魔導書との蒐集
切る場所が分からなかったので、文字数多めです
「動け動け土塊よ。人々守る時来たれり。振るえ振るえその力。災い壊す時来たれり。今こそ全てを守り抜け。集え泥人形!!」
先手を打ったのは充であった。
彼が詠唱を終えるとエルさんの周りが眩い光を放つ。
たまらず閉じた瞼を開けると、そこには巨大なゴーレムが3体現れていた。
「アハハ、いかがですか? 我らが固有能力『土人形従属』は? いま命乞いをして契約破棄をするというのならば、骨の一本や二本で済ませてあげましょう。どうです?」
彼女は狂ったように嗤いながら、僕らに提案してきた。その姿は悪魔そのものであった。
僕はゴーレムと彼らの放つ威圧感をひしひしと感じながらも、彼女の提案に返答する。
「すまないね、生憎契約破棄する気も骨を無様に砕かれる気もないんでね。精一杯抵抗させていただくよ」
「愚かですねぇ。ここには人払いがあるから助けも来ませんし、人の子一人と蒐集ごときだけで読み手を得たこの私に歯向かおうなど片腹痛いですわ! 充!」
「あぁ、心得ている」
そういうと、ゴーレムたちは僕らに襲い掛かってきた。
相も変わらずライラは神がかり的な回避技術で難を逃れる。
僕は大剣を振りかぶって、襲い掛かってきたゴーレムの手を切断する。
「よし! この調子だ」
そう思った矢先、僕の腹部に強い衝撃が加わる。
僕は、公園の奥のほうにぼろ雑巾のように飛ばされてしまった。
腕を切ったはずのゴーレムが僕を殴ってきたのだ。
「若葉! 大丈夫!?」
「大丈夫だよ。だけど今のは一体……」
とっさに受け身をとったおかげで助かった僕はライラに答える。
僕の疑問に答えたのは、彼女ではなくエルさんであった。
「ゴーレムの常識をご存じないのですか? ゴーレムというのは大地、つまり地球の象徴なのですから内部の核を壊さない限り、自動で復活するのですよ」
高笑いをしながら彼女は僕たちに言った。
総じて敵というものは余裕があると格段に饒舌になり、弱点をぺらぺらと話しがちであるが、彼女も例に漏れないようだ。
ただ、今の僕たちにその余裕を覆す手が無いのだが……
「とりあえず若葉! 今ここに動いているゴーレム倒しちゃって! そうじゃないと、あいつらに近づけないわ! ただし、素早く一気にね! じゃないと再召喚されちゃうから」
素人になんてことを要求してくるのだ。
大体内部の核とやらがどこにあるのかも分かっていないというのに……
「大丈夫よ! 近づけさえすれば、こっちの勝ちなんだから。そのための準備はしてきてあるわよ! だから、あとは若葉が少し頑張るだけでいいのよ!」
ここまで範囲が広すぎる少しもなかなか聞く機会はないだろう。
だが、それしか道はなさそうだ。
エルさんも充さんも狂気の嘲笑みを浮かべながら、僕たちにゴーレムをけしかけてきているし。
だが、先ほどから彼らが一歩も動かないのはなぜだろうか?
「なんでさっきから二人ともなんで動かないんだい? ゴーレムだけじゃなくて充さんも攻撃してくると思って身構えていたのに」
思わず、ライラに聞いてみる。
「動かないんじゃないの。動けないのよ。だって、ゴーレム操作は結構神経使うもの。今はそんなことより、無駄口たたいてないで早く剣で核をつぶしなさい!」
「分かったよ……」
僕はゴーレムの攻撃をよけることではなく、ゴーレムの中心部に剣をあてることに集中し始めた。
だが、切っても切っても核にあたることはなくすぐに再生してしまう。
一体核はどこのあるのだ?
「こいつらの中に本当に核など存在するのか?」
少々諦め気味になっていた僕はそうつぶやいた。
「あらあらあらら若葉様、もしかして核が見つからないのですか? あんなに大口をたたいておいて?」
エルさんが僕をあおってくる。
ライラとはまた違った腹立たしさがある。
そんな時に僕は足元に何かが落ちていることに気付く。
それは、袋の中に入った磁石であった。
周りは砂場であることから、砂鉄集めでもした子供の忘れ物だろう。
僕もよく一人で砂鉄を集めて遊んでいた。
決して砂場遊びをする友達がいなかったわけじゃない。じゃない……
そんな思い出話をしている場合ではない。
ひょっとすれば、これで核を見つけられるのではないだろうか?
