魔導書との幻影3
「コラー! 犯人として見つかったんだから、ルール通り若葉に鍵を渡して処刑されてよ! ルールを破ったら面白くないじゃん!」
グースの声がスズメを叱る。
「い、いや俺は死にたくなかっただけで……」
スズメは響き渡る声に言い訳する。
「つべこべ言わないで! さっさとルール通りに動いてよ! クリアできない遊びなんて、遊びじゃないんだよ!」
グースはスズメに怒鳴りつける。
「御屋形様! 申し訳ありません。すぐお客人をロビーにお帰しします!」
ツグミが慌てて僕の拘束を解く。
先ほどまで血走った眼でこちらをにらみつけていた動物たちは、全員僕のほうに申し訳なさそうな視線を向けていた。
そして全員グースの声に対して、おびえて震えていた。
「お客人よ、スズメが悪あがきをして貴方を殺そうとしたことは許されないことだ。本当に申し訳ない」
ツグミが僕に対して謝る。
「ツグミさんが悪いんじゃないんですから、頭を上げてください」
僕は素直に言う。
「違うんだ。我々はここに来た人か仲間のうちの一人のどちらかを殺さねばならないのだ。だから、我々はわざとスズメに騙されたんだ。彼の代わりにお客人に死んでもらおうと思って……」
なんて殺伐とした世界なのだろうか?
もうちょっと、話す動物らしく柔らかな世界観でもいいと思うのだが……
だがこれで何となく、グースの最後のつぶやきの意味が見えてきた。
部屋に入るとそこの住人とゲームを強制で受けさせられ、クリアすることで鍵とやらが手に入るらしい。
この鍵を集めることで、グースが見つかるのだろう。
ゲームに負けると問答無用で殺されるようだ。
今回は、犯人を正しく裁いたことでゲームをクリアしたようだが……
そういう説明や課題の提示すらないとか、いくら何でも玄人向けすぎやしないだろうか?
「けじめはつけなければならない。今、鍵をお渡ししよう。おい、箱とスズメを連れてこい!」
そうツグミが命じると、周りの動物が一斉に動き始めた。
彼らは僕らの前に巨大な黒色の箱を置いた。
彼らの中でも一番大きな牛ですら、やすやすと入ってしまいそうなサイズである。
彼らが黒い箱を操作すると、それは大きな駆動音を部屋に響かせた。
「スズメよ、遺言はあるか?」
「お、俺死にたくないよ! 父ちゃん! お願いだから、止めてよ!」
「……入れろ」
「父ちゃん! たす……てよ! い...や... た…… と……ちゃ」
そう言ってツグミは黒い箱から目を背けた。
スズメが黒い箱の中に入れられて、ふたが閉じられた。
黒い箱には防音機能でもついているのか、中のスズメの声は全く聞こえなくなった。
数分もすると駆動音が止まり、箱がカチッとかわいい音を立てながら開く。
中にはスズメはおらず、代わりに鈍い輝きをした鍵が一つあるだけだった。
「お客人、これが御屋形様に通じる鍵の一つだ。できれば大切に扱ってやってくれ、妻の忘れ形見だからな……」
そう悲痛な声で、ツグミは僕に鍵を手渡した。
クリア報酬の後味が悪すぎやしないか?
「すいません、ツグミさん。本当にありがとうございました」
かける言葉が見つからなかった僕は、あたりざわりのない言葉を言って今度こそこの部屋を出ていった。
扉を閉じるときに見た彼らの顔は悲痛と恐怖に満ちていた。
「若葉、第一ステージクリアおめでとー! この調子で私を見つけてね!」
ロビーに戻るとグースの明るい声が部屋中に響いた。
ここまで鬼が話しかけられるかくれんぼというのも珍しい。
「褒めてくれてありがとう。部屋が残り3つあるということは、3つの試練を超えないとグースを見つけられないということかい?」
「ううん、残り2つでいいんだよ。私の隠れている部屋の鍵穴は3つだから、2つの試練を乗り越えて私を見つけ出してね!」
かくれんぼをするときに、鍵のある場所に入るのはずるくないだろうか……
昔、女子トイレに隠れて数時間鬼から見つからなかった猛者がいた。
そいつはもちろん警察に見つかったのだが。
「頑張った若葉に、一つだけいいことを教えてあげるね! ここではどんな奴も牙をむいてくるわ。たとえどれほど親しげでもね」
そういうと、彼女は歌いだした。
お母さんがわたしを殺して
お父さんがわたしを食べたの
兄弟たちはテーブルの下にいて
わたしの骨を拾って床下に埋めたの
「この世界では、みんな生きるために必死なんだ。みんな自分のためなら平気で他人を殺しちゃうの! だから、若葉もこの歌みたいに信じてた人に殺されないように気を付けてね!」
マザーグースとは童謡を集めた本であるはずなのに、世界観が物騒すぎる……
そう考えると幻影世界が杏仁豆腐のライラは意外にまともなほうなのかもしれない。
「私はずっと待ってるからね。だから死なないで、私を見つけ出してね?」
「こんなところで死んだら、ライラに何言われるか分からないから死ねないよ!」
僕はグースに宣言した。
「じゃあ、期待して待ってるねー! 次も頑張ってねー」
グースが軽い口調で言った。
先ほどのスズメの出来事はまだ僕の心にわだかまりを残しているが、ライラのことを思い出して少し楽になった。
「ゆっくりしている暇はない」
そう思い、僕は南の扉の前に立つ。
一度呼吸を整えて、僕は慎重に扉を開いた。




