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魔導書ライラと集めましょう?  作者: 十六夜の懐中時計
第三章『火打ち箱』を集めましょう?
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魔導書との発熱

「そういえば、グースを出すときはどうするんだい?」

「チッ! うまく有耶無耶にできそうだったのに」

 僕は若年性の痴呆を患っているわけではないんだが……

「まぁ、約束は約束だし。若葉の節穴をかっぴらいてよくごらんなさい!」

 ライラのノリが完全にマジシャンである。

 『オリーブの首飾り』でも流したほうが良いのだろうか。

戻りて至れ(クリック)常世の国へ(クラック)!」

 詠唱とともに、彼女の胸元から光があふれ出す。

 その光は段々と人の形へとまとまる。

 しばらくすると、人の形だった光は部位ごとに色を変えグースの姿となる。

 トンッと足が地面をたたく音とともにグースが実体化した。

「若葉ー!」

 実体化してすぐに彼女は僕に抱き着いてきた。

「もう絶対放さないんだよ。一緒にいてくれるんだもんね!」

 彼女は二つの意味で重かった。

「一緒にいるけど、そんなに密着しないでほしいな。ライラもいるんだし……」

 そう言って僕はライラのほうに顔を向ける。

 彼女は穏やかに笑みを浮かべている。アルカイックスマイルだ。

 しかし、よく見ると額に青筋を浮かべている。

 大方、グースと彼女のキャラがかぶっていることが気に入らないとかそんなことに怒っているのだろう……

「若葉、やっぱりこいつ『煉獄』に入れていいかしら?」

 慈悲深そうな笑顔でライラはそう言う。

「嫉妬は醜いの、『蒐集』」

 グースは勝ち誇ったようにそうつぶやく。

 何でこう魔導書(グリモア)同士はいちいちトゲのあるコミュニケーションしかできないのだろう?

「私が嫉妬なんかするわけないでしょ。ただ、あんたがいつもの私の立ち位置にいるのが気に食わないってだけよ!」

 それを世間では嫉妬と呼ぶのではないだろうか?

「そういえば、実体化で起こるデメリットとかあるのかい?」

 とりあえず二人をなだめるために、グースを引きはがして僕は話を逸らす。

「能力とか幻影世界(ファンタズマごリア)に関してはこっちで制限できるからないわよ。強いて言うなら、『子守唄』と私のキャラがかぶることぐらいだわ!」

 やっぱりそこを気にしていたようだ……

「若葉が私にとられるかもしれないこともでしょ? 本当はそれが一番心配なんでしょー」

 軽い口調で彼女はライラをからかう。

 でも、彼女はそんなヒロインみたいな思考回路ではないと思う。彼女の恋人は杏仁豆腐であろうし。

「は、はー? 超絶かわいいライラ様が若葉をとられる心配するわけないでしょう? 若葉は私にメロメロなんだからね!」

 顔を真っ赤にしながら、彼女は否定する。相も変わらず凄い自信である……

 しかし彼女の顔が赤いのが気になる。疲れによる発熱だろうか?

 そう思った僕は膝をかがめて、彼女の額に自分の額を当てる。

「んー 顔は赤いけど熱はなさそうだね」

 そう僕がライラに伝えると、彼女は声にならない声で叫んだ。

「ムキャーーー」

 グースは何だかかわいそうなものを見る目で僕らを眺めている。

「鈍い癖に若葉ってば変に大胆ね……」

「どういうことだい?」

 何か間違ったことでもしただろうか?

「いや、何でもないの。ただ、これから熱を測るときは手で測ったほうが良いと思うよ、ええ……」

 何だか、グースは遠い目で天井を眺めている。

「それより、そこで固まってる『蒐集』を放置していて大丈夫なの? 何だか湯気まで出てるけど」

「本当だ! こりゃまずい、ベッドに運ばなきゃ。グース、魔導書(グリモア)に風邪薬って効くのかな?」

 さっきまで平熱だったが、急に発熱したらしい。魔導書(グリモア)の生態も謎が多い。

 とりあえず僕は両手を彼女の首元と膝にあて、そのまま彼女を持ち上げる。

「ヒニャーーー」

 彼女はまたもや、奇声を上げる。そんなに体がしんどいのだろうか?

「大丈夫? すぐタオル持ってくるからね」

 声をかけながら、彼女を揺らさないようにそっと部屋へ運んでいく。

「ここまでくると、『蒐集』が何だか憐れに思えるのね」

 トコトコとついてきているグースが呟く。

 先ほどまでいがみ合っていたが、グースもさすがに病に臥せっている彼女を敵視はできないようだ。

 部屋についた僕は、ライラに布団をかけ急いで濡れタオルを持ってくる。

「少し冷たいけど我慢してね」

 そう言って彼女の額にタオルをあてる。

「グース、あと何が必要かな?」

 僕は同じ魔導書(グリモア)である彼女に助言を仰ぐ。

「とりあえず、あとは私がやるからいいよ。多分若葉がいると『蒐集』の熱がひどくなると思うし……」

「そういうもんなのかい?」

「そういうもんなのね……」

 まぁ餅は餅屋というし、ライラの看病を彼女に任せよう。

 部屋を出て、僕はキッチンに向かう。

 病んでいるときぐらいは、手作りで杏仁豆腐を作ってあげようかなと思ったからである。

 おかゆやら自分達の晩御飯も作り置いて、帰宅した妹にグースの説明もでっち上げて伝える。

 今回はライラの地元の親友がどうしても彼女に会いたくてうちにホームステイしに来たことにしている。

 妹は怪訝(けげん)な顔をしていたが、何とか納得してくれた。

 その辺の設定の打ち合わせもかねて、僕は彼女たちの居る部屋に戻る。

「ライラは大丈夫そうかい、グース?」

 僕はグースに尋ねる。

「ええ、大丈夫よ。もう熱は引いたみたいなの。ちょうどいま目が覚めたみたいだし、ほら」

「ライラ様ちょーふっかーつ!!」

 驚異的に回復速度である。さすが魔導書(グリモア)といったところだろうか?

 寝起きだからかすさまじくやかましいが……

「凄い元気になったね、ライラ」

「ええ、元々熱の原因が些細なものだったし、私ってばハイスペック魔導書(グリモア)だから治るのもすぐなのよ!」

 そう、胸を張って彼女は答える。

「そうなのかい。結局原因はなんだったんだい?」

 ふと浮かんだ疑問を僕は彼女に尋ねた。

「あ、『蒐集』が墓穴掘ってるの」

 グースはあきれ口調でライラに言う。

「そ、それはあれよ。過労と杏仁豆腐欠乏症よ! だから私の健康のために早く杏仁豆腐をよこしなさい」

 彼女はそうやってまくしたて、僕に杏仁豆腐を要求してきた。

「病み上がりなんだからご飯食べてからだよ。そしたらあげるからさ。今日は張り切って僕が手作りしたんだからね!」

 僕は少し胸を張って彼女に答える。

「じゃ、じゃあ早速キッチンに戻るわよ! 『子守唄』も早くなさいな」

「あ、ちょ、手を引っ張らないでよー」

 病み上がりとは思えない速さで、グースの手を引きながら彼女はキッチンに向かう。

 また顔が赤くなっていたけど、大丈夫だろうか…… 

 若干心配になりながら僕は彼女たちの後を追う。

 この後、僕らは打ち合わせなしにグースを妹に紹介する羽目になり悪戦苦闘するのだが、それはまた別のお話。


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