魔導書との開戦
「そろそろ、焚書官のお出ましのようね。『人払い』のおかげで足音が聞こえるわ」
「あんな攻撃を受けといて、何であそこまでの足音を立てて猛スピードで走ってこれるのさ……」
いくら焚書官とはいえ人間辞めすぎであろう。
「だから、これぐらいのトラップ用意したんだよ。安心するといいの、若葉!」
グースが可愛らしく僕に告げる。
そういわれると、夥しいほどのトラップも過剰ではない気がしてきた。
「『子守唄』、来るわよ!」
「アイアイサーなの!」
そうこうしているうちに、カレンさんが公園に入ってくる。
ワイヤーをうまく交わして起爆を防いでいるようだ。
「ええいネズミが、ちょこまかとよけやがるの。だったら遠隔起爆なんだよ!」
グースがおおよそ童女らしくないセリフとともに手中のボタンを押す。
瞬間、入り口に設置されていたクレイモアや偽装地雷が一斉に爆発する。
「玉屋ーなの!」
「あら、きれいな花火じゃない」
二人して暢気に入り口の盛大な爆発を眺めている。
実際は彼女たちが言うほどきれいなものではなく、煙と土埃が舞っているおかげで何が何だか僕にはわからなかった。
「さて、これでどれくらい焚書官にダメージが入ったかしら?」
ライラが愉快そうに煙に向かって話す。
徐々に土埃が晴れてくると、カレンさんのシルエットが見えてきた。
彼女はあれだけの爆撃を受けながらも、剣を前について支えにして立っていた。
「結構ダメージ入ったっぽいんだよ」
「まぁ上々ね。でも、油断は禁物だからね。とりあえず、あれを完全に戦闘不能にするわよ。若葉は私とともにゴーレム操作、『子守唄』は随時援護射撃!」
「「分かったよ!」」
ライラが素早く指示を出す。
「でもライラ、既にカレンさんは戦闘不能に見えるんだけど?」
僕は思ったことをそのままライラに口にする。
「馬鹿ね、ヴァチカンには禁書っていうのがあるのよ。下級ならまだしも上級焚書官が所持してないわけないでしょ」
いつぞやに言っていた、魔導書の成れの果てのことであろう。
「禁書ってそんなに強いのかい?」
「そりゃ、元々は魔導書なんだから強いに決まってるでしょ。ほら、やっぱりあいつも禁書を出してきた」
そう言って彼女が指差す先では、カレンさんが釘に刺された物々しい本を取り出していた。
「本当は元魔導書なんて使いたくなかったんだがね。君らの爆撃のおかげで動けそうにないし、使えるものは全力で使わせてもらうとするよ」
あの身体能力で、魔導書に準ずる禁書を使えるとかチート過ぎないだろうか?
同時にライラとグースの迎撃の正当さを悟る。
戦闘に手心など不要なのだ。そんなものを加えると自分の命を落とすことになるのだと、僕は身をもって感じた。
「現世を憎み、歪みを嫉むものどもよ。我は汝らが渇望せし扉を開かん。鋭角に潜む執拗なる追跡者よ。我は汝らが待望せし歪みを与えん。今こそ歪みを噛み殺せ。唸れ、執拗なる猟犬」
カレンさんが体を震わせながら詠唱を始める。
「「動け動け土塊よ。人々守る時来たれり。振るえ振るえその力。災い壊す時来たれり。今こそ全てを守り抜け。集え泥人形!」」
「さぁさぁ、ともに歌いましょう? 唄は貴方の目の前にあるのだから。声を枯らしても、血を吐いても、喉が焼き付いても歌い続けましょう? ステージは貴方の目の前にあるのだから。叶え、童たちの願いよ!」
それに合わせるように、2つの詠唱が公園に響き渡る。
全ての詠唱はほぼ同時に完了し、物理法則を超越した事象が発生する。
僕とライラの目の前には、家から逃げるときに出てきたものより二回りは大きいゴーレムが現れる。
カレンさんの目の前には、彼女を守るように3体の犬が現れる。
彼らはどの個体も巨大で、四つん這いなのに目線が僕と同じくらいであった。口からは牙が生えていた。それは人間を軽々噛み殺せそうなほど鋭かった。
グースの目の前には、大量の機関銃が現れる。良く見れば、それらは全て小型で、ベルト給弾でもなく、三脚もないことから自動小銃だとわかる。
射手はおらず、それでは意味がないのではと僕は心配したが、それは杞憂であった。
グースはいつの間にかステッキを握っており、彼女がそれを振ると自動小銃たちが動き出して犬たちに銃身を向ける。
彼女が召喚したのは、文字通り自動小銃であった。
「中々奇妙なものを出したようだが、私の猟犬はこんなものをお前らごと簡単にかみ砕くぞ。命乞いはしなくていいのか?」
カレンさんは剣で体を支えながらも、僕らを挑発する。
「死にかけの年増女にそんなこと言われてもねぇ?」
「説得力がないんだよ、この行き遅れ!」
ライラとグースが息を合わせて、挑発し返す。
「ふざけた事を宣ってくれるじゃないか。あい分かった。君たちは私が直々に焼いてあげよう。連中を引きずって連れてこい、猟犬ども!」
そう彼女が叫ぶと、犬たちが僕らをめがけ駆け出した。
章の魔導書名を間違えていたので、修正しました。




