魔導書との休日2
興奮するライラがはぐれないように、彼女の手を引きながら改札口を抜ける。
3番出口を通り、遊園地の入場ゲートにたどり着いた。
休日なだけあって、それなりの人が入場ゲートやチケット売り場で並んでいた。
と言ってもせいぜい十数人程度であるが。
僕らもチケット売り場の列に並ぶ。
「ライラ、ここからは人が多いから絶対に一人でどこか行っちゃいけないよ。分かったね?」
「もちろんよ! 大体私は一人前のレディなんだから、その辺はわきまえているわよ!」
電車での光景を見た後だからか、彼女の言葉に説得力はなかった。
彼女の精神年齢は幼女みたいなものであるし……
そんなことを話しているうちに、僕らの順番が来た
「ようこそ、██セントラルパークへ! 何名様でのご利用でしょうか?」
「高校生1名と中学生1名で一日乗り放題パスをお願いします」
今回も電車同様、ライラは中学生という設定にしておいた。
「合計4400円となります」
「これでお願いします」
そう言って僕は樋口一葉を窓口のアクリルの下に空いている所に入れた。
その時の僕の手は震えていた。
普段は野口英世までしか使わない高校生にとって、樋口一葉を出すことは非常に勇気のいる行為なのだ……
「お釣りが600円となります。こちら乗り放題パスのリストバンドとなりますので、入場ゲートと各アトラクション入り口にて係員に提示してください。またこちら園内パンフレットとなっております」
僕はお釣りとリストバンドとパンフレットを受け取り、薄くなった財布に500円玉と100円玉を入れた。
「ライラ、これを手首に巻いて。これは破ったりしちゃだめだよ? そしたら何のアトラクションにも乗れないからね」
「うん、気を付ける!」
あまりに観覧車が楽しみなのか、彼女は普段に増して幼く見える。
レディというか、なんというか、れでぃ(笑)である。
とりあえずつつがなく僕らは入園することができた。
「とりあえず何に乗ろうか?」
二人でパンフレットの園内マップを見ながら、僕はライラに尋ねる。
「観覧車はメイン料理だから、大トリ確定でしょ! まずは、このコーヒーカップっていうのに乗ってみたいわ!」
彼女はどれほど回っていたいのか?
たぶん無意識に選んでいるのだろうが、偏ったチョイスである。
「分かった、ほかに何に乗りたいの?」
僕はさらに質問を続ける。
先に行きたい場所をピックアップして、ある程度道のりを決めておかないと大変なことになるからだ。
実際、一度行き当たりばったりで夢の国を一日回ったことがあるのだが、パークの端から端を何度も往復させられる羽目になった……
「んーとね、これとー これとー」
マップに乗っているライラの挙げたアトラクションに僕は赤丸をつけていく。
まず初めに訪れたのは、ライラの要望通りコーヒーカップであった。
ライラがものすごい勢いで回すものだから、僕は一つ目のアトラクションにしてすでにグロッキーだ。
「アハハ、若葉ったらこれくらいでダウンしてるの?」
「誰のせいでこうなったと思ってるんだい? 少しは加減をしてほしいよ……」
「楽しかったからいいじゃない。ほら、次行くわよ、次ー!」
ライラが僕の手を引っ張って早く歩けと要求してくる。
その次に乗ったのは、ジェットコースターである。
ジェットコースターには、スピード重視のものと落下重視のものがあるが、これは前者のやつであった。
僕たちを乗せた機体の安全バーが下がると、係員が手を振って見送ってくれる。
同時に機体が動き出す。
機体はゆっくりと斜面を登っていく。
ジェットコースターというものはここが一番緊張する。
「そろそろ落ちるのよね?」
「そうだよ。ほらもうそろそろ――」
「「ウヒャー!」」
ジェットコースターの降り場に着いた時にはすでに、時計が十二時を指していた。
「そろそろお昼ごはんにしようか?」
「ええ、そうしましょう! でもどこで食べるのよ?」
「園内にフードコートがあるからそこで食べようか。色々選べるだろうしね」
そういって僕たちは歩き出した。
園内のフードコートは盛況であった。
フードコートのメニューはカレーライスやうどん、かつ丼にラーメンまで和洋中、バリエーションに富んだメニューであった。
代わりに値段も園外のものと比べて300円増しであったが……
僕たちは各々好きなメニューを選び、食券を買って席を確保する。
「26番の唐揚げ定食とラーメン杏仁豆腐セットでお待ちのお客様ー」
受け取り口の横で割り箸とお冷を2つずつ貰って、僕らの昼食を席へと運ぶ。
「いただきます」
「いただきまーす」
そういって各々食べ始める。
やはり300円ほど割高なおかげか、から揚げは一つ一つが大きく、ジューシーであった。
ボリューム満点のから揚げ定食は午前中に使い果たした僕のスタミナを回復してくれた。
まぁ、まだ二つのアトラクションにしか載っていないのだが……
ライラはライラで、ラーメンを楽しんでいるようだ。
あんな高そうなドレスを着ながら、ラーメンなどという汁が跳ねやすいものを食べるというのはなかなか恐ろしいことだが……
セットでついている杏仁豆腐を堪能したライラは満足そうな笑みを浮かべている。
僕としても喜んでもらえて何よりだ。
とりあえず僕は食器返却口に食器を返しに行った。
「次に乗るアトラクションははルート的にお化け屋敷でいいかな? ってあれ?」
食器を返し終わった僕はライラに次の目的地を訪ねようとした。
だが、先ほどまで座っていた場所には彼女の姿はなかった。
もしや……
焦って僕はあたり一面を見渡す。
彼女は奇抜な格好と目を引く容貌をしているので、付近に居ればすぐに見つかるはずである。
だが彼女の美しい金髪が目に移ることはなかった。
これは完全に迷子である。
彼女は見事にフラグを回収したようだ……




