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魔導書ライラと集めましょう?  作者: 十六夜の懐中時計
第一章『法の書』を集めましょう?
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魔導書との結束

 僕らは無事に観覧車までたどり着いた。

 客は僕たちのほかにはおらず、僕たちはスムーズに乗ることができた。

「キャー! 浮いてるわよ! 私たち浮いてるわよ!」

 ライラのテンションが高度と共に急上昇中である。

 窓の外を眺めると、周りの町並みは美しく黄昏ていた。

 街を染める斜陽は『火の鳥』のような下品な緋色ではなく、鈍い金色のような幻想的な橙色をしていた。

「外の景色が凄くきれいだね」

「えぇ、なんて美しい光景なのかしら」

 そう呟く彼女の髪は、沈みゆく太陽に照らされて鮮やかなきらめきを放っていた。

 そんな彼女に僕は思わず見とれてしまっていた。

 それと同時に僕は思う。

「やっぱりエルさんの言う通りにはできそうにないな」

「え、ちょっと待ちなさいよ? それってどういうことよ?」

「うん? どうしたんだい、ライラ?」

「若葉、今あなた『法の書』がどうとか言ったじゃない! どういうことなのよ!」

 どうやら口に出してしまっていたようだ……

 僕は今日彼女がいない間にあったことをかいつまんで話した。


「あんの、陰湿ウシ乳尻軽女め!」

 仮にもシスターの格好をしている相手に尻軽というのもどうかと思うが……

「それで魔導書(グリモア)を蒐集できないようにしようってわけね」

「まぁ、無論断ったけどさ」

「そんなの当たり前でしょ? だって私はこんなにも凛々しくて頼りになるんだから!!」

 頼りになる魔導書(グリモア)は勝手にどこかへ行って迷子にならないと思う……

「ただ、そのうち呼び出すからそのときしっかりした返答をくれとのことだよ ――ってどうしたのライラ!?」

 思わず僕は声をあげてしまった。

 彼女は目から大粒のしずくを落としていた。

「な、なんでもないのよ! 別に若葉が私を選んでくれることなんて当たり前なんだから! だから、私がうれしくて泣いてるなんてありえないのよ」

 あいかわらず、見栄っ張りというかなんというか……

「そ、それよりも若葉。『法の書』の呼び出しはどうするの?」

 照れ隠しもあるのか、彼女は露骨に話を変えてきた。

「もちろん行って、正直に拒否するつもりだけど……」

「もしかして、若葉の頭の中は杏仁豆腐が詰まってるの? のこのこあいつ等のところに行ったら、無理にでも契約破棄させられるわよ!」

 杏仁豆腐が詰まってるのはライラのほうだと思うのだが……

 だが、今回に限っては彼女の危惧は正しいだろう。

 実際、エルさんは実力行使に出ると僕を脅していたのだし。

「じゃあ、ライラを連れていって拳で抵抗すればいいのかい?」

「そうするしかないでしょ? 私がついていったところで戦力はそこまで上がらないけど……」

「じゃあ、カレンさんについてきてもらうとか?」

「そんなリスキーなことできるわけないでしょ。焚書官が『法の書』を焼いてしまったらそれはそれで困るわよ!」

「じゃあどうしろっていうんだい?」

「私たち二人だけで、あの駄肉女を蒐集するのよ。そうするしか道はないわ」

 またもやハードな戦闘である。

 運命の女神は難易度設定を間違えているのではないだろうか?

 こんなの、EasyシューターにLunaticのノーコンクリアを要求するようなものである。

「そんな深刻そうな顔をするんじゃないわよ! それに『火の鳥』と戦うことに比べれば、難易度は低いわよ!」

 あんな化け物を比較対象に使ってはいけないと思うのは僕だけだろうか。

「大丈夫よ。今回は大四喜と字一色と四暗刻のトリプル役満を上がるくらいの難易度だから。天和と九蓮宝燈のダブル役満よりマシよ!」 

 一生見られるわけのない複合役が、一生に一回ぐらいは見られるかもしれない複合役に変わっただけである……

 というか、麻雀を知らないと分からない例えはやめてほしい。

 男子高校生の持つ麻雀知識などたかが知れているのだ。

「まぁ、なんとかなるわよ(ケ・セラ・セラ)! 考えても仕方がないから、観覧車を楽しみましょうよ!」

「本当になるかなぁ……」

「『火の鳥』もどうにかなったんだから大丈夫よ! ほら、あれ! 凄いきれいに光ってるわよ!」

 そう言って彼女は一番星を指さした。

 まだ夜の帳が降りきっていない空で輝くそれは、まるでライラの瞳のように輝いていた。


 蛍の光が流れる中、僕たちは遊園地を出た。

「若葉ー 眠いー おんぶー」

 目をこすりながら、彼女が僕に言ってくる。

 今日一日色々あったし遊び疲れもあってか、完全に言動が童女のそれである。

 「私はレディなのよ!」などとのたまっていたのはどこの魔導書(グリモア)であろうか?

「あと少しで駅だから、それまで我慢してよ。電車に乗ったら寝てていいから」

「んー」

 頭を揺らす彼女とともに僕は駅に向かった。


 時間帯的に帰宅ラッシュに遭遇するのではないかと思ったが、休日である今日にその心配は無用であった。

 空席の目立つ列車に乗った僕らは、座席に座って列車が██駅に到着するのを待つ。

 遊園地が遠ざかっていくのを車窓から見届けたライラは眠りに落ちた。

 時折、「わかばー すごい美味しそう」とか「わかばが、杏仁豆腐になってるー!」とか訳のわからない寝言をつぶやいている。

 ついにはよだれまで垂らし始める始末である。


『次は██駅ー ██駅ー 左側の扉が開きます ご注意ください』

 アナウンスを聞いた僕は、ライラを起こさないようにおんぶする。

 駅員に2人分の切符を渡して、改札横の業務用出入り口を使わさせてもらう。

 そのまま僕は、家にまで歩いていく。

 見慣れた道をゆっくりと歩いていく。

「若葉ー おいてっちゃいやだよ」

 ちょうど家の近くの上り坂に差し掛かった時にライラがそう呟く。

 夢でも迷子になっているのだろうか? それとも夢の僕はエルさんに唆されたのだろうか?

 まぁどちらであろうとかまわないのだが。

「もちろんだよ。一緒に生きるって決めたじゃないか」

 眠っているライラに僕はそう告げた。

 まぁ、眠っているのだから意味はないのだが……

 そんなことをしていたら、ようやく家に着いた。


「……このバカ若葉」

背中でライラが何かつぶやいていることに気づかないまま。


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