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魔導書ライラと集めましょう?  作者: 十六夜の懐中時計
第三章『火打ち箱』を集めましょう?
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魔導書との選択

「万事オッケーよ、若葉!」

「どうにかなったんだよ!」

 二人が手を振りながら戻ってきた。

 カレンさんは、妹に「若葉君に用事がある」と言って先に学校に行かせたようだ。

 彼女は二人の後を追ってこちらへやってきた。

「ごめんね、若葉君。二人に言われるまで気づかなかったけど、よく考えたら突然家が改造されたらびっくりして逃げたくなるよね……」

 カレンさんは少ししょぼくれながら、僕に謝ってくる。

 だが、彼女は何かを間違えている気がする。

 僕が彼女から逃げようとしている理由は、キャラ崩壊して突然コスプレして姉を名乗って近づいてきた彼女がこわかったからだ。

 家が改造されたのも驚いたが、理由は決してそこではないのだ……

「い、いや家のことに関しては驚きましたけど、そんなことより面倒な事件とかによく直面して慣れてますから気にしてませんよ」

 火の鳥にしろ、エルさんにしろ、グースにしろ、唐突に襲ってくる連中ばっかりであったし……

「こんな駄目なお姉ちゃんにそんなこと言ってくれるなんて、若葉君は本当にやさしいね…… 今から家のことについて説明するね!」

 そう言って彼女が説明を始める。

 僕としては、何故カレンさんが突然姉キャラで攻めてきた挙句セーラー服でここにいるのかの方について説明がほしいのだが……

「ねぇ、そろそろ通報したほうがいいんじゃない、アレ?」

「姉を名乗る不審者って架空の産物じゃなかったことに驚きなんだよ……」

 戻ってきた二人も今の発言を聞いてものすごい形相をしながら、ぼそぼそつぶやいているし、やっぱり家より姉キャラの説明がほしい。

「昨日言った通り、若葉君はヴァチカンの同盟者となった。そんな若葉君が魔導書(グリモア)に襲撃されたら私たちの面目は丸つぶれだからね」

 まぁ、同盟者が簡単に魔導書(グリモア)にやられていたら、ヴァチカンの対魔導書(グリモア)戦闘能力はないって喧伝しているようなものだろう。

「なるほど、それで家の防御力を上げるためにこんなことを?」

「うん、これだけ増改築して聖釘を打ち込んでおけば、並大抵の魔導書(グリモア)は何にもできないからね!」

 というか、明らかに過剰だろう……

 ここで僕の頭の中にふと疑問が生じたので、それを彼女にそのままぶつける。

「そういえば、よくこんな増改築できましたね? ここは住宅地で僕の家の土地ってそんなに広くないのに」

 まだ外から見ていないのでわからないが、この広間の大きさを見る限り、うちの庭をすべて使っても増改築するスペースがないように思える。

「普通に辺り一帯を買収したら、そんな問題解決しちゃったよ」

「ちょっと解決方法が強引すぎやしませんか!? 裁判沙汰になりそうなんですけど」

 というか、さらなる問題を起こしている気がする。

 近隣住民からクレームの電話が押し寄せてきそうで怖い……

「大丈夫、そこはお姉ちゃんだって考えてるから! ヴァチカン特製の記憶消去剤や山吹色の菓子折りとかを使って、元々若葉君の家は豪邸だったってことになってるよ!」

 僕を安心させるためか朗らかな笑みを浮かべながら彼女は言う。

 彼女のその言葉を聞いて、僕は唖然(あぜん)とするしかなかった。

「これ、どう考えても魔導書(グリモア)の現実改変より性質(たち)悪いでしょ」

「私たちより、よっぽど世界を滅ぼしそうなの」

 あきれ口調で二人がつぶやいていた。

