魔導書との戦果
「平和ねー 暇だわー」
エルさんを『蒐集』して一週間が経った。
僕らは、新たな魔導書と出会うこともなく平穏な日々を過ごしている。
今日も無事に学校が終わり、僕はライラとともに通学路を歩いていた。
「なんか、襲ってきたりしないかしらねー 強すぎず弱すぎず適度に骨のあるやつが」
「そんなこと言ってると、難易度調整に失敗したような化け物が襲ってきそうだからやめてくれないかな」
人生はゲームのように都合よくはないのだ。
僕は初陣の相手が火の鳥だった時、そう悟った……
「だって、せっかく『法の書』の力が使えるようになったのよ? ちょっと試してみたいじゃない!」
そういえば、『蒐集』した魔導書の能力は使用できるのであった。
「僕だって、どんなことができるか把握はしたいけど……」
「じゃあ、あそこでやってみましょうよ! 『人払い』も使えるようになったんだし、ね?」
そう言って彼女は近くの公園を指差した。
「大丈夫なの? ものが壊れたりしたらまずくないかい?」
前はエルさんを『蒐集』したから、公園が勝手に修復されたが今回もそんな都合よくいくのだろうか?
「その辺は大丈夫よ! 公園を壊さなきゃいいんだから」
つまり対策はしていないようだ。
「本当に大丈夫かなぁ?」
「つべこべ言ってないでやるわよ! 戦力把握は重要だって若葉がいつも言ってるじゃない!」
「いや、確かにそうだけども……」
僕もライラも絶対、ゴーレムの制御ミスでものを壊しそうなんだよなぁ……
「大きなゴーレムだと制御は私だけじゃなくて二人でやる必要があるからさ、慣れときたいじゃない?」
そう言われて、僕の中で好奇心が膨らんでいった。
「分かったよ…… 少しだけ試してみよう」
「やったー!」
彼女は新しいおもちゃを使いたい子供のようにうずうずしていたらしい。
僕がしぶしぶ承諾したときの喜びようは、杏仁豆腐を渡したときに勝るとも劣らないものであった。
「人の子よ、我らが聖域を犯すというのならば、容赦はしない。疾く去ね!」
ライラが『人払い』の呪文を詠唱する。
これもエルさんを『蒐集』した戦果の一つである。
公園にいた人々はあっという間にいなくなった。
そして、『人払い』を解除するまではあらゆる人々がここに近づくのを無意識的に忌避するそうだ。
「じゃあ、早速あいつの能力を使ってみましょう! 魔導書礼装『法の書』 展開!」
そう彼女が宣言した瞬間、彼女の服が形を変えていく。
漆黒の布地は段々と色を失い、やがて美しい純白へと変わっていった。
スカートのフリルなど、美しい装飾はいつの間にか消え、彼女のドレスは簡素で瀟洒な僧侶服へと姿を変えていったのであった。
「これはエルさんの服?」
「そうよ。でも、私が着るとかわいいでしょ! 何でも着こなすライラ様に恐れおののきなさい!」
悔しいが実際彼女の姿はとても可憐であった。
黙っていれば、ひたむきで敬虔な救世教の幼いシスターとして一躍話題になれるだろう。
黙っていれば……
「これで、あいつの能力を使えるわよ! まずは小さめなゴーレムから行くとしましょう。さぁ若葉、詠唱なさいな!」
そういわれても、知らない呪文をどうやって詠めというのだ……
そう思っていたら、頭の中に呪文が浮かび上がってきた。
思わず僕は口ずさんでしまう。
「動け動け土塊よ。人々守る時来たれり。振るえ振るえその力。災い壊す時来たれり。今こそ全てを守り抜け。集え泥人形!」
その瞬間、ライラの周辺が発光を始める。
光が収まった時には、僕らの目の前に土人形が三体現れていた。
充さんたちが出したものほどの大きさではなく、せいぜい小学生の背丈に届くか届かないかのサイズであった。
「ヨシッ! これぐらいの大きさなら私だけでも、動きながら制御できるわね」
そう言って、彼女はゴーレム軍団を率いて僕の周りをぐるぐる回る。
サイズが小さいせいか、電車ごっこをやっている童子たちにしか見えない。
「どれくらいのサイズになると、身動きがとれなくなりそう?」
「そうねー これ以上数を増やすかサイズを大きくしたら、私は確実にでくの坊になるわよ!」
「僕も操作に加わったら、どの程度まで動けるようになるかな?」
「せっかくだから、やってみましょう。今から一体ずつゴーレムを増やすけど、その操作は若葉に任せるわよ!」
そういわれると、妙なプレッシャーを感じる……
彼女が力を籠めると、新たなゴーレムが現れる。
それと同時に僕の頭に、自分の目からくるものとは違った五感の情報が流れてくる。
その情報の源に僕が指示を出すと、その通りにゴーレムが動き出す。
まるで自分の手足が二倍に増えたような気分であった。
これは、非常に有用な能力であろう。うまく活用すれば戦場の盾としてだけでなく、敵の偵察としても活躍しそうだ。
多分エルさんは小さなゴーレムを作ってライラの場所を探したのだろうし。
「じゃあ、もう一体増やすわよ!」
そう言って彼女が新たにゴーレムを生産する。
すると頭の中にまた情報が流れ込んできた。
だがそれを理解する前に、頭がズキズキと痛みだした。
多分脳の処理能力の限界が来たのだろう。
「ごめん、ライラ止めて!」
「オッケー! 案外、よくやったじゃない。一体目でダウンするかなぁと思ったのに」
彼女がそう言って、全てのゴーレムを消した。
僕の頭に流れ込んでいた情報は頭痛とともに消え去った。
「中々、ゴーレム操作っていうのもしんどいものなんだね」
「そうよ! 一気に3つ同時に操作しても、まだ動けている私が特別なのよ! 『法の書』じゃこうはいかないわ」
サイズが違うとはいえ3体のゴーレムを動かしてなお、楽しそうに走り回れる彼女は魔導書の中でもハイスペックなのだろう。
その割には、『火の鳥』戦も『法の書』戦も結構苦労した気がするのだが……
「最後に2人でどこまで大きいゴーレム作れるか試してみましょうよ!」
彼女がそう提案してくる。
僕も、ゴーレムの限界を知りたかったので二つ返事でうなずいた。
「じゃあ、行くわよ!」
彼女がそう宣言すると、僕の頭に情報の濁流が再び押し寄せてくる。
僕は思わず目を閉じてしまった。
ミシシ バキバキ
そんな音が聞こえてきた。
何とかして目を開くとそこには、公園の木より頭一つ大きいゴーレムが現れていた。
それの足元には滑り台の残骸がある。
先ほどの音は滑り台が潰れた時の音なのだろう。
「ライラ、これってまずくないかい?」
僕は、思わず彼女に尋ねる。
「凄くまずいわね」
そう言って、彼女が巨大ゴーレムを消す
残ったのは無残な姿になった滑り台だけであった。
僕らは顔を合わせてつばを飲み込んだ。
「「走れ!」」
ゴーレム操作の反動を感じながらも、僕らは精一杯走っていった。




