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魔導書ライラと集めましょう?  作者: 十六夜の懐中時計
第三章『火打ち箱』を集めましょう?
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魔導書との戦慄

「ど、どういうことなんだよ、若葉!」

「若葉ったら焚書官に何吹き込んだのよ! あんなの()(がた)いとか名状(めいじょう)(がた)いとかそういうレベルじゃないわよ!」

 彼女たちはまるで神話生物が現れた時のように僕に向かって叫んだ。

 そんなこと言われたって僕も何が何だかわからない。

 大体昨日は色々あり過ぎて、記憶があいまいなのだ。

「どうする? とりあえず、開けて入ってみるかい?」

 僕は怖くて行けないけど、カレンさんたちに何かやらかしてトラウマを植え付けた彼女たちならいけるかもしれない……

「無理よ。あいつの目を見なさいよ! 多分もう私たちのことなんとも思ってないわ……」

「あれは、恋と自暴自棄が恐怖と混ざって、はっちゃけちゃってる目なんだよ! そんな目をしてる焚書官なんて怖くて近づけないの!」

 二人は震えながら僕に主張する。

「自暴自棄と恐怖はわかるけど、恋って何だい?」

 さらっと流しそうになったが、気になったことを僕は質問する。

「若葉は知らなくていいのよ……」

「それを若葉に話すと余計に状況が複雑になるんだよ……」

 生暖かい目をしながら、彼女たちは僕をそう諭してきた。

「それより、今はあれを対処しなきゃでしょ? 若葉は学校があるんだし、どうにかしてあそこを通らなきゃいけないんだから……」

 ライラがそう僕らに告げる。

 そう、僕らはあれから目を背けることはできないのだ。

 そう嘆いていると、グースが何気なくつぶやく。

「昨日みたいに窓から外に出て逃げちゃだめなの?」

「それだよ!」

 僕はそう叫びながら、なりふり構わず階段を駆け上がる。

 自分の部屋の扉を開き、窓際に向かって曲がった鉄砲玉のように進んでいく。

 救いはすぐそこであった。

「うっそでしょ……」

 窓は何やら得体のしれない棒状の何かが外側から何本も打ち込まれていた。

 何とか開けようと、僕は取っ手を揺らすが窓はびくともしない。

「何よこれ!? 何で聖槍(せいそう)がこんなところに刺さってるのよ!」

「多分扉の奥のやつの仕業なの! 職権乱用が甚だしすぎるんだよ……」

 僕を追ってきた二人が窓を見て叫ぶ。

「何だい、その聖何とかっていうのは?」

 とりあえず僕は彼女たちに尋ねる。

 久々に魔導書(グリモア)の専門用語が出てきてくれたおかげで、カレンさんによる混乱も相まってまた頭痛が痛くなってきた。

 朝っぱらから脳のキャパオーバーの連続だ。

「あれよ、前に魔導書(グリモア)って現実改変するって言ったわよね。それを防いでくれるヴァチカンの秘密兵器があれよ」

 ライラがいつもの軽い口調で教えてくれる。

 ヴァチカンの秘密兵器は有能なものが多すぎやしないか?

 本部にどこぞの22世紀の青狸が住んでいるのだろうか。

「どういう原理でそんなことしてるのさ」 

 僕は質問を続ける。

「何か知らないけど、現実の強度を上げて周りの魔導書(グリモア)の能力や魔法を使えなくするらしいわ」

「そんなの戦闘中に出されたら終わりじゃないか!」

 僕は思わず声を荒らげる。

 それをなだめるようにグースが僕に言う

「聖槍は最近出来たばかりらしいし、重いしコストがかさむせいで、戦闘用じゃなくてヴァチカンの重要な拠点にしか使えないから安心していいの!」

「じゃあ警戒する必要もなさそうだね」

 二人ともなぜこんなにヴァチカンの内情に詳しいのだろうか?

 まぁライラは前言ってたからわかるが、もしやグースもヴァチカンに潜り込んで認識阻害装置あさりをしていたのだろうか?

「って、何でそんなもんが家にぶっ刺さってんのさ!」

 ここはヴァチカンなんて言う頭の飛んだ連中とは全く関係のない場所なのだが……

「良かったわね、若葉……」

「これで、ほかの魔導書(グリモア)に攻め込まれないんだよ……」

 本来なら諸手を挙げて歓迎すべきことなのに、二人の声はこの世の終わりに直面したときに出すような声であった。

 僕の場合、それは比喩で済まなかった。

 この世の終わりだ。

「もうこれって、あそこに突入するしかないってことだよね!?」

 僕はそう叫ぶ。

「まさに袋のネズミね」

「『蒐集』、うまいこと言ったの! 座布団一枚なんだよ!」

 二人は僕から目をそらして、笑い声を上げていた。ただ、二人の顔は笑っていなかった。

 二人は現実から目をそらしているようだ……

「とりあえず妹が心配だし、下に戻ろう」

 その提案に乗った二人とともに、階段を下りていく。

 僕らは玄関の扉の前に戻る、

 だがそこに朱里の姿はなかった。

 僕らは慌てて家の中を探したが、朱里が見つかることはなかった。

「朱里は一体どこに行ったんだ?」

 嘆くように僕はつぶやいた。

「もしかして、あの中じゃない?」

 ライラがそう言って玄関の扉を指す。

 まさかと思い、三人で再び玄関の扉を開き恐る恐る中の様子をうかがうと、そこにはセーラー服のカレンさんと談笑する朱里がいた。

あぁ、訳が分からない。

 ふと下を見れば、ライラとグースも宇宙の深淵を覗いたような顔をしていた。

「あ、兄さんがようやく来た! 早くおいでよ、せっかくお姉ちゃんが待ってくれてるんだから」

 そう言ってこちらに手を振っている。

 妹は何か悪い薬をやったのだろうか?

『もう僕頭が思考を放棄しそうなんだけど』

『もう若葉ったらそれだから童貞なのよ。めちゃモテなこの私は認識すら放棄したわ!』

『若葉も『蒐集』も詰めが甘いんだよ。私は自分で自分に記憶消去の魔法をかけたの!』

 僕らは現実が受け止めきれず、念話しながら硬直していた。

 だから忘れていたのだ。

 深淵を覗いたとき深淵もまたこちらを覗いていることを。

「全くもう、若葉君ったら。お姉ちゃんがいないとお寝坊さんなんだから~!」

 そう言って、硬直している僕らをまとめて、セーラー服を着たカレンさんが扉から引きずり出した。


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