魔導書との迷子
「すいません、この辺でゴスロリのドレスを着た金髪の女の子を見ませんでしたか?」
僕はその辺にいる人に片っ端から声をかける。
しかし、誰も彼もが見ていないと答える。
自力で探すのは不可能だと悟った僕は、急いで迷子案内センターの場所をマップで確認する。
「早く見つけなきゃ」
そう呟いていると、凛とした声が聞こえてきた。
『あなた様は、金髪でドレスを着た高飛車な少女を探しているのですよね? 先ほどあちらで見かけましたよ?』
それを聞いた瞬間、僕は驚愕のあまり「あちらってどっちですか!? 詳しく教えてください!」と反射的に叫んでしまった。
『落ち着いてください、若葉様。そんなに大声で叫ばれますと人目に付きますよ?』
僕がぶしつけに質問したというのに、声の主は飄々としたまま答えた。
声の主の言う通り、僕は非常に衆目を集めていた。
僕は慌てて人気のない場所に移動する。
冷静になってきた僕はようやく違和感に気づく。
なぜ、この人はライラが高飛車なことと僕の名前を知っていたんだ?
そしてなぜこの声は脳内に直接響いているんだ?
「君はどこにいるんだ? 一体誰なんだ?」
念話ができるのは、魔導書とその契約者に限られているはずだ。
『あらら、若葉様にもう忘れられてしまったようです。なんと悲しいことなのでしょうか』
契約者は、契約した魔導書としか念話が出来ないはずだ。
つまり、この声は魔導書のものなのだが、ライラのものであるはずがない。
そして因果律の関係上、今僕が遭遇できる魔導書は一人しかいない。
『せっかくなので顔を見せて、若葉様には私のことを思い出していただきましょうか』
「この辺であれば一般人もいませんし、普通に話してもよさそうですね」
そういって、エルさんがどこからともなく現れる。
「ふー、隠密行動はやはり疲れますね。充もそう思いませんか?」
「疲れるが、これも目的のためだと思えば特に問題はない」
いつのまにか、彼女の契約者の充さんも現れていた。
「エルさん、ライラが言った方向とその詳細を教えてください!」
あのアホを早く見つけないと絶対に何か問題が起こる。
「あら、私たちのこと覚えてらっしゃったのですね!」
暢気にエルさんは答える。
「でも、せっかくお会いしたのですし少し私たちとお話をいたしませんか? 」
「すいませんがこちらはライラを探すことで手一杯なんです。だから早く教えてください!」
余りのじれったさに僕はエルさんに向かって怒気を含めながら言った。
「あぁ、『蒐集』の居場所についてはご心配なく。我々の能力で追跡していますから。話が終わればすぐにでも居場所をお教えしますよ」
一体エルさんの能力は何なんだろうか……
だが、そうやってライラのことについて保証されたおかげで、落ち着きを取り戻すことができた。
「一体どのような話なんですか? ライラを見つけてからではダメなんですか?」
そのほうが僕としても話が入ってきやすいと思うのだが。
「私たちとしましては、『蒐集』ではなく若葉様とお話がしたいのです」
「僕一人だけと話したいということですか?」
「ええ、そうです。だからここ数日若葉様が一人きりになるのを待つために尾行していたのですが、中々一人にならないんですもの。私たちつかれちゃいましたよ」
確かにライラと一緒にいない時間なんてトイレに行くときか風呂に入る時ぐらいなものだ。
「そんなときに、アホな『蒐集』が勝手に迷子になってくれたんです。この機会を逃すまいと私たちが参上した次第です」
「そうなんですか、話したいこととは何なんですか?」
「単刀直入に言います。『蒐集』との契約を破棄してくださいませんか?」
唐突に彼女は爆弾発言を放った。
一体彼女は何を言っているのだ?
「『蒐集』に契約者がいて、あれが能力を行使できる状況というのは私たちにとって不都合なんですよ。それだけならまだしも、あなた方は『火の鳥』を討伐してしまった」
「それの何がいけないんですか? あんな化け物生きていたってろくなことにはならないとおもうのですが」
大体、あれはまだ死んでいないのだし……
「困りますとも! あれは私たちの目的を達成するにはなくてはならないものであり、充の行動目的そのものなのですから!」
「そうなんですか。でもだからと言って僕がライラとの契約を破棄しなければならない理由にはなりませんよね?」
「いいえ、ここまで私たちの計画を妨げる不穏分子をほうちすることなどできません。なので、若葉様に契約破棄を促しに来たのです」
「でも僕はそんな方法を知りませんし、する気もないですよ?」
特にメリットがあるものでもないと思うし……
「その方法についてはまた別の場所にてお話ししようと思っています。時間のないときにできるものでもないですし、若葉様に考える時間というものが必要だと思いまして」
「そうですか。まぁ、わかりました」
「日時は追って伝えます。これは若葉様のためでもあるのです」
どういうことだろうか?
「契約破棄をすれば若葉様は、これ以上命の危機などと出会わなくてよいのです。私たちは若葉様の安全も考慮して契約破棄を促しに来ました」
それを聞いて、僕は動揺してしまった。
これを好機と見たエルさんは畳みかけてくる。
「しかも、若葉様が契約を続行するというのでしたら、こちらも強硬な手段に出るしかありません。ですので我々としても是非契約破棄を決断していただきたいのです」
頭の中で様々なものがぐるぐると駆け巡る。
理性がライラを裏切るなんてありえないと言って、本能がエルさんの提案に乗るべきだとささやいてくる。
だが、彼女との日々や会話が本能の声をかき消した。
結局のところ、僕にはライラを見捨てるなんてことはできないのだろう。
もし僕が彼女を裏切っても、彼女は多分僕を責めないだろう。
彼女は普段通りにふるまって、表面的に僕を罵倒するだけだ。
そしてその後、陰で自分を責めて泣くだろう。
その時の彼女の顔が想像できてしまう時点で、エルさんの提案に乗ることなどできやしないのだ。
僕がこうやってライラについて思考して黙っているのが、エルさんには僕が葛藤しているように見えたらしく
「話は以上です。時間はまだありますゆえ、よくお考え下さいまし。話す約束だった『蒐集』の居場所はこちらです」
上機嫌にそう言って、エルさんは僕にライラの現在地を教えてくれた。
「若葉ー 何処ー?」
エルさんに言われた場所に行くと、涙ぐみながら僕の名前を呼ぶ少女がいた。
ライラである。
「そんなひどい顔をしてどうしたんだい?」
後ろから彼女に近づいて尋ねた。
その瞬間彼女は僕に向かって走ってきた。
「若葉ー! どこ行ってたのよ!」
僕に突進しながら彼女は言った。
まさか、裏切りの勧誘を受けていたなどとは言えない。
だが、よく考えてみるとそのセリフは僕のものではないだろうか……
僕の服で涙をふきながら、彼女はまくしたてる
「若葉のバカ! ずっと一緒にいるって言ったじゃない!」
「いや、勝手にいなくなったのは君のほうでしょ?」
「それを察知して、私に注意を払っていなかった若葉がいけないのよ!」
ひどい暴論である……
「とりあえず、泣き止んで? はやくしないとここがしまっちゃうよ。観覧車に乗るんでしょ?」
ライラを探したり、エルさんと話しているうちに時間はあれよあれよと過ぎていた。
あと数分もすれば4時である。
「分かったわ」
ズズルル チーン
そう言って彼女は僕の服で鼻をかんだ。
僕の服は美少女の涙と鼻水まみれになっている。
全くもってうれしくない……




