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魔導書ライラと集めましょう?  作者: 十六夜の懐中時計
第二章『マザーグース』を集めましょう?
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魔導書との痴話

「落ち着いた?」

 彼女の銀色の髪を撫でながら、僕は尋ねる。

「うん」

 僕の腹のあたりにうずめていた顔を上げ、彼女は答える。

「じゃあ、外に行こうか。ライラも待っていることだし」

「……うん」

 不安そうに彼女はうなずく。

「大丈夫、ライラだってわかってくれるさ。ライラはアホだしさ。とりあえず現実世界に戻ろ?」

 実際、杏仁豆腐のことしか考えてないだろうし……

「フフッ、そういわれると安心するよ。今あっちに戻る準備をするね!」

 そう言って彼女は僕に向かって手をかざす。

 そして今までのように僕は浮遊感に襲われる。

 地に足がついた感覚とともに、目を開くとライラの姿が見えた。

「若葉!? 戻ってこれたのね! 本当に良かった……」

 ゴーレムを操作しながら、彼女は安堵の声を漏らす。

「あぁ、心配かけたね。この通り無事に戻ってこれたよ」

「そ、それぐらい当たり前でしょ。なんたって若葉は、高貴なハイスペック魔導書(グリモア)である私の契約者なのよ?」

 彼女は強気にそうのたまった。

「そんな無茶なこと言わないでよ……」

「それよりも若葉、早いとこ昨日の巨大ゴーレムであいつを倒しちゃうわよ! あいつ契約者がいないくせに『法の書』より強いかもしれないし……」

 彼女は真剣な声音でそう述べる。

「それはダメだよ。あと今すぐ出しているゴーレムも消して」

 僕は彼女を諭すように言った。

「若葉ったら、気が()れたの!? そんなことしたら、私たち仲良くお陀仏じゃない」

 気が()れたなんて、杏仁豆腐狂いの魔導書(グリモア)には言われたくない……

「大丈夫、グースは何もしてこないって。今だって彼女は防御しかしてないだろう?」

 そう言いながら、僕はグースを指差す。

「そんなもんたまたまよ! あいつは攻撃系の魔導書(グリモア)なのよ? 攻撃系なんてロクな奴いないんだから、手を緩めた瞬間何をしでかすか分かったもんじゃないわよ」

 彼女はそう言って、なおもゴーレムによる攻撃を続ける。

「それはないよ。さっきグースと中で話したんだ。きっと、大丈夫だよ!」

 僕は声を大にして彼女に主張した。

「騙されてるんじゃないの? 佐々木とやらも『法の書』に洗脳されてたの忘れたのかしら。さっきからやけに、あいつと親しげだし……」

 彼女は頑なにグースが善良ではないと決めつける。

 彼女の立場からすれば当たり前だと思うが、僕としては歯がゆい。

「そんなわけないよ。ライラ、お願いだから信じてよ!」

 あとあと考えてみればかなり胡散臭い言葉を僕は彼女に放つ。

「なんでそう言いきれるのよ?」

 彼女は目を細めて僕に問う。

「だって僕は君の契約者なんだよ。洗脳? ありえないさ!」

 一度言ってみたかったセリフである。

「どう考えてもかかってる人間のセリフよ、それ……」

 ジト目で彼女は僕に言う。

 普段、ボケ倒している人に突っ込まれると、自分は本気でやばいことをしてる気がしてキツい……

「冗談だよ。でも、僕は超絶かわいいハイスペック魔導書(グリモア)の契約者ってのは本当さ。だから僕の言葉を信じてくれないかい?」

「ハー 若葉も言うようになったわね…… 私の負けよ。全く誰の影響を受けたのかしら」

 誰って言ったって彼女しかいないと思うのだが……

 彼女はそう言って、しぶしぶゴーレムを消した。

「グース、ケガはないかい?」

「ありがとう、若葉。『蒐集』はもう大丈夫?」

「大丈夫かどうかは分からないけど、とりあえず話ができる状態ではあると思うよ」

