魔導書との和解
「で、結局のところ何でカレンさんが正気を失っているんだい?」
とりあえずくっついていたカレンさんをベンチに座らせて、ライラとグースに話を聞いてみる。
「え、なな、何のことかしら?」
「さっぱりわからないんだよ」
そう言った彼女達は下手な口笛を吹きながら、目をそらす。
二人して酷い演技力である。
「何かしたんだね……」
大方、前言っていたように幻影世界に入れて、カレンさんを杏仁豆腐にして食べたとかそういうろくでもないことをしたのだろう……
「こ、この高貴で平和主義なライラ様が変なことするわけないじゃない」
「アホな『蒐集』じゃないんだから、変なことなんてしてないんだよ!」
「なんですって、このちんちくりんが!」
「貴方にだけは言われたくないの!」
二人の言い争いが始まった。
これは長引きそうなので彼女らから話を聞くのはあきらめて、僕は座っているカレンさんの横に腰掛ける。
「どうですか、少しは落ち着きましたか?」
「あ、あぁ、うん。ちょっと楽になってきたかも」
そう言う彼女の体は、以前ほどではないがまだ震えていた。
とてもじゃないが、彼女から何をされたかを聞けそうにない。
「何かあったらすぐ言ってくださいね。あのアホどもに何されたかわかりませんがろくなことには違いありませんから」
とりあえず僕は彼女を安心させるためにそう言った。
「うん、でも若葉君はどうして敵の私をこんなに気にかけてくれるの? 私は君を殺そうとしたんだよ?」
いつもの凛とした声音と真逆な弱弱しい声で彼女は僕に問いかける。
これが世間で言う『ギャップ萌え』という奴だろうか?
彼女にはライラやグースとは違った可愛さがあり、少しドキッとしてしまった。
こんなことを考えるくらい、僕は彼女を敵視はしていないのだ。
「何度か死にかけると、あんまりそういうことが気にならなくなってくるんですよ。敵だって人を殺したくて仕方がない人ばっかりじゃないっていうのも学びましたしね」
グースや充さんのように敵対した人がみんな悪だというわけではないと思う。
エルさんと『火の鳥』については言及を控えておくが……
「若葉は敵が憎くないの? 家は壊され、仲間はボロボロにされ、挙句の果てに自分も殺されかけたんだよ?」
「そりゃ少しは思うところもありますよ」
「じゃあ、どうして、どうして私にこんなにやさしくしてくれるの?」
遠くのライラ達の言い争いにかき消されそうなか細い声で、彼女は僕に尋ねる。
「何だか僕と同じに思えたからですかね? 今のカレンさんを見ていると、カレンさんはすごく強い焚書官というよりは、僕と同じで色々なことに悩む人間なんだなって思うんです」
結局のところカレンさんだって怖いものはあるし、僕と同じ人間なんだと感じてしまうと、僕にはどうしても彼女へ敵意を向けることができなかった。
それにいくら命を狙われたとはいえ、その殺意をそのまま彼女に返す度胸などどこにでもいる普通の高校生の僕にはない。
それに僕はまだ人を殺める覚悟はできないし、和解して彼女との戦闘を避けたいという下心もあるのだ。
そんなことを考えていると童女のように泣きじゃくりながら、僕に言う。
「そんなの、そんなの嘘だよ! 私は憎いもん。パパとママを殺した魔導書がずっと憎くて憎くて仕方がないよ!」
彼女が焚書官として異様に魔導書を焼こうとしていたのはこれが原因だったようだ。
しかし、本当に『人払い』が作動していてよかった。
成人はしているであろう妙齢の女性を泣かせている男子高校生など世間様に後ろ指をさされかねない。
咄嗟にそんなことを心配するぐらい彼女は派手に泣いていた。
ライラとグースはお構いなしに口喧嘩を続けていたけど……
「若葉君も本当は私のことが憎いんでしょ? 今わざと優しくして後で私を痛めつけるつもりなんでしょ?」
「そんなことしませんよ!」
僕の性根はそこまで腐ってないし、今後そんな外道に堕ちるつもりもない。
「でも、私と若葉君は敵同士なんだよ? そうするのが自然だし、若葉君にとってそれが最善じゃん!」
「最善じゃないです。僕にとっての最善はカレンさんと和解することです。あなたを殺して手に入れる安全なんて最悪です!」
「そんなの甘いし、夢物語だよ! 魔導書の契約者と焚書官が和解なんてできるわけないよ!」
「何で不可能だと思うんですか?」
「前例がないし、私は魔導書の存在を許容なんてできないもん!」
まぁ、両親を殺された存在など許容できなくて当然であろう。
「だからといって魔導書を無差別で焼き尽くしたら、それはカレンさんの両親を殺した魔導書と一緒じゃないですか!」
少しキツイ言葉を僕は彼女にぶつける。
「う…… だ、だってそれ以外にないじゃない! じゃあ、私たちはあんな危険なものをずっと放置しておけばいいの?」
彼女は一瞬言葉を詰まらせた後、僕にまくし立ててくる。
「それ以外の方法が僕たちにはあります」
「何を言ってるの? そんなのあったら私たちが真っ先にやってるもん」
「あそこにいる黒いドレスを着た杏仁豆腐馬鹿の能力は『蒐集』です。この能力は数多の魔導書を彼女の内部世界に閉じ込め、管理ができます」
「そんな便利なことできるわけないよ。そう言うんだったらせめて、証拠を出して」
彼女はそう言って、僕の話を信じようとしない。
まぁ当然の反応であろう。ここで簡単に信じるやつなど相当なお人よしかアホである。
なので僕は説明を続ける。
「証拠はありますよ。この場所に魔導書が2体存在しているのが何よりの証拠です」
「どういうこ――ッ!」
彼女は因果律とやらについて思い出したようで、思わず息をのんでいた。
「だから、和解できませんか?」
思わず彼女の手を握って、彼女を見つめながら提案する。
「ひやぁ、あ、ちょ、ちょっとまって。頭の中の整理ができないの」
彼女は慌てた様子でそう答える。
「はい、大丈夫ですよ」
僕も流石に先ほど目覚めたばかりの人間に即決を強制するつもりはない。
握っていた手を放し、そう答えると彼女は安堵したのか、少し落ち着きを取り戻し僕にこたえる。
「ありがとう。じゃあ、落ち着いたら電話するね」
そう言って、彼女は足早に公園を立ち去った。
その後に響くのはライラとグースの言い争いだけであった……
ワードパッドで書いてたストックが消えたので、更新頻度下がります。




