魔導書との訪問
「こんな夜分遅くにすまないな。少年に少し聞きたいことがあってな」
カレンさんは凛として佇みながら、僕に言う。
「聞きたいことですか?」
「あぁ、最近この辺で奇妙な事件が多発しているのは知っているだろう? それについて知っていることがあればぜひ聞きたいんだ」
カレンさんは僕にそう尋ねる。そこには以前のアホさとポンコツさはなかった。
ライラと違ってやるときはやるタイプなのだろうか?
だが、こちらとしてはたまったものではない。気分としては警察が突然押しかけてきたようなものである。
しかも質問内容に心当たりしかないものだから、僕は冷や汗が止まらない。
「████市の███公園の爆発でしたっけ? あそこにはあまり行かないんですよね」
「いや、あそこもだが██公園と██高校周辺についても知りたい。少年は今あげた場所の近辺で最近気になったこととかあるか?」
███公園はゴーレムの件、██公園はエルさんの件、██高校周辺は多分グースの件だろう。
全部一部始終を目撃しているので、気になったこともヘチマもない……
「ちょっと知らないですね。カレンさんが███公園について尋ねるのは分かるんですが、██公園と僕の高校について何で聞くんです? もしかして何かあったんですか?」
とりあえず、僕は盛大に白を切ることにした。大抵のことは知らぬ存ぜぬで通せばどうにかなると、僕の祖母が言っていたし、これが一番無難な対応であろう。
「3つの地点それぞれで巨大な魔導書の反応が発見されたんだ。公式には殺人犯のせいにしているが、早く魔導書を見つけないと死者が出るかもしれない……」
ライラもこれぐらいシリアスとポンコツにメリハリがつけばいいと思う……
そんなことを感じるくらいには、彼女は僕に真剣な眼差しで話してきた。
「大変ですね。また何かあったら連絡します」
「あぁ、よろしく頼むよ。これは私の連絡先だ。でも、いくら私が可愛いからってデートのお誘いとかをしちゃだめだぞ?」
キャラのブレが激しすぎてついていけない……
「カレンさんは魅力的な女性ですけど、そんなことしませんよ」
「本当かね? 少年ぐらいの年齢は性欲が服を着て歩いているのと同義だと聞いたからね」
まぁ否定はしないけれど、もう少しオブラートに包んでほしい。
「では、またお会いしましょう」
僕は彼女に別れの言葉を告げる。
「あぁ、また。いや、さようならか。悪く思うな少年よ」
そう呟くと彼女は腰に手をかける。
どうしたのだろうか? 何か落とし物でもしたのだろうか?
「若葉、早くしゃがみなさい! 『子守唄』さっさと撃っちゃって!」
「もちろんなの! 叶え、童たちの願いよ!」
唐突に後方から、ライラとグースの声が聞こえる。
僕は指示通りしゃがむと、先ほどまで僕の首があった場所から剣が風を切る音が聞こえた。
そのすぐ後には、何か重そうなものが猛スピードでカレンさんのほうへ飛んでいくのが見えた。
着弾したのだろうか? 大きな音とともに玄関に土埃が舞う。
多分グースの能力なんだけど、殺傷能力が高すぎて恐ろしい。
僕はとっさによけられたからいいけど、しゃがめなかったら彼女達はどうするつもりなんだ。
「早く、こっちに来なさい。二階から外に逃げるわよ!」
「え、でもカレンさんが――」
「若葉ったら、殺されかけといて本当暢気ね。いいから早く逃げるわよ! こんなとこでドンパチしたら私たちは無事かもだけど、妹ちゃんたちは即死だわ」
ライラがもの凄い正論を僕に放つ。
実際、ここで戦闘なんてしようものなら、人的被害もだが物的被害がおぞましいことになりそうなのでライラの指示に従って階段を上る。
「く、魔導書風情が。逃がしてたまるものか!」
あんな頭おかしい物理攻撃を受けておいて、恨み言を叫ぶ辺り、流石はヴァチカンといったとこなのだろうか?
「残ー念。もう逃げちゃいまーす!」
ライラがカレンさんを煽る。やはりライラが伸ばし棒を使うと、イライラ度が急上昇する。
「ふざけるなよ!」
証拠にカレンさんの怒号が土埃の中から聞こえる。同時に足音までもが響いてきた。
彼女はどういう生命力をしているのだろうか?
「若葉、ゴーレム出すわよ!」
「分かったよ」
「「動け動け土塊よ。人々守る時来たれり。振るえ振るえその力。災い壊す時来たれり。今こそ全てを守り抜け。集え泥人形!」」
「よし、これに乗って逃げるわよ」
だが、彼女が二階に上がる前に、僕らはゴーレムを外に召喚しその肩に乗る。
「アディオース、のろまな焚書官さんー ███公園で待ってるわよー」
彼女がそうカレンさんを挑発すると、ゴーレムの足が前に動く。
僕らを乗せたゴーレムは███公園に向かって走り出した。
「舐めた真似を!」
ゴーレムの背中にはカレンさんの咆哮が響き渡った。
三章の魔導書の名前は本編登場後、虫食いが消えます。




