魔導書との幻影2
「さて、さっさとグースを見つけてしまおう」
僕はそう思い、洋館を散策しだした。
僕の周りには東西南北それぞれに扉がある。
とりあえず僕は東の部屋の扉を開いてみた。
中に入ると、そこでは様々な動物たちが言い争っていた。
部屋の中であるはずなのに何故か周りには木や草が生い茂っていて、童話の森の中のようだった。
彼らのサイズは、現実世界のものと何ら変わりはなかった。
牡牛やハトにハエ、多種多様な動物たちが、小さな一つの棺桶を囲んで言い争っている。
魔導書が絡んでいるからそこまで驚くことはなかったが、異常な光景であった。
僕は言葉が出てこなくて、でくの坊のように扉に佇んでいた。
彼らはそんな僕に気付いて、声をかける。
「お客人、そんなところで何をしてるんだい?」
ツグミが陽気に話しかけてくる。
「あ、あぁ女の子を探しているんです。ピンクのドレスを着たかわいい女の子なんだけど見ませんでしたか?」
僕は慌てて彼らの居る部屋の奥のほうに進み、ツグミに答えた。
「見てないな、お前らは見たか?」
ツグミが周りの動物に問いかける。
だが、知っていると答える者はいなかった。
「そうか、邪魔をしたね。ご協力どうもありがとう」
僕はそう言って最初の部屋に戻ろうとすると、ツグミが言った。
「こちらこそ、力が及ばなくてすまないね。今はごらんのとおり別件でみんな気が立っているんだ」
ツグミが申し訳なさそうに言う。
「何があったんですか? さっきは言い争ってましたけど......」
「コマドリが死んだんだ。誰かに殺されてしまったんだよ」
彼らに囲まれている棺はコマドリのためのものらしい。
「それで彼の葬式の準備をしたのはいいんだけど、犯人探しが始まってしまってね。このありさまさ」
「なるほど、大変ですね」
人間はよく罪の擦り付け合いやらでごたごたともめ事を起こしているが、動物達にもそういうことが起こるようだ。
「そうだ、お客人! 今ここには容疑者が二人いるんだが、どちらが犯人か裁いてはくれないか?」
突然妙案を思いついたかのようにツグミが言った。
それを聞いた動物たちも「それがいい」と同調する。
「いいですよ。僕が裁判官をしましょう」
僕はグースが最後に呟いた言葉が気になっていた。
だから僕は穏便な選択肢を選んだ。
「おぉ、何と優しいお客人なのだ! では申し訳ないが早速お願いしよう。容疑者のスズメとハエよ、前に!」
ツグミは大仰に僕を褒めたたえた後、容疑者の二匹を僕の前に呼び寄せた。
彼らは僕の前に来ても、先ほどまでのように言い争いを続けている。
「彼らは『互いに相手が犯人』だと主張しているのだ。彼らの意見をそれぞれ聞いて、お客人が犯人だと思ったほうを我々に教えてくれ」
ツグミが僕にそう告げる。
「了解です」
僕は答える。
「では、裁判を始めよう! まずはハエ、お前の主張をお客人に言うんだ」
ツグミが裁判の開始を宣言した。
「おでは、コマドリが殺されたところを見ただ! 彼がコーヒーを飲んでいるとき、突然パァンって音が鳴ったと思ったら、コマドリが死んじまっただ...... 銃で撃たれて死んだに違いないだ!」
ハエは悲しそうにコマドリについて話す。
「なるほどね、スズメにコマドリさんを動機はあるのかい?」
僕は、少しでも判断材料を増やすためにハエに質問する。
「そ、そんなもん、俺にあるわけねえし!」
「スズメ、今僕は君には聞いてないんだよ。それで心当たりはあるかな、ハエ?」
「んだ! スズメは目立ちたがり屋で、コマドリを目の敵にしてただ。それで殺したに違いないだ」
ハエは声を荒らげて言った。
「とりあえず、ハエの話は以上かな?」
「んだんだ」
それを聞いたツグミが裁判を進行していく。
「続いて、スズメよ。お客人にお前の主張を述べるんだ」
彼はスズメにそう言った。
「俺はやってない。ハエが殺したに決まっている。なんたってコマドリは銃じゃなくて毒で死んだはずだ。俺もコマドリが死ぬのを見ていたが、銃なんて誰も撃ってなかった。ハエはうそをついて俺のせいにするつもりだ!」
「ツグミさん、コマドリさんの死因は分かりますか?」
「今届いたフクロウの書いた診断書によると、コマドリの死因はヒ素だそうだ」
それを聞いてハエの顔色は青ざめて、スズメは勝ち誇る。
僕はその診断書をじっくりと読ませてもらった。
「ありがとうございます。では、犯人は簡単ですね」
この事件が杉下█京が取り扱うような難解なものではなくて助かった。
数行しか話してないのに犯人が思いっきりぼろを出してしまっているし......
ということで、僕はあっさりと犯人を告げる
「コマドリさんを殺したのはスズメ、貴方ですよね」
そう言って、フクロウの診断書に歓喜していた彼を指差す。
「は、何を根拠にそんなこと決めつけるんだよ!」
「じゃあ、貴方はなんでコマドリが毒で死んだなんて見てわかるんですか?」
「そ、それは」
途端にスズメが黙る。
これで一件落着のようだ。
「これで解決ですね、ツグミさん」
「あぁ、ありがとう聡明なお客人よ。また来るときは歓迎しよう!」
それを聞いた僕は帰ろうとした。
だが、スズメがそれを阻んだ。
「そ、そんなの口から出まかせだ! 奴こそ犯人に違いない! しらばっくれてるだけさ、そうして俺に罪を着せようとしているんだ!」
彼はそう叫ぶ。
途端に彼らは僕に疑念を抱き始める。
「お客人よ、それは本当か?」
「そんなわけないですよ。僕ここに来たの初めてですよ?」
「姿を変えて来たんだろう、この悪魔め! コマドリを返せ!」
ひどい言いがかりである......
だが、周りの彼らはスズメの嘘っぱちを信じだしている。
中には僕をにらんでいる奴までいる。
「そんなわけないじゃないですか!? 僕は女の子を探しているだけです。ここで失礼しますね!」
ここにこれ以上とどまるのは危険だと思い、僕は急いで部屋を出ようとする。
だが、スズメが彼らをあおるのが先だった。
「おい、殺人犯が逃げるぞ! 捕まえて縊り殺してやろう!」
そういうと、動物たちが一斉に僕に襲い掛かってきた。
特にチートやら異能力やらが使えるわけでもない僕は簡単に捕縛されてしまった。
皮膚には縄が食い込み、口には布をあてられ、首にはフォークをつけられた。
おかげで僕は動くどころか、一文字話すことさえできなかった。
「ここは、騙されて殺されかけた俺にこいつを殺させてくれないか?」
スズメは調子よく、ほかの動物たちに宣言する。
彼はどういう原理か分からないけれど、右の翼で大きな大きな斧をもって、それを僕の首に振り下ろすつもりらしい。
忌々しい小鳥は斧を振り下ろす前に僕の耳元で囁く。
「俺の罪をかぶってくれてありがとよ!」
それが聞こえたと同時に巨大な斧が僕の首に迫ってきた。
痛みに備え僕は歯を食いしばり目をつむる。
グースの声が部屋に響いたのはそんな時だった。




