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魔導書ライラと集めましょう?  作者: 十六夜の懐中時計
第一章『法の書』を集めましょう?
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魔導書との戦闘

「キィイェェェェェェ」

『火の鳥』は耳をつんざくような不快な鳴き声を上げた。

 まるで、黒板に思いっきり爪を立てた時の音だ。

 とりあえず、身の危険を感じた僕はライラと共に走り出す。

「ライラ、火の鳥に弱点とかないのかい?」

「あるにはあるけど、それを突くためには準備に時間がかかるのよね。多分逃げながらじゃ無理だわ……」

 ライラは悩ましげに言った。

 つまり時間があればいいわけだ。

 『火の鳥』はじわじわと僕たちとの距離を詰めている。

 どの道このままでは二人まとめてアイツの腹の中だろう。

 そう考えた僕は覚悟を決めてライラに告げた。

「じゃあ僕が時間を稼ぐから、ライラはその準備とやらを頼むよ!」

「そんなの無茶よ! 若葉は丸腰でしょ」

「他に方法がない。時間もないから頼んだぞ!」

「死んだら許さないんだからね! 絶対に私一人残して逝かないと誓いなさい!」

「あぁ、こんなところで死ぬわけにはいかないよ。妹が待ってるからね」

「そこは私でしょ!」


「古の盟友よ、どうか答え給え。我が名は千の魔導書を収め、万の魔導書を統べるもの也」

 ライラが何かの準備のために呪文を唱え始めた。

 ライラは今、呪文を唱えながら逃げている状況だ

 なんとかしてあいつの注意をこちらに引かねばならない。

 そうは言ったものの、どうやって奴の注意を引いたものか。

 アレに言葉は通じそうにないし、攻撃して挑発しようにも近づけそうにない。

 かといって何か投げたところで、あいつにダメージが入るとは思えない。

「とりあえず、消火器でもぶっかけてみよう」

 そう思った僕は、近くの市民館で消火器をくすねることにした。


 アイツが現れたおかげか、町には僕たち以外誰もいなかった。

 それは僕たちにとって好都合であった。

 尾崎豊のように盗んだバイクで走り出してもばれないからである。

 今は法律とか道徳とかなりふり構っている場合ではないのだ。

 万が一ばれても、生命の危機に瀕しているし、緊急避難が適用されるだろう(遠い目)

