魔導書との幻影4
扉の中では、子供たちが遊んでいた。
右手にはレンガの建物があり、中世ヨーロッパを思わせる街並みである。。
左手には大きな川が流れている。
その合間にある河原のような場所で子供たちは遊んでいた
ここが外国であるのは確かなようで、彼らはみんな赤毛や金髪であった。
全員が手をつなぎあって楽しそうに踊っている。
金髪の少女が僕のことに気付いたようで、とてとてと僕のほうに歩いてきた。
「お兄さん、何してるの?」
彼女はツグミと同じように、僕に対して質問をしてきた。
「女の子を探しているんだ。ピンクのドレスを着たかわいい女の子をね」
僕は少女に答える。
まぁあまり期待はしていないのだが……
「知らないわ、そんな人。見たことないもの。みんなはある?」
彼女が周りにそう尋ねるが、首を縦に振る子供はいなかった。
「そうか、ありがとう。では別の所を探してみるよ」
だが、そう簡単に帰してくれるわけではないだろう……
さっきの件で身をもって知った。
「ちょっと待ってよ、お兄さん。私たちママの病気を治すためにみんなで歌っているの! 一緒に歌ってくれない?」
彼女は僕の裾を引っ張りながら、そう言った。
この辺が今回の分水嶺だろう。
ここの選択肢を間違えば、僕は呆気なくGAMEOVERだ。
人生にもコンティニュー機能を付けてくれないだろうか……
「どんな感じに歌うんだい? 一回見せてよ」
現時点では判断材料が少なすぎて、歌うのが正しいのか罠なのか分からない。
感情的には、彼女たちのママのためにも歌うぐらいならいいだろうと思う。
だが、さっきのことを考えると、歌っていたら横の子供たちが一斉に僕を襲ってくるとかあり得そうだし……
そこで時間稼ぎがてら彼らの歌う姿を見せてもらおうと思い、僕は少女に尋ねた。
「え、あ、そうね。みんなこっちに来て! お兄さんの前で踊るわよ!」
彼女が指示すると、子供たちが手をつないで歌い始める。
バラの花輪だ 手をつなごうよ,
ポケットに 花束さして
ハックション! ハックション!
みいんな ころぼ
最後の一文が不穏である。
「こんな感じよ。簡単な歌だからママのためにも歌ってほしいの!」
「うーん」
僕は悩む。
歌うぐらいならすぐ終わるだろうし、一緒に歌ってあげたい。
だが、頭の中のグースの言葉が僕を不安にさせる。
ここで歌わないと宣言したら、安全に帰られるのだろうか。
歌うか歌わないか、それが問題である。
「時間もないし、早く一緒に歌いましょうよ!」
彼女が僕に告げる。
何の時間がないのか分からないことが、一層僕を不安にさせる。
そんな時に僕はふと子供たちを見つめた。
そこである発見をしたので、それについて少女に尋ねる。
「さっき歌っていた子たち、顔色悪そうだけど大丈夫なのかい?」
途端に彼女が振り返る。
さっき歌っていた子のうちの一人が、息苦しそうに立っていた。
いつの間にかその子の体には赤い発疹が出ていた。
「大丈夫よ。あの子のためにも一緒に歌いましょ? そうしたらきっと治るわよ!」
少女は必死に僕に訴える。
彼女の言葉に嘘はないんだろう。
だからあんなに誘ってくるのだと思う。
僕が歌えば、ママやあの子は治るはずだ
代わりに僕に赤い発疹が出て、そのまま倒れ死ぬんだろうけど……
「ごめんね。僕もまだ死ぬわけにはいかないんだ。女の子を見つけなくちゃいけないからね」
そういうと、彼女は涙を流して呟いた。
「ごめんなさい、ママ、カリナ。うまく騙せなかったよ……」
顔には悲しみが満ちていて、僕は何を話せばいいか分からなかった。
「ちょっと待ってて、私ママのとこに行ってくる」
そう言って部屋の奥のほうへ走りだした。
他の子たちはカリナと呼ばれた子の手当てを始める。
彼女は息苦しいのか、苦悶の表情を浮かべていた。
数分もすると彼女は帰ってきた。
「ママのためにも、御屋形様を頑張って見つけて……」
彼女は出会った時とはまるで違う細々とした声でそう言い、僕に鍵を手渡した。
僕は扉を開けてロビーに帰ろうとする。
最後に見た部屋には、最初の子供たちの活気はどこにもなかった。




