魔導書との休日
『火の鳥』との戦いが終わって3日が経った。
その間、特に変わったことやイベントはなく僕たちは平穏とともに今日という休日を迎えることができた。
「若葉! 今日は待ちに待った休日なんだから、せっかくだし遊園地でも行きましょうよ!」
「それは僕に社会的に死ねということかな?」
今日は妹も出かけているし、ライラと二人きりで遊園地に行けば、他の客は僕を見て警察を呼びかねない。
ライラの姿は一般人には見えないので、僕は一人で遊園地を楽しむ不気味な男子高校生になってしまうのだ。
「別に一日ぐらい姿を晒して遊んでもいいでしょ? 私は魔導書でーすって宣伝するわけじゃないし、ね?」
明らかに僕と血の繋がっていなさそうなライラの姿が一般人に見えていたら、それはそれで警察を呼ばれそうな気がするのだが……
「仕方がないなぁ。今日だけだよ…… でもなんで遊園地なんだい?」
「一回でもいいから、あの観覧車とかいう乗り物に乗って、この町を見下ろしてみたいの!」
どうせ遊園地限定の杏仁豆腐とかそんなのが理由であろうと思っていたが、案外純真な理由であった。
「なるほど。じゃあ出かける準備をして。まさか寝巻きで行くつもりじゃないだろう?」
「はーい!」
元気のいい返事とともにライラが指を振る。
寝巻きをゴスロリのドレスへと変えた彼女は髪を直すために洗面台へトコトコ走っていった。
素直な時は本当にいたいけな幼子のようだ。
時おりというか、いつも家や学校での彼女が本当は魔導書であるということをついつい忘れてしまう。
「若葉ー もう準備できたー? 早く行こー!」
よっぽど楽しみなのか、ライラがそう催促してきた。
僕は急いで準備を済ませ、玄関へ向かった。
遊園地は隣町であるため、電車に乗っていかねばならない。
そのため、今僕たちは██線の██駅にいるのだが、僕はそこで猛烈に悩んでいた。
ライラの切符を小人用で買うべきか大人用で買うべきか、それが問題である……
精神年齢的には全然中学生未満でも通せるのだが、見た目的には非常にギリギリなところである。
お財布的には無理にでも小人用を買うべきなのだろうが、もし係員に身分証の提示を要求されたら大変だ。
もういっそのこと電車に乗るときは、認識阻害装置を作動させてライラにはキセル乗車させようかなどと考えた。
だが彼女の残念さを考慮すると、見知らぬ人たちの中に認識されない状態で彼女が乗っていたら、確実に何か問題を起こすだろうと思い断念した。
ピロン ピロン
「すごいわ! 切符が一瞬で吸い込まれて別の場所に出てきたわ」
はしゃぎながら、彼女は僕にそう報告する。
結局、大人用の切符を2枚買うことにした。
安全を金で買ったのだ。
だから、財布の中身が減ったことなんて気にしてなどいない。
気にしてなど、いない……
「お出かけって楽しいわね! 何もかもが新鮮で私を刺激するの」
そう彼女は僕に微笑んだ。
僕としても、ライラが喜んでくれるのは嬉しいのだが、改札付近でピョンピョン飛び跳ねないでほしい。
後ろにいる人たちからのプレッシャーがすごくすぎて、僕はさっきから冷や汗が止まらないんだ……
『次はー ████駅ー ████駅ー ██線、███線ご利用のお客様はこちらでお降りが便利です。右側のドアが開きます。ご注意ください』
どうやら遊園地の最寄り駅についたようだ。
「ライラ、あと少しで着くから降りる準備をして」
ずっと座席に後ろ向きに座って、窓の外を眺める彼女に向かって僕は言った。
電車に乗るのも初体験だったらしく、彼女はずっと景色を眺めていた。
これならば、小人用切符でもばれなかった気がするのだが……
ただ、電車に乗ると思わず窓の外を見てしまう気持ちはわかる。
車では到底出せないスピードで走る電車の景色はえもいわれぬ魅力がある。
それ故に、鉄ちゃんという人々がどの年代層にも一定数存在するのであろう。
「んー」
彼女はそう返事をする。
そう言いつつも前を向く気配がない。
「もう着くんだから、靴を履いて前を向いてよ。置いてっちゃうよ?」
ここまでくると僕も本当にライラが遠縁の手のかかる女の子であるように思えてくる。
「い、いやよ! わかったわ! すぐに降りる準備をするわ」
焦るところがまた彼女を幼く見せる。
実年齢はいったいどれくらいなのだろうか?
本の場合年齢というのかは謎だが……
プシ、プシュー
扉を降りると、まず大きな観覧車が目に映る。
最寄駅なだけあってホームからでも視認可能だった。
「見て見て若葉! 観覧車よ! 回ってるわよ! すごいのよ、とにかくすごいのよ!」
お目当ての観覧車を見つけたライラは、感極まって言語能力に異常をきたしたようだ。
語彙力のない本ってどうなのだろうか?