 僕は市民館に侵入し、設置されている消火器をありがたく頂戴した。

 ついでに移動手段もいただこうと思い、管理人室の扉を消火器でこじ開けた。

 管理人室にある市民館所有の軽トラックのキーもくすねた僕は、無免許で拙いながらも火の鳥とライラの方へ走り出した。

 軽トラの荷台には、市民館に設置されている消火器を全部積んでおいた。

 せいぜい6、7本しかなかったが1本だけ持っていくよりましであろう。


「人の欲に汚されッ、堕ちた同胞の魂たちよ。ハァーハァー 更なる罪を犯す前にどうか我が鎮魂歌を聴いてはくれまいか?」

 ライラは息を切らしそうになりながらも、火の鳥から逃げながら詠唱を続けていた。

『無理させてごめん。本当にありがとう。ここからは僕が火の鳥の相手をするよ。詠唱の方をよろしくね』

 労いの念を彼女に送っておく。

『誰にものを言ってるのよ! このライラ様を見くびるだなんて百年早いわ。む、無理なんかしてないわよ! あと呪文のほうは任せなときなさい!』

 彼女のいつもの高慢さが今はものすごく心強い。

 先ほどまで僕の心の中を巣くっていた、消火器如きで奴は僕に注意を示さないのではないかという不安を覚悟へと変えてくれた。

 僕は軽トラを火の鳥の方向へさらに近づける。

 火の鳥という名前を冠する割には、肌を焼き尽くすような熱は襲ってこなかった。

 代わりに襲ってきたのは僕の精神に対するプレッシャーだった。

 捕食者と被捕食者という関係性が僕の魂を蝕む。

 だがそれに臆した瞬間、ライラの努力が無駄になるということを僕は理解していた。

 そのおかげかただ単にプレッシャーに慣れただけか定かではないが、僕が軽トラから降りてヤツに消火器を向けるまでの一連の動作で詰まることはなかった。

 そこにもはや意思はなく、命に対する執念とライラに対する感謝で僕は行動していたのだろう。

 あとは安全ピンを抜いて噴射するだけである。

「ライラじゃなくてこっちを見ろ、焼き鳥野郎!」

 そう叫びながら、消火器のレバーを握りしめた。

 消火液が火の鳥にかかっていく。

 火の鳥にかかった消火液が、奴の体をじわじわと侵食していく。

 奴の体と周りの空気との境が、どんどん奴の体の中心へと近づいていく。

 スコッ スココッ

 ここで消火器の中身がなくなった。

 僕が新たな消火器を取り出す時間など須臾に等しいものであった。

 だが、その間に奴は目を閉じて、体の中心から更なる紅の煌めきを放ち始めていた。

 僕はそれがすぐに奴がダメージ回復を試みているのだとわかった。

 だが、ライラに対する攻撃はやんだ。

 シン・ゴ█ラのように、回復時は他の行動を一切取れないようだ。

 回復にどれほど時間がかかるかわからないが、これは重畳である。

 さらに消火液をかけ続け、僕は奴の回復時間を長引かせる。

 あとは、消化液が切れて奴がまた動き始める前にライラの準備を終われば、万事解決である。

「哀れな骸となりても、なお輝きて人の子を守ろうとする我が同胞よ。その輝きが人の世を犯し、荒廃を齎すことを知らぬ我が同胞よ。どうか天に帰り給え」

 ライラは段々と語気を強めながら詠唱を続ける。

 残りの消火器は手元にある一本のみ。

「汝らが嘆きよ、どうか我らが主の耳振り立てに聞し召せ。必ずや汝らが苦しみを我は代弁しよう」

「呪文がもうすぐクライマックスであればいいな」

 そんな事を考えていると、手元から音が聞こえてきた。

 カスッ カスッ

 無情にもその音は紅くなった世界に響き渡る。

 もう僕にできることと言ったら、奴が動き出す前にライラの呪文が終わることを祈るだけだ。

 そんなことを言ってる間にも、『火の鳥』は修復を続けていた。

 そろそろ元の大きさの4分の3ほどまで回復したようだ。

「さぁさぁ我らが復讐の時は此処に! 今こそ汝らが力を、輝きを、魂を賭して悪食なる焔の獣を灰燼に帰してやろうぞ!」

 ライラの声音も声色も声量もいよいよ山場を思わせるものになってきた。

 だが、そのことを安堵する前に、絶望が動き始めてしまった。

 『火の鳥』の大きさとその色が完全に元に戻ってしまったのだ。

 奴は(まなじり)を決して、僕を睨みつけてきた。

 すぐさま此方へやってくる。

 だが奴は、ライラにしていたような火の玉での攻撃をするのではなく、ただ僕のほうにその巨大な口を開けるだけであった。

 一瞬「僕は食われるのだろうか?」と思ったが違うようだ。

 周りの空気が鳴動している。

「我らが恨みで彼奴めの腸を焼き尽くして見せようぞ!」

 多分御伽話のドラゴンのような攻撃を僕にお見舞いしてくれるのだろう。

 『火の鳥』の口の中で、無数の火の玉が収束している。

「我らが嘆きで、彼奴めのこめかみを溶かしつくして見せようぞ!」

 ここで僕は死ぬのだろう。

「焼死の際にはやけどの痛みがするのだろうか?」

 そんなくだらないことを今わの際で僕は考えていた。

「ごめんね、朱里」

 そう呟いて、そっと目を閉じて、激しい痛みに備える。


 しかしその前に少女の声が割り込んだ

「此処に我らが祈りは成った。同胞よ(ディアボロス) かの獣を(パニッシュメント)焼き尽くせ(マーシィファイア)!」


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