魔導書との安否
「おいおい、大丈夫か? 朝っぱら凄いだるそうだな、若葉。夜更かしでもしたのか?」
机に突っ伏している僕に向かって、鏑木がそう話しかけてくる。
「まぁ、昨日から色々あってね。うまく説明できないけど今日は一日中こんな感じだと思う」
本当に昨夜は色々あった。
夜中に焚書官と戦闘して、へとへとになりながら何とか勝ったと思ったら、その日の朝に相手の焚書官がよくわからんこと言いだすし……
「でも、今日は海外から帰ってきたあの美人な姉ちゃんと一緒に登校したんだろ? それで疲れは吹き飛びそうなものだけどなぁ」
大勢の女子に囲まれて談笑しているカレンさんを指差して、鏑木はそう言う。
見た目だけは完璧だから、そう思えるかもしれないが忘れてはいけない。
僕の疲れの原因はあの人だし、頭の中身はぶっ飛んでいる。
あの狂気は元々なのか、ライラ達が何かしたせいなのか定かではないが、おかげで僕の日常はきれいに崩壊した。
まぁ日常云々に関してはライラと出会った時点で、崩壊しているような気がするが……
「まぁ、あんまりにしんどいなら言えよ。保健室ぐらいまでだったら手を貸してやる」
「ありがとう鏑木、そう言ってくれると少し気が楽になるよ」
「別に大したことじゃねえし、そんなかしこまって言わなくていいぞ?」
疲れ切った僕の心に彼の言葉が染み渡る。
なんて出来た友人なのだろうか……
そう僕が打ちひしがれてると、グースが念を送ってきた。
『若葉、すごい危ないの!』
『急にどうしたんだい?』
カレンさんが何かやらかしたのだろうか?
慌てて頭を起こし僕が聞き返すと、グースは高らかに僕に向かって言う。
『衆道の沼にはまりそうなの! 男同士の非生産的な恋愛は絶対駄目なんだよ!』
『そんなことあるわけないだろう……』
僕は根っからの異性愛者である。
『そんなことあるんだよ! ね、『蒐集』もそう思わないの?』
『んー そーね うん』
グースはなおもそんなくだらないことを主張し、眠そうなライラの肩をつかんで揺らしていた。
真剣に聞いた僕が馬鹿だった。
僕はそう思い、がくりと首を倒して、カレンさんに注意しながら一日を終えるのだった。
「そういえば、あの禁書は結局どうなったんだい?」
カレンさんは仕事で居らず、二人とともにいつもの通学路を歩いている僕は、ふとそんなことをライラに尋ねる。
彼女は微笑みながら、僕に向かって言った。
「あぁ、彼女なら何とかなったわよ。今はまだ絶対安静だから現界させて再収用はできないけど、書名も判明したし一件落着ね!」
「一体誰だったんだよ?」
グースがすかさず尋ねる。
「私の旧友の『火打ち箱』よ。助けられて本当によかったわ……」
そう言う彼女の目は少し潤んでいた。
「じゃあ、また元気になったら外に出てきてもらって色々話したいね」
「ええ、失くした『グリモア見つける君』の新しい奴を作ってもらわなきゃいけないもの」
「すっごい図図しいんだよ……」
「失敬な、人望があると言いなさいよ!」
そう言ってまた二人は言い争いを始める。
だが、彼女のその言葉を聞いて、僕は少し合点が行った。
昔彼女は『グリモア見つける君』にセキュリティが掛かっていて、ヴァチカンとか部外者が使えば不幸に襲われる場所に誘導されるとか言っていた。
だが、カレンさんたちは莫大なコストをかけつつもあれを正しく運用し、この街に来たのは何故だろうとずっと不思議に思っていたのだ。
つまりは作成者を捕縛しているのだから、脅迫やらなんやらを駆使してどうにか正しく動かしたのだろう。
そんなことを考えていたら、ライラに指で小突かれた。
「何ボーッと突っ立ってるの? 早く家に帰りましょうよ。『火打ち箱』のためにも私は一刻も早く家に帰って杏仁豆腐を満喫しなきゃならないのよ!」
「一体、杏仁豆腐と『火打ち箱』に何の関係性があるんだい?」
「私が幸せになったら、こう修繕機能にもブーストが掛かりそうじゃない!」
凄まじくあいまいな根拠である。というかこれを根拠といったら色々な方面から怒られそうだ。
そんなくだらない掛け合いをしながら僕らは無事に帰宅するのであった。
「姉さん、僕がすぐに横にいる下賤な人間から解放するから、もう少しだけ耐えてね……」
自分たちが尾行されていることに気づかないまま……




