魔導書との困惑
「に、兄さん、これは一体どういうことなの?」
「分からない。僕にはわからないということ以外わからない……」
僕は妹に聞かれてそう答える。
激闘が終わり、夜が明けて朝目を覚まして、妹とともに玄関へ郵便物を取りにいく最中のことであった。
思わず国会議員のような発言をしてしまったが、この光景を見れば誰だってそうなるだろう。
壊れたはずの玄関がきれいに修繕されている。
ヴァチカンの仕業だろうか?
そう思うと少し余裕が出てきた僕は、妹にここで待つよう指示して扉に近づく。
恐る恐る僕が扉を開き頭を出してみると、凄まじい光景が目に入ってきた。
玄関とは外と家をつなぐものであるはずだから玄関の扉を開けば外の景色が見えるのは常識である。
だが、修繕された玄関の扉を開いても、いつもの郵便ポストのある庭が見えることはなかった。
代わりに、アラブの石油王がダンスパーティでもやってそうな広い部屋が見えたのだ。
床や壁は大理石でできているようで、スタイリッシュなデザインは洗練された設計であった。
天井からつるされたシャンデリアは、豪華絢爛、百花繚乱、ファビュラスでエレガントな装飾であった。
「朱里、この部屋は見ちゃいけない。絶対に見ちゃいけないものだ」
「どうして?」
「見ていけないものが部屋にあるということは部屋に見ていけないもんがあるんだ」
僕のこめかみあたりにある頭の頭痛が痛んできた。
いけない、僕の言語機能が異常をきたし始めている。
言葉遣いが先ほどからめちゃめちゃだ……
『ライラ、グース起きて!! 異常事態だよ!』
妹もいる手前大きな声が出せなかったので、僕は急いで二人に念を飛ばす。
『んー 何よ若葉? こんな朝っぱらから騒がないでほしいわ』
『ふみゅー 私も朝は弱いから『蒐集』と同意見なんだよ』
不満げに二人がそう返してくる。
時間も場所も考えず年がら年中騒いでる連中にだけは言われたくない……
『今はそんなこと言ってる場合じゃないんだ。玄関がすごいことになってるんだよ!』
『何よ? 玄関が杏仁豆腐まみれにもなってたの?』
『あれなの、多分玄関を開いたらそこは童謡の世界だったとかそう言うことだと思うんだよ』
『そんなの君たちの幻影世界だけで十分だよ』
現実でそんなことが起きたら僕は確実に卒倒する。
『じゃあ、何よ? 『火の鳥』が復活して玄関に巣を作ったとか?』
『縁起でもないことを言わないでよ……』
あんな化け物がそんなツバメみたく家に襲撃してきたら、僕は発狂するしかない。
『じゃあ、何が起こったの? すごい気になるんだよ!』
話がわき道にそれる中、グースが本題を振ってくれた。
『玄関を開いたら、その先に凄い高級そうな部屋ができてたんだ』
ゆっくりはっきり、マイクに向かって話すように僕は念じる。
『あら、若葉ったらついに気がふれたの?』
『疲れてるなら、私に甘えてくれていいんだよ?』
彼女達は僕のことを信じていないようだ……
『本当なんだって、だから異常事態なんだよ!』
僕は必死に彼女たちに訴える。
『若葉、現実でそんなことありえるわけないでしょ? 正気に戻りなさいな』
『そんな冗談、突拍子なさ過ぎて誰も信じないと思うの』
『君等の存在より現実性はあると思うんだけど……』
喋って色々な能力が使える本っていうのも中々の冗談だろう。
仮に学校でこんなこと言ったら確実に電波認定される。
『全く、若葉は仕方がないわね。冗談を真に受けてあげるのは今回だけよ』
『『蒐集』、若葉も悪戯したい年頃なんだよ。だから年上のレディである私たちは黙って騙されてあげようなの』
『それもそうね!』
突っ込みどころが多すぎる。
ただでさえ目の前の事態にすら突っ込めない状態なのだから、少しは控えめにしてくれると助かるのだが……
そんなくだらないことを考えていると、ドタドタと階段を下りてくる足音が聞こえてきた。
「あら、妹ちゃんまで一緒になって何してるのよ?」
「きっと、リアリティを増やすために若葉が妹ちゃんに頼んだんだよ」
そんな馬鹿なこと妹に頼めるわけないと思うのだが……
「まぁ、いいわ。しっかりだまされてあげなきゃね!」
「私の演技力がここで活きるの!」
彼女達はそう意気込んで、玄関の扉から仲良く顔を出す。
すぐに彼女らは顔を引っ込め、ぎこちなく振り向いて言う。
「これってあれでしょ? 現代で流行りのVRってやつでしょ? 私ったら博識だからそう言うのも知ってるのよ」
震える声でライラが僕に言う。
「じゃあ、何で触れるんだい?」
そういうと彼女は押し黙ってしまった。
「あ、あれなの、多分魔導書の魔法なんだよ! 『ドグラマグラ』とかが何かやったんだよ!」
慌てながら、グースがそう言う。
「そ、そうね、きっとそれね」
ライラもそれに同調し、胸を張っていた。
「魔導書がわざわざ焚書官が破壊した現場に来るかな?」
「いや、そういう変な魔導書もいるかもしれないじゃない!」
「そうなんだよ!」
涙目になりながらも彼女達は反論してくる。
「そうか君たちは気づかなかったんだね。あそこに立っている人を見れば魔導書のせいじゃないって分かるよ」
まぁ、あの一瞬じゃ見えなくても仕方ないかもしれない。
「もう一度よく見てごらん」
そう言って彼女たちに玄関の奥を再び見るよう、言う。
彼女達は恐る恐る再び扉から顔を出し、部屋を見渡。
「まさか、あ、あれって、嘘よね?」
「さ、さすがに冗談きついんだよ」
彼女たちが見つめる先には、セーラー服を着たカレンさんが立っているのだ。




