魔導書との打倒
彼女がそう告げた瞬間、世界が止まったような感覚に僕は襲われた。
先ほどまでの猛々しい炎の音が聞こえない。
恐る恐る目を開くと、そこには火の鳥だったであろう灰があった。
その代わりに、ライラが立っていた。
「この馬鹿若葉! 私は死ぬなって言ったでしょ? あと少しで死んじゃうところだったのよ! なんで、なんで、私を見捨てて逃げなかったのよ!」
そう叫ぶ彼女の眼には涙が浮かんでいた。
「そんな後味の悪いことはできないし、僕一人が逃げ切れる自信はなかったしね。それに二人とも無事なんだからいいじゃないか」
ライラの楽天的な性格が移ってしまっただろうか。
僕は彼女をあやすように、ほほえみながら答えた。
「でも、でも、あと少し詠唱が遅れてたら……」
激闘の疲れからか、彼女らしくない弱音がこぼれる。
しおらしい彼女は新鮮で、大抵の男性の庇護欲をそそる理想の女の子であろう。
だが、僕からすると背中がむずがゆくなるだけだ。
なので、僕は発破をかけることにした。
「じゃあ、君以外の魔導書だったらもっと早く詠唱できたのかい?」
「分かんない……」
これはなかなか重症である。
普段のライラだったら、既に他の魔導書をあおり散らしているところだ。
「君の力がなかったら、僕は火の鳥になんて手も足も出なかったとおもうよ。奴と出会った時に、僕はMajiでKuwaれる五秒前になるだろうさ」
「そうかな?」
「そうだとも」
「そっか、そうよね! 当たり前よね! 超絶可愛くて強キャラなライラちゃんがいたからこそよね!」
そう言って彼女は微笑んだ。
やはり、彼女はこうでなくては。
「さーて何とか火の鳥を追い払えたし、今日は家に帰って杏仁豆腐パーティよ!」
すっかりいつもの調子が戻った彼女は、杏仁豆腐をご所望のようだ。
「今日は一個だけだからね」
そう告げると、彼女はほほを膨らませ地団駄を踏みだした。
ついには道路に寝転がって腕をじたばたさせる始末である。
少し意地悪をしすぎたみたいなので、そろそろ僕からのご褒美を告げる。
「今日の杏仁豆腐は、とろける濃厚杏仁(税抜き140円)だからね」
それを聞いた彼女は嬉しさの余り、勢いよく跳ね起きてガードレールに頭をぶつけた……
「そういえばさ、火の鳥が来た割には、町が全然壊れていないのはどうしてなんだい?」
711マートで買った杏仁豆腐の入った袋を我が子のように抱えているライラに聞いてみた。
「そりゃあれよ。一般市民に被害が出ないように開発されてるからよ。あいつが出てきたときって周りが赤くなるでしょ? あれヴァチカンお手製の結界でね。ことが終われば、何もかも元通りになる優れモノなのよ」
つまり、ぼくの消火器と軽トラの窃盗は無かったことになるわけだ。
ヴァチカンもなかなか便利なものを発明したものである。
前科がつかないことに安堵した僕は、さらに彼女に質問する。
「『火の鳥』は結局どうなったんだい? 灰になったみたいだけど」
「とりあえず、エネルギー切れにまでは持ってけたから気にしなくていいわよ。あの時あいつが持ってた魔導書のエネルギー全部抜き取ってやったから、しばらくは動けないでしょ」
「死んではいないんだ……」
「そりゃ、ヴァチカンの元秘密兵器なんだから簡単にくたばるわけないじゃない」
発明は結界だけで十分だった……
「しかし、まさか消火器があんなに効くだなんてね」
全ての魔導書の天敵という割には、結構簡単な対策方法である。
「あれは、偶然よ。火の鳥は対魔導書兵器なんだから、放水なんて言うちゃっちな物理攻撃が効くわけないでしょ」
どうしてそんなラスボスじみた敵と初陣で当たらねばならないのか……
「じゃあ今回はなぜ効果があったんだい?」
「どうやら、さっき言った結界が消火器に作用したおかげで、あんなに火の鳥にダメージを与えたみたいね。でも、結界も火の鳥も自動学習機能がついてるから……」
全ての魔導書の天敵という話も納得である。
「じゃあ僕は、どこぞの電気の流れる鉄骨渡りをしている人並みに運がよかったわけだ……」
「だって、ゲームでいえば、魔界四天王をLv1の状態でヒノキの棒を装備して勝つようなものだもの!」
本当に今日から毎日神にでも感謝したほうが良いかもしれない




