魔導書との再録
『うつ病患者が急増中!? ストレスを跳ねのける方法スペシャル~!』
「若葉君も最近お疲れ気味っぽいから、これ見てお姉ちゃんと一緒に休も?」
ソファーに座っているカレンさんが僕に向かってそう言う。
疲れの原因の4割は彼女なのだが……
ちなみに残りの原因はライラが5割とグースが1割である。
カレンさんが僕の日常に混ざりこんで一週間が経った。
彼女はあの日以来、僕の姉を名乗って家に居座りこんでいた。
当初の予想と反して、騒動も起こることなく日常生活を送れたのは非常に意外だったが……
そんな異常な平穏を噛み締め、渋々彼女の提案に乗ってテレビの前で寛いでいると、ライラが僕に報告してくる。
「『火打ち箱』の修復が完了したわ。せっかくだし、あの子に若葉と『子守唄』を紹介したいから、若葉も部屋に来なさい!」
「グースはもう呼んだのかい?」
「ええ、あとは若葉だけよ。早くして頂戴な」
そう言われた僕は彼女とともに二階の自室へ上がるためソファーを立つ。
横にいたカレンさんも、親に引っ付いて離れない生まれたての雛のごとく僕についてくる。
「あ、焚書官は来るとややこしくなるから、ここで待ってなさいよ」
僕もそう思う。多分最低でも一部屋壊れるし、十中八九家が半壊以上の被害を受けると思う。
「やだー お姉ちゃんは若葉君のそばにいるの!」
「あら焚書官ったら、もう一回『子守唄』と一緒に公園と同じことされたいの?」
駄々をこねるカレンさんに向かって、彼女は妖艶に微笑みながら脅す。
これには、カレンさんも前の時みたいに震えだして少しは静かになるだろうと思ったが違った。
「フッフッフッ、私はそんじょそこらの焚書官じゃなくて上級焚書官なんだよ? あれぐらいのトラウマは克服できるし、前と違って体も八握劔も絶好調だからそんな脅し聞かないんですー!」
あれだろうか? 魔導書の関係者は能力や役職の高さと精神年齢は反比例するのだろうか?
今のところ、魔導書の関係者で精神年齢が一番高かったのはエルさんだろう。次点でグース、その後越えられない厚い壁が幾重にも積み重なった後、目の前の二人がランクインする。
「何でこう無駄に丈夫なのよ! あと八握劔って、そういえば若葉と出会ったばかりのころ、あんた私にアレをぶん投げてくれたわよね? あーもう我慢できない! 若葉、ゴーレム出すから手伝いなさい」
「残念だけど、若葉君はお姉ちゃんの後押しをしてくれるに決まってるんだから! ね、若葉君?」
二人がそう言って臨戦態勢のままこちらを向いてくる。
「何で僕が必ずどっちかの手助けをすると思うんだい?」
僕は自宅破壊の幇助をする気はない。
「じゃあ、どっちが若葉にふさわしいか白黒はっきりつけようじゃない!」
「望むところね、あとで負けて泣き言いっても知らないよ?」
そう言って二人は戦闘を始めようとする。
「ス、ストップ! 二人とも、一回落ち着こうか。グースも待ってるんだし、穏便に素早く話し合いで済ませようよ」
「無駄よ! コイツ武力行使しないと、永遠に駄々こね続けるわよ」
「うん! お姉ちゃんをつれていってくれないなら、駄々こね続けて若葉君にしがみつき続けるつもりだよ」
胸を張ってそんなこと言わないでほしい。こんな姿を見たら親御さんが悲しむ。
このままじゃ埒が明かないので、僕は身売りすることにした。
「じゃあ、あとで僕がお姉ちゃんにマッサージしてあげるからそれで我慢してくれる?」
僕はカレンさんに向かってそう言う。
カレンさんをお姉ちゃんと呼ぶことに慣れてきてしまった自分が憎い……
「え、本当!? するする、お姉ちゃん我慢するよ!」
カレンさんは僕の言葉に引くほど過剰反応を示す。
「若葉、そんなこと言って大丈夫なの? コイツいかがわしいマッサージと勘違いしてるかも……」
「流石にそれはお姉ちゃんに失礼だよ…… ね?」
そんな発想は脳内が桜でんぶまみれのセクハラ親父ぐらいしかしないだろう。
「あ、あ、うん、もちろん! お姉ちゃんが弟にそんな不埒なことを考えるわけないでしょ!」
これはクロですね。
僕はこれから言い回しに注意していかなければと心に刻んだ。
何とかカレンさんを説得して、二階への昇っていく。
ライラが扉を開けると既に中でグースが退屈そうに座っていた。
「長かったんだよ! もう待ちくたびれたの」
僕に向かって彼女はそう行ってくる。
今回一番つらかったのは、多分ずっと一人で待っていた彼女である。
そう思うと申し訳なさがこみあげてくる。
「ごめんね、下で少しもめててね」
「じゃあ、頭を撫でてほしいんだよ! 一人で寂しかったの……」
「うん、寂しい思いをさせてごめんね。おいで」
僕はそう言って、彼女を膝の上に乗せて頭をなでる。
「あ、あとで私にやってくれても構わないのよ、若葉?」
「ライラもやってほしいんだね?」
「いや、別に私は興味があるわけじゃなくなくなくないのよ!」
じゃあ、あるじゃないか……
「とりあえず、『火打ち箱』を再蒐集してからね」
「そ、それもそうね。じゃあ、いっちょ行くわよ!」
そう言って彼女が詠唱する。
「戻りて至れ、常世の国へ!」
彼女の胸元から光の奔流が溢れる。
光は徐々に人の形へと変化し、最終的に少女になった。
現れた少女は桃色の髪をした少女であった。
外見の年齢はライラと同じぐらいであろう。
彼女の明るい髪色に対し、服はライラやグースのように自己主張の激しいドレスではなく、とんがり帽子と使い古されたローブであった。
容姿は今までの魔導書の例に漏れず整ったものであったが、彼女はその中でも知的で寡黙な印象を与える顔だちだった。
彼女はゆっくりと口を開く。
「はじめまして、私は『火打ち箱』と言う。気軽に火ーちゃんって呼んでほしい」