 僕もすこぶるそう思ってしまったが、面倒なことになりそうなので口に出さず、カレンさんとの会話を続ける。 

「もしかして、妹が急にカレンさんを姉だと言い出したのも?」

「うん、少しだけ記憶消去剤を…… じゃないじゃない! 私たちは元々姉妹だったでしょ、若葉君?」

 本気でヴァチカンのほうがヤバい気がしてきた。

 そしてカレンさんも別の方向でヤバい。

「さぁ、一緒に学校に行こう? 早くしないと遅刻しちゃうよ」

 カレンさんはさも当たり前のように訳の分からないことを言いだす。

 二人の交渉は何だったのかと思い、振り返ってみると項垂れるグースとウィンクをするライラがいた。

『うまくいったと思ったの……』

『まぁ、何とかなるわよ(ケ・セラ・セラ)! 私は応援だけしてるから』

 どうやら、あの時点では説得できていたようだが、カレンさんは三歩進んでそれをすべて忘れたようだ。

 念話で喧嘩を売ってきたライラが気になるが、今は目の前のカレンさんに集中しなければならない。

「何言ってるんですか? カレンさんって高校生なんて年じゃないですよね?」

 彼女は非常に美しく若く見えるが、JKを名乗るのはさすがにきついと思うのだが。

「お姉ちゃんは若葉君の一つ上の17歳だよ? 私が5月生まれで若葉君が3月生まれだから、同じ学年だけどね」

 カレンさんじゅうななさいという奴なのであろうか?

「確か、ヴァチカンの焚書官って成人しかなれないはずよね、『子守唄』?」

「上級焚書官だから、なりたてはありえないってことも考慮しなきゃだよ……」

 二人がこそこそ話している。

 何で彼らは地雷を右足で堂々と踏み抜いていくのか?

「お姉ちゃんは17歳、だよ? だから一緒に学校にいこ?」

 おかげでカレンさんが頬を膨らましながら、僕にそう主張してくる。

 主張は個人の自由であるから結構なのだが、床板を壊すのはやめてほしい……

 増改築されたとはいえ一応ここも僕の家らしいし。

 ただ、この調子だと彼女に抵抗するのは得策ではなさそうだ。

 そう思った僕は渋々彼女に言う。

「そうですか、17歳ですか、わかりました。じゃあ、学校に行きましょう。早くしないと遅刻してしまいますし」

「うん! でも。私はお姉ちゃんなんだから、ため口で話してほしいな、ね?」

 可愛らしく、図図しくさらに僕に要求をしてくる。

 僕の全身の血が滾る。

 だが、ここを耐えれば普段の学校生活へ戻れるのだ。

「そ、そうだね、お姉ちゃん。さぁ、学校に行こうか」

 引きつりそうな顔を隠しながらカレンさんに言う。

 彼女は嬉しそうに僕の手を引っ張って歩き始めた。

『若葉、ここで諦めていいのかしら? このままじゃ試合終了よ?』

 あんなに素晴らしいセリフでも、彼女が言うと台無しである。

『ここで諦めないと、確実に面倒なことになるし、諦めて現実を直視しなければ、カレンさんが危害を加えてくることはなさそうだからこれでいいんだよ』

 得るものと失うものを考慮した結果である。

 最初は混乱と恐怖で抵抗していたが、よくよく考えたら彼女についていって僕が被るデメリットはそう多くない。

 彼女に敵対して昨日のようにドンパチする方が大変だ。

『でも、大丈夫なの? 今の若葉、昔の私より酷い目をしてる気がするの』

 散々な言われようである。

 でも仕方がないじゃないか。

 彼女と学校に行けば、確実に彼女が何かやらかし、僕は彼女に襲われるのがほぼ確定しているのだ。

 多くのデメリットのあるドンパチを回避するため、この数少ないデメリットに僕は耐えなければならないのだ。

 こういう選択をすることが大人になるってことなのだろうか?

 そんなことを考えながら、僕はカレンさんに引っ張られながら登校するのであった。


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