でお姉ちゃんと愛し合ゲフンゲフン特訓しましょう!」
彼女は微笑みながら僕らにヘリへ乗るよう促す。
「今こいつ愛し合おうって言いかけなかったかしら……」
「今回は真面目モードなのって信用した私が馬鹿だったんだよ……」
「まぁ、さすがに今回はこんなに張り切ってるわけだし、お姉ちゃんも真面目に特訓してくれるでしょ、多分……」
一抹の不安を覚えながら僕らは██山へ向かった。