先ほどの油断しきったエルさんの言葉を思い出す。
『ゴーレムの常識をご存じないのですか? ゴーレムというのは大地、つまり地球の象徴なのですから』
つまりゴーレムの核と地球の核の組成も似たようなものになるに違いない。
地球の核というのは9割鉄でできているのだ。ゴーレムもそうであれば、核に磁石が反応する。
そうでないのなら、もう僕はゴーレムをみじん切りにするしかない。
半ば祈りながら、ゴーレムの攻撃をよけながら、その体のあらゆるところに磁石をあてていく。
ビクッ
反応したのは人間でいう左肺の辺りだった。
あちら側も僕が核の場所が分かったことに気付いたのか、急いで腕を前に出し防御態勢をとった。
だがそんなことは関係ない。
カレンさんからもらった大剣の切れ味は異常だ。
まるでバターでも切るかのように、僕はゴーレムの腕ごと左肺を切断する。
剣が左肺に到達したとき、大剣を握る僕の手が少し止まる。
たぶんこれが核であろう。そう思い、腕に力を籠める。
ギュン
妙な音とともに、剣から伝わる抵抗はなくなり、ゴーレムの切断が完了する。
今までと違って、ゴーレムが再生し再び襲い掛かって来ることはなかった。
同じ手順で残りの2体も破壊する。そして僕はライラに向かって叫んだ。
「終わったよ! あとは君の仕事だよ!」
「若葉にしては上々ね! じゃあ、行くわよ!」
そう言って、彼女はエルさんたちの方へと歩みを進める。
もう僕にできることは何もなさそうだ。
だが、彼女は何をするつもりなのだろうか?
確か、魔導書を蒐集するには、10秒間相手に触れ続けないといけないはずだが……
そんなことを考えていると、自分たちが劣勢であることを悟ったエルさんたちは公園から逃亡を試みていた。
先ほどまでゴーレム操作で動けなかったはずなのに、俊敏な判断と動きであった。
「我が御名を以て命ずる。精霊よ、因果を守る者どもよ。罪深き『法の書』と憐れなその契約者を縛れ」
だが、彼らが公園の出口まであと数メートルの所にたどり着いたとき、ライラの詠唱が公園の空気を震わせた。
瞬間、彼らの動きが止まる。否、何者かに止められた。
エルさんは片足を浮かせた状態で、充さんに至っては片足のまま重心を前に傾けている状態で固定されていた。
だるまさんが転んだでこんな事されたら、素直に褒めてしまうような態勢であった。
だが、ライラの歩みは止まらない。彼女はエルさんとの距離をどんどん詰めていった。
「ねぇ、『法の書』? 私こう見えても今凄い怒ってるのよ? 何でか分かる?」
そう問われたエルさんの額に、汗が滴る。
彼女は慌てて何かを話そうとした。
「むーむー もがっ」
だが、不可視の何かに動きを縛られている今、彼女は口を動かすことは能わなかった。
それを彼女が解除していないということは、言い訳など聞く気もないという意思表示なのだろう。
彼女の場合、単なる解除のし忘れという説もあり得そうではあるが……
「若葉は火の鳥の戦いで傷ついても、この先どれほどの困難が待っていても、私とともに生きようって言ってくれたの」
何やら、ライラがエルさんに向かって呟いている。
呟かれた彼女は全身が動かないはずなのに、僕には震えているように見えた。
「お前はそんな若葉を誘惑し、挙句の果てに殺そうとした!」
ライラはエルさんに向かって呟き続ける。
充さんもライラの迫力に気圧されているようだった。
「あと、そこの貴方の契約者君は、お前がいいように洗脳したんでしょう? 火の鳥に対する復讐心を利用して」
エルさんの流す汗が尋常じゃない量になってきた。
「お前が犯した罪は、お前自身が贖うべきよね?」
そう言って、彼女ははエルさんに手を触れる。
「せっかくだし、娑婆での最後の言葉でも聞いてあげましょう。限定解除!」
ライラがそういうと、エルさんが口を開けるようになった。
「お願い、謝るから! それだけは止めてよ! 少し貴方の読み手にちょっかい掛けただけじゃない!」
動くようになった口でエルさんは、遠くにいる僕にまで聞こえる声で、すぐさまライラに何かの中止を乞うた。
エルさんの口調に普段の余裕はない。
「それもそうねー 一般人には被害を出していないものね。懲罰はやりすぎかもしれないわね?」
「そうでしょう、そうでしょう! 懲罰は『ネクロノミコン』とか『ドグラマグラ』とかのために取っておきましょ? ね?」
エルさんは必死に懲罰とやらを止めるようライラに提案する。
「でも、駄ー目!」
「何でよ、何でなのよ!」
ヒステリックにエルさんは叫んだ。
ライラはその声を無視して詠唱する。
「世を歪めし法の書よ、惑いて至れ我が牢獄に!」
その瞬間、エルさんの体が光の粒子に変化しだした。
そして、それはライラの胸元に吸い込まれていく。
こうして、エルさんとの一件は終わりを告げたのであった。
とりあえず次回は間章を投稿します




