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魔導書ライラと集めましょう?  作者: 十六夜の懐中時計
第三章『火打ち箱』を集めましょう?
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魔導書との帰路

「それで、結局焚書官はどうしたのよ?」

 ようやく落ち着いたライラがそう僕に問う。

 グースも口には出していないが、気になっている様子だ。

 あきれながらも僕は二人にカレンさんとの会話をすべて説明する。

「ふーん、なんかあまりにあっさりと説得できたようね」

 軽い口調で彼女はそう告げる。

「『蒐集』、よく考えてみるの。もしかしたら、焚書官は即落ち二コマしたかもなんだよ!」

 グースが何かをひらめいたように声をあげた。

 それはいいのだが、即落ち二コマとは何だろうか?

 また唐突な魔導書(グリモア)がらみの用語なのだろうか……

「即落ち二コマって何よ?」

 ライラもその単語について知らないようで、グースに咄嗟に尋ねていた。

「耳を私に傾けるの、『蒐集』」

「何でよ?」

「良いから、貸すんだよ!」

 そう言われたライラは渋々耳を貸す。そこにグースは何やらぼそぼそと囁いた。

 何か僕に知られちゃまずい話なのだろうか?

 僕が勘ぐっていると、次第にライラの頬が赤く染まってきた。

 ついには顔全体が真っ赤になり、突然叫びだす。

「若葉、焚書官から電話が来たら、絶対私を呼ぶのよ!」

 グースのほうもライラに乗っかって叫ぶ。

「二人きりで話したいって言われても誘いに乗っちゃだめなの、必ず私たちを連れて行くんだよ!」

 突然、彼女達は僕にそう警告してきた。

 そんなこと言われなくても、一応敵対している人のところに丸腰で行くわけがないのだが。

「うん、分かってるよ。とりあえず家に帰ろう」

 ムフーッと鼻息を荒くしている二人に何を言っても無駄そうなので、生返事をして帰宅を促す。

「そういえば若葉は玄関どうするつもりなのよ? ――え、若葉?」

 その言葉を聞いた瞬間、僕は思わず膝をついてしまった。

 頭の中によぎるのは、玄関の修繕費やマスコミによる報道だ。

 こんな平和な地区では、爆発事件が起こった家などたいそう目立つに決まっている。

 幸い、今は深夜でまだ警察も来ていないだろう。

「早く、早く家に帰るよ、二人とも!」

 そう言って僕は二人を両肩に固定して、走り出す。

「え、ちょちょっと、これじゃ私たち米俵じゃない!」

「わ、若葉ったら以外に強引なんだよ! でも、もうちょっとロマンチックな運び方がいいんだよ……」

 二人が何かぐちぐちと言っていたが気にしている暇はない。

「動け動け土塊よ。人々守る時来たれり。振るえ振るえその力。災い壊す時来たれり。今こそ全てを守り抜け。集え(サモン)泥人形(マリオネット)

 流石にライラが作るような巨大ゴーレムは作れなかったが、それでも5mはあるものが召喚できた。

 ゴーレムに乗った僕は全神経を集中させ、彼にものすごい速さで動くよう脳内で指示する。

 すると、僕の指示にこたえてゴーレムはフェラーリもかくやというスピードで走り出す。

 行きに使ったものよりサイズが小さい分、スピードが段違いだ。

「「ピャァァァァァ」」

 夜空に二人の叫び声とゴーレムの足音が響きわたっても、ゴーレムのスピードが遅くなることはなかった。

 こうして僕らは、わずか数分で町一つを駆け抜けて、帰宅することができたのだった。


 家が見えてきた。

「無事に家に帰ってこれた……」

 僕は安堵した。だが、それは単なるぬか喜びであったと僕は気づく。

 家の玄関の前には多くのパトカーが停まっていて、それを野次馬がさらに囲んでいた。

 僕は咄嗟にゴーレムを消して、ゴーレム酔いをして眠っている二人を担いだまま家に近づいていく。

「お、おい何だね、君は!」

 僕が玄関に入ろうとすると、もちろん警官に呼び止められた。

「この家の住人ですけど。通してくれませんかね?」

 何気ないことのように僕は警官にそう返す。

「だからといって、ここを通っていいわけないだろう! この惨状が目に入らないのか?」

 そう、警官は僕を怒鳴ってくる。

「そう言われましても……」

 家に忘れ物とかあるし、ライラ達の杏仁豆腐やお金も置きっぱなしだ。

 特に杏仁豆腐は深刻な問題である。

 杏仁豆腐成分が切れたライラなど、絶対新たな騒動の火種になる。

 大体、家以外のどこに寝床があるというのだ。

 まぁ、最悪鏑木のところに厄介になるという荒業があるのだが。

「どうにかなりませんかね?」

「だめだ! まだ事故か事件かもわかっていないのに、現場を荒らすことは許可できん!」

 証拠保存は重要だと思うし、勤勉な日本の警察には感服する。

だが、僕は玄関崩壊の犯人も原因もわかっているのだ……

「いや、こっちも困るんですよ」

「駄目なものはだめだ。君も子供じゃないんだから聞き分けろ!」

「そう言わずに、お願いしますよ。妹だっているんですよ」

「妹さんは既に救出されているそうだ。安心してここで待っていなさい」

「妹以外にも大切なものが家に置いてあるんです!」

 僕もひたすら警官にここを通してくれるよう求める。

 そんな無意味な押し問答を数十分続けて、両肩が痛くなってきた時、警官の向こう側で輝くヘッドライトが見えた。

 ヘッドライトはぐんぐん近づいてきて、僕らの住む家に着いた途端に消える。

 僕らの目の前に停まったのは、黒塗りの高級車であった。

 あたりを覆い隠す夜闇に溶け込むような、美しい黒色の高級車であった。

 ライトの後にエンジン音も消え、ゆっくりと扉が開く。

 ドアから現れたのは、美しい青の水玉のワンピースをきた女性だった。

 美しい緋色の髪は、おぞましいほどの暗闇の中、街灯と衣服の青によって映えていた。

「この一般家庭で発生した事案については、ヴァチカンの上級焚書官の権限で捜査しない。君たちにはそう通達が行っているはずなのだが、一体これはどういうことだ?」

 聞き覚えのある凛々しい声で、警官隊を怒鳴る。

 僕の前に立ちふさがっていた警官も、声のする方向に振り向くと、体を震わせ始めた。

 彼女はゆっくりとこちらに向かってくる。

 眼前の警官隊を押しのけて歩いてくる様子は、さながらモーセのようであった。

 彼女は目の前の警官を一瞥(いちべつ)したのち、こちらを向いて口を開く。

「さ、さっきぶりだね、若葉君」


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