自らに縛られた者
「何故だ! どうして、どうしてこんなことに……」
妹の衣服一式が落ちているのを僕はエルに向かって叫んだ。
僕が死ぬならばまだしも、妹が火の鳥に狙われるなんて……
「そんなの簡単ですよ? 貴方が弱いから、妹様は火の鳥に食われたのです」
「何でだよ! 火の鳥は魔導書の関係者にしか反応しないっていってたじゃないか!」
「貴方も、私と契約する前に襲われてましたよね? たぶんあなた方の親戚に読み手がいるのではないのでしょうか? ましてや貴方が読み手となった今、妹様が狙われないわけないじゃないですか」
エルは冷淡に告げてくる。
「妹様は貴方の弱さが原因で死んだのです。燃え盛る火の鳥に食われて、もがき苦しみながら死んだのです」
彼女は残酷に、無慈悲に僕へ現実をたたきつけた。
「だが、しかしこんな悲劇はあんまりです。陳腐です。契約直後に妹が食われるなんて、三流作家の書いた筋書きです」
俯き、世界に絶望している僕に彼女はそう言った。
「しかし、この世界にも機械仕掛けの神はいるのです。悲劇を覆し、妹様をよみがえらせることも不可能ではないでしょう」
彼女の言葉に僕は耳を疑った。
「そんなこと出来るわけないじゃないか!」
「何故できないと決めつけるのです? この世界には人知を超えた魔導書が何百冊も存在しているのですよ?」
「でも、魔導書と同時に契約することは絶対に不可能だって自分でいっていたじゃないか。契約していない魔導書が手伝ってくれるとは思わないけど」
彼女自身が以前に言っていた因果律とやらに反するはずだ。
「何事も抜け穴というものは存在するのですよ。魔導書を集める魔導書が最近契約を行ったとの情報が入っていましてね」
「それを利用すれば、様々な魔導書を集めて、妹が、理沙が生き返るわけだね」
「ただそのためには、貴方に受け入れてもらわなければならないものがあります」
「何だって良いよ! 妹が甦るだったら僕はなんだってするさ!」
僕はエルに向かって叫んだ。
それを見た彼女は口元をゆがませ、僕に向かって黒い光を放つ。
「さぁさぁ、狂気の傀儡と成り下がって無様に踊ってくださいな!」
エルの嗤い声が響く中、僕の意識は暗転していった
「あとは、俺に任せておけよ。無様な『僕』」
僕が起きたとき、もう僕の体は僕のものではなかった。
エルが何かをしたのだろう。
『俺』と名乗る憎しみにかられた人格とエルという悪魔が世に放たれた瞬間だった。
そこからはあっという間でだった。
エルが若葉さん達にちょっかいをかけ始める。
『俺』もエルも多分ロクなことを言っていない。
若葉さんが僕のように騙されないよう、何度も『俺』から主導権を取り返そうと試みたが、指先一本も僕の意志では動かなかった。
僕はただ、彼らの暴走を眺めることしかできなかった。
幸いにも若葉さんはライラちゃんという魔導書としっかりと絆を結んでいるようで、人でなし共の甘言に乗ることはなかった
だが、エルはどうしてもライラちゃんを排除したいようで、二人に攻撃を仕掛けようとした。
ライラちゃんは、エルが僕を騙す時に言っていた特別な魔導書なようだ。たぶん特別な意味はないんだろう。
彼女を利用したいと思うのではなく、そんなことを考えるぐらいには、僕はもう妹を復活させようとかそういう気力を失っていた。
憎しみと狂気にとらわれた『俺』の醜態を間近で見ているおかげかもしれない。
僕はこれからただ妹のためにこの一生を生きていきたいと思った。
だが、そんなことは『俺』とエルが許すはずもない。
彼らは、ライラちゃんを失脚させることで頭がいっぱいなのだから……
戦いが始まった。
僕が何度「閉まれ」と念じても、僕の口はゴーレム召喚の呪文を紡ぐ。
エルも勝ちを確信したのか、ぺらぺらと話し続けている。
だが、若葉さんがゴーレムの核の場所を見つけたことでその余裕はもろく崩れ去った。
狡猾な二人は逃げようとするが、ライラちゃんがそれを許さなかった。
随分と若葉さんは、ライラちゃんに愛されているようだ。
二人の若葉さんに対する暴挙は耐え難いものであったようだ。
そして、彼女は僕のことについても気づいていたようだ。
てっきり、アホの子だと思っていたが、能ある鷹は爪を隠すという奴だろうか。
エルが必死に命乞いをしている。
ライラちゃんにはエルが嫌がる何かがあったのだろう。
だから始末しようとしていたのだろうが、こんなに無様な姿をさらすことになっているのは皮肉だ。
結局エルの命乞いは聞き入れられず、エルは光の粒子となってライラちゃんの胸元に吸い込まれていったのであった。
それと同時に『俺』も消えたようだ。
すぐさま僕は感謝を二人に述べようとしたが、それはかなわなかった。
僕の意識はまたもや突然暗転したのであった。
次回は本編に戻ります