 そう言ってライラのほうを向くと、彼女は顔をしかめて何かつぶやいていた。

「何よ、さっきまで『お兄さん』って呼んでたのに、もう『若葉』って呼び捨ててるの? ぽっと出のちんちくりんのくせに……ッ!」

「若葉、本当に『蒐集』大丈夫なの? 凄い顔して私をにらんでるんだけど」

 彼女がおびえながら、僕の袖にしがみつく。

「キシャァー 私の契約者に何やってるのよ!」

 そんなグースの姿を見たライラは、ゴーレムを彼女に再びけしかけようとする。

「ストップ、ストップ! 落ち着いて、ライラ」

 慌てて僕は、彼女をなだめる。

「フシュー フシュー シャー!」

 その間も彼女は猫のような声を上げながら、グースを威嚇し続ける。

 彼女が落ち着くまでに数分を要した。


「ゼーハー それで、その泥棒猫は私に何を言いたいわけ? 何? 喧嘩なら買うわよ?」

 ライラが戦闘中に張ったらしい『人払い』の効果が切れそうだったので、僕らは家に戻って話を再開した。

 何が気に障ったのか、彼女は先ほどからずっと興奮しっぱなしである。

「ち、ちがうの。私、人に裏切られ続けてて、人を避けてたんだけど寂しくかったの。それで期待も込めてこの町に来たの。」

「そうなのねー」

 興味がなさそうに彼女は相槌を打つ

「そしたら若葉と出会ったの。彼は幻影世界(ファンタズマゴリア)でこんな一方的に都合を押し付ける私を許して、一緒にいてくれるって言ったの。それで、ライラとも相談して解決策を探してみよって言ってくれて……」

「ハハーン それでうちの若葉に一目ぼれしたってわけね」

「そ、そんなんじゃないの! ただ、若葉といると何だか胸がポカポカしてきて、キューって締め付けられるの」

 顔を赤らめながら彼女はそう言った。

 魔導書(グリモア)にも動悸や心臓疾病が現れるようだ。あとで彼女には『救█』を渡しておかなくては。

「若葉、貴方今なんか変なこと考えてないかしら? 魔導書(グリモア)に心臓病って概念は適用されないからね。間違っても『█心』なんて飲ませるんじゃないわよ!」

 何故か彼女に考えを見透かされてしまった挙句、怒られてしまった……

「そんなだから、若葉は童貞なのよ! ってそうじゃないわ。『子守唄』が若葉に惚れちゃったのよね。でも残ー念、若葉はこのやんごとなく清らなるライラ様の下僕なので、渡すことはできませーん!」

 そう言って、彼女はクスクス笑いながら僕の腕を抱きしめる。

 何でこう、彼女はトゲのある言い方しかできないのか?

 あと伸ばし棒のおかげで、当社比3倍のウザさを実現している。

「でもでも、若葉は一緒にいてくれるって言ったもん。契約は断られたけど居てくれるって言ったもん!」

 ライラのせいで、涙目になっていた彼女が若干ムキになりながら言う。

「ハー? あんた、若葉に契約を迫ったの? どういう神経してんのよ!」

「それを言うなら『蒐集』だって、こんな優しい若葉のこと下僕だって言うなんて信じられない! どういう目をしてるの?」

 段々と言い合いが白熱してきた。

 これは杏仁豆腐を持ってきたほうがよさそうだ。

 そう思い僕は立ち上がって冷蔵庫に向かう。

「あれは本心じゃなくて、本当は若葉凄い優しいし大好きだもん。って何言わせんのよ!」

 ライラは体をくねらせながら、ブツブツとグースに言っている。

 内容は聞こえないが、早く落ち着きを取り戻してほしい。全く話が進まない……

「『蒐集』ってば素直じゃないね。そんなんじゃ若葉に見捨てられちゃうよ?」

「大きなお世話よ! それよりさっきから若葉若葉って何で呼び捨てなのよ? なれなれしくないかしら」

「私の勝手だからいいでしょ? 若葉はダメって言ってこなかったもん」

「この女狐め!」

 結局、杏仁豆腐を与えるまで彼女が冷静になることはなかった……


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