魔導書との野戦
犬たちが僕らに迫ってくる。
咄嗟にゴーレムの拳を真正面にいた犬めがけて振り下ろす。
それは見事に犬に命中した。
しかし、犬が潰れてトマトになることはなかった。
キンという金属にぶつかったような音がするだけで、犬は無事だった。
その後も僕らはゴーレムと自動小銃で迎撃するが、どの犬にもダメージが入らない。
「これはどういうことなのさ?」
「多分防御結界よ! そうじゃなきゃ自動小銃に耐える犬っころなんて存在しないわよ」
ゴーレムが存在してる時点で、そんな犬結構存在しそうなのだが……
「アハハ、ご名答。予算をたっぷり使って、ヴァチカンお手製の防御結界を付与したからな。うちの猟犬は君らの攻撃など文字通り歯牙にもかけんよ!」
流石焚書官の使役する猟犬なだけあってか、やけにめんどくさい仕様である。
「これは少しまずくないかい?」
「そうね。いっそのこと完全に私たちの意識を捨てて超巨大ゴーレムを作ってみる?」
「いっそのことすぎるよ!」
それは失敗した時のリスクが高すぎるだろう。
もしもゴーレムを突破されれば、僕らは棒立ちのまま仲良く猟犬の餌だ。
「大丈夫、二人がそんなことしなくてもいいんだよ! 変化!」
グースが叫ぶと同時に、自動小銃たちが3か所に集まり始める。
ちょうど三匹の犬それぞれに一つの自動小銃の集合体が集まるような形だった。
自動小銃が集合し終わると、彼らは3挺の大きな機関銃になっていた。
三脚で支えられており、それぞれの砲身から弾帯が伸びていた。
ミリオタの鏑木なら何なのか全て説明できるのだろうが、生憎にわかの僕には重機関銃ということしかわからない。
だが、あれの威力が今までの自動小銃とは段違いなのだろうということは感覚でわかった。
「フフ、ブローニングM2の力をとくとご覧あれなの!」
先ほどのクレイモアもそうだが、一体どこでそんな物騒なものについて詳しくなるんだろうか?
彼女がそう叫びステッキを振るうと、ブローニングとやらの銃尾のトリガーが勢い良く押される。
瞬間、場違いでけたたましい金属音が公園に響き渡る。
僕らに食らいつこうとすきを窺っていた猟犬たちに向かって、夥しい弾丸が彼らの急所一点のみを狙って速射される。
連射の反動で砲身を支える三脚はきしんでいた。
だが、連射がやむ様子はない。
犬を守る結界も最初のうちこそしっかりと機能している様子であったが、次第にビキッとかいう破砕音が聞こえはじめる。
連射が始まって30秒もすると完全に弾丸が結界にはじかれるときの金属音が聞こえなくなった。
その代わりに公園には機関銃の連射音と弾丸が犬を貫く鈍い音が大音量で響き渡る。
「そんな馬鹿な! 救世教会で直々にこしらえた結界だぞ。どうしてこんなに容易く壊れるんだ」
「ヴァチカンが大したことない組織ってことなんだよ! ご自慢の猟犬がトマトになtt――」
グースはそうカレンさんをあおる途中で、急に膝から崩れおちた。
「大丈夫かい、グース?」
「ちょっと、能力を使いすぎただけなの…… 焚書官と禁書はよろしく頼んだんだよ!」
グースは額に汗をにじませながら、僕に微笑んでそう言った。
「あぁ、分かった。ここまでやってくれたんだ。その間、グースは休んでて」
「そうさせてもらうの……」
「『子守唄』もやるわねー これであとは禁書を焚書官から開放して、『蒐集』するだけでいいわね」
「なんか、勝利条件増えてないかい!?」
「あの焚書官が禁書持ちだったんだから、当たり前でしょう? 禁書は早く開放してあげないと手遅れになるときもあるのだし」
僕に魔導書の常識を適用しないでほしい……
「そんな簡単に言うけど、うまくいくものなのかい?」
相手は、クレイモア地獄に耐えきる化け物であるし、どうしても僕はマイナス思考に陥ってしまう。
「まぁもう猟犬も死んだし、体もボロボロなんだから、アレの戦闘手段なんてないに等しいでしょ? だから、多分大丈夫よ!」
さっき油断は禁物だといったのは彼女であった気がするのだが……
「さっ、そういうわけで禁書を出して降伏しなさい、惨めで矮小な婚期を逃した焚書官さん」
そう言って、彼女はカレンさんに近づいて提案する。
いや、提案という表現は誤解を招く。多分脅迫とか恫喝という言葉が適切であろう。
「そう言われて降伏する愚か者がどこにいるというんだね?」
彼女はそう言って口元をゆがませながら、禁書を握りしめる。
ライラは目をつぶってくつくつと笑い、愉悦に浸っている。
多分カレンさんが何かしようとしていることに気付いていないだろう。
僕は咄嗟に彼女のほうへ駆け出した。
ようやくライラも異変に気付いたようだが、彼女が回避動作をする前にカレンさんが何か呪文を叫ぶ。
「煌け贖罪の聖火!!」




