焚書官との鍛錬
「さぁ、██山に着いたよ! 今から三日間ムッチリと……じゃなかったみっちりとしごいてあげるからね、若葉君!」
ヘリが着陸すると、カレンさんがはつらつと僕らに告げる。
「……お姉ちゃん、今変なこと言いかけなかった?」
僕は思わずジト目で彼女に尋ねる。
「若葉、諦めなさい。そいつに何言っても無駄よ……」
ライラが僕をそう諭す。
「筋金入りの色狂いのことより、この後の動きを再確認したほうがよっぽど有意義なんだよ」
そう言ってグースはカレンさんに耳打ちする。
カレンさんはグースの話を了承したのか、うなずいた後指を鳴らす。
すると、シュバッという音とともに黒服が二振りの剣を持ってきた。
「火ーちゃんにこの二つの八握劔を三日掛けて強化してもらっている間に、若葉と焚書官が訓練するの。この手筈通りで良いんだよ?」
グースが僕らに尋ねてくる。
「うん、それで大丈夫だよ! じゃあ、早速始めちゃおう、若葉君」
そう高らかに言って、カレンさんが僕の手を引いてくる。
「私たちは火ーちゃんの護衛をしてるけど、何かあったらすぐに叫びなさいよ? 特に焚書官に襲われそうになったらすぐに!」
鬼気迫った顔でライラが僕に告げる。
「う、うん」
僕はあまりの気迫にうなずくしかなかった。
「あと、怪我したりしてもすぐ呼ぶのよ! それから……」
「じゃあ、私たちは人気のなさそうな場所で作業してくるの」
過保護な母親の如く様々な忠告をしてくれるライラを、埒が明かないと悟ったグースが無理やり連れて行った。
僕はその背を見つめながら、カレンさんに引きずられていくのであった。
「じゃあ早速、剣の振り方と効率的な攻撃方法について教えていくよ。若葉君は八握劔を振るったことあったよね?」
██山の3合目ぐらいにある秘密の特訓場でカレンさんは僕にそう問いかけてきた。
「うん、エルさん達と戦った時に一回だけ使ったことがあるよ」
僕は素直にそう答える。
「それならどれくらい若葉君が剣を振るえるか試してみようか。木刀を用意しろ!」
カレンさんが真面目モードで部下であろう黒服たちに叱責する。
「若葉君、この木刀で私を殺すつもりで来てね。最初だから私は武器を持たないし攻撃もしない。とにかくお姉ちゃんに一撃を入れて?」
彼女は黒服から荒々しく木刀をとると、それを僕に優しく手渡ししてくれる。
さっきから黒服の人達が、カレンさんの僕に対する態度に驚愕しっぱなしなんだけど……
ひどい黒服だと、「アレ本当に同一人物か?」とか「どうやってうちの猛獣を飼いならしたんだ、あの少年」とか言ってるし。
「コ、コホン。あと言い忘れてたけど、今日中に私に一撃も入れれなかったら、若葉君にはお仕置きを受けてもらうからね」
失礼な黒服を殴りながら、カレンさんが僕に告げる。
他の黒服はお仕置きというワードを聞いた瞬間震えていた。
これは相当えぐいものなんだろうなぁ……
そう思いつつも僕は彼女にお仕置きの内容を尋ねる。
「一応聞くけどお仕置きって何なの、お姉ちゃん?」
カレンさんはニヤリと笑って僕に答える。
「お姉ちゃんと一緒にお風呂に入ってもらうからね! いつも一緒に入ってくれなくて寂しかったし……」
つまり死が待っているわけだ。
黒服たちも先ほどとは別の意味で震えている。
「じゃあ、始めようか!」
僕の貞操を掛けた重要な訓練の火蓋が切って下された。
とりあえず剣の戦闘の定石など知らないので、愚直にカレンさんの間合いに入っていく。
僕は大きく振りかぶって、カレンさんの右肩を狙う。
「うん、一回しか振るったことのないわりには動きもいいし、狙いもいいよ!」
カレンさんはそう褒めながら、軽々と僕の剣を避けていく。
彼女は僕が振り被ってバランスを崩したときに、うまい具合に僕を地面に叩きつける。
「痛っ、そう言うなら当たってくださいよ……」
何とか立ち上がりながら僕はカレンさんを恨ましげににらんでそう言う。
「それとこれとは話が別だよ。まだまだ狙いがわかりやす過ぎだし、一緒にお風呂入りたいし」
カレンさんは飄々とそう言う。
その後も愚直に挑み続けたが、結果は同じであった。
お昼の休憩時間、僕はカレンさんが作ったらしいお弁当を食べながら考える。
ちなみにカレンさんは僕が弁当を食べただけで妄想の世界へと飛び立ってしまったので、会話が成立しない。
今も、「私|(の卵焼き)が若葉君の粘膜でぐちょぐちょになってるぅ」とか「若葉君が私|(の蜂蜜ミルク)を飲んでるよぉ」とか訳のわからないことをのたまっている。
なので、どうやってこの変態に一撃を食らわせるかは一人で考えなければならない。
カレンさんはさっき狙いがわかりやすいと言っていた。
実際さっき僕は大きく振り上げて振り下ろすという攻撃しかしてなかったし、エルさんのゴーレム相手ではそれだけでよかった。
だが、カレンさんはゴーレムと違い人間離れしたスピードがある。
狙いを読まれていては一撃当てることなど夢のまた夢であろう。
僕にはフェイントなんて高度なテクニックはできないし……
でも、カレンさんの予想を超える攻撃ができれば、一緒にお風呂に入ることが回避できるかもしれない。
一筋の光明が差し込んできたところで昼休憩が終わった。




