魔導書との窮地
渋々振り返るとそこには、騎士の礼装を纏った妙齢の女性がいた。
髪の色は、エルの美しい蒼色と反対に、燃える炎のような赤色であった。
腰には、宝石などが華美ではない程度に装飾された剣を携えていた
「どうしたんだ、少年? さては、この私の美貌に見惚れちゃったのか?」
さては、ライラと同じタイプのキャラか?
「そうだよな? 私かわいいもんな!」
どうやら彼女もライラと同じタイプのようだ......
どうして、魔導書がらみの連中はそろいもそろってキャラが濃いのか?
「あぁ、すまない。私としたことが自己紹介するのを忘れていた。私の名前は、カレン・クリストフ。ヴァチカンの焚書官だ。丁度通りかかった時にうちの組織の悪口が聞こえたから、つい口を挟んでしまったんだ」
「そうなんですか、さっきはごめんなさい。僕は熊野若葉って言います」
「いや、うちの組織は誤解されやすいからな。別に気にしてないよ」
「さっき言ってましたけど、カレンさん達焚書官はみんなを守るスーパーヒーローなんですか?」
純真無垢を装って、カレンをおだてる。
彼女に話しかけられる直前までライラと会話をしていたのに、まだ彼女はライラに気づいていないようだ。
『これってもしかして認識阻害装置の効果かい?』
『当たりー! いやー、作動させといてよかったわねー』
珍しく彼女がナイスな行動をしている。
不幸の前触れでなければいいのだが......
『まぁ、作動してなくても連中は私のことは見えないから、なんとかなるんだけどねー』
『焚書官は魔導書の姿が見えないの?』
『あんな魔導書を燃やすことしか頭に無い馬鹿どもと波長が合う魔導書なんていないわよ! そうでなくても自ら敵に姿を見せに行く魔導書はいないからね』
『じゃあ、そこまでおびえなくても良いんじゃないか?』
『連中には魔導書のなれの果てが居るのを忘れたの? 禁書が私たちのことを焚書官に伝えたらそれでお終いよ。たまに焚書官の中には、匂いで魔導書を見つける奴もいるしね』
流石は魔導書と敵対する組織といったところだろうか、中々にぶっ飛んだ人々で構成されているようだ。
「そうだぞ! 世界を魔導書という悪魔から守っているんだ! ヴァチカンは人々を救う素晴らしい機関でな! 何人もの無垢なる人々が~」
僕らが念話している間、彼女はずっとヴァチカンについて熱く語っていたらしい。
その悪魔とやらは僕の横にいるし、僕はそいつの契約者である......
その事実が顔に出ないように気を張りながら、僕はカレンと会話を続ける。
「カレンさんは、ヴァチカンが大好きなんですね! なのにどうして日本に来たんですか?」
情報をできる限り得ようと、僕は彼女にそう質問する。
「あぁ、それはね。ヴァチカンが保有している秘密兵器に、『遥かなる航海を続ける者の道標』という羅針盤と地図のセットがあるんだ。こいつらは私たちにとって重要度や危険度の高い魔導書の居場所を示してくれる優れものなんだ! まぁ、使用するために莫大な労力と金が必要なんだが......」
中々どうして、面倒くさいものを彼らは保有しているようだ......
『あれの正式名称は、あんな大層なもんじゃないわよ!』
『知ってるのかい、ライラ?』
『ええ! あれは多分、『火打ち箱』が私のために作ってくれた『グリモア見つける君試作二号機』よ。失くしたと思ってたら連中がネコババしてたのね!』
まさかの元所有者だった......
『まぁ、大丈夫でしょ? 私以外が使うと、そいつにとって災難が起こる場所を指し示すセキュリティを『火打ち箱』が導入してくれてたし』
その頃から信用がなかったということが容易に想像できる......
なんにせよ、『火打ち箱』の慧眼に感謝しておこう。
「話が逸れてしまったが、そいつらがこの町を指し示したんだ! だから、上級焚書官であるこの私が派遣されたのだ!」
なんでこうアホな奴に限って身分だけは高いんだ?
「そうなんですめ。お仕事頑張ってください、カレンさん!」
「あぁ、こちらこそ長話をして悪かったな。魔導書には気を付けるんだぞ」
「わかりました。カレンさんもお気をつけて!」
何とかやり過ごしたようだ。
そう安堵した僕は彼女に挨拶し家路に着こうとした時だった。
「じゃあねー ポンコツ焚書官」
ライラが油断して余計なことを言った。
瞬間、カレンが腰の剣を抜きライラの方へと投げる。
ライラは紙一重で剣を避けていたので、大事には至らなかった。
だが、ライラの後ろにあった電柱は天寿を全うした。
「ど、どうしたんですか、カレンさん?」
「済まない、さっき悪魔の声が聞こえた気がしたから、連中の体をぶち破る剣を投げたんだ。もし当たっていたら、連中が痛みに悶えて姿を現すはずだから気のせいだろう」
ライラの存在がばれなくて本当によかった......
僕がヴァチカンや焚書官のことについて知ってることに違和感を持たないポンコツだから、仕事もポンコツだと思っていたがそれは見当違いだったようだ。
というか、もしライラが物理攻撃無効だからといってたら、一巻の終わりだった。
『さっきの攻撃よく避けられたね?』
『テラ級かわいいライラ様なんだから当たり前でしょ! 昔から後ろのほうでちょこまか逃げ回ってきたこの私の逃げ足をなめないで頂戴!』
素直に逃げ足が速いといえばいいのに......
「怖がらせて済まなかったな、少年。お詫びと言っては何だがその剣は少年にあげよう」
「そんな、いいですよ」
「遠慮しなくていいぞ。似たようなのはたくさんあるし」
こんな高そうな剣を前にしたら誰だって遠慮するだろう......
でも、丸腰とこの剣があるのとでは大違いであろう。
そう考えると喉から手が出るほどほしい。
ただ、その前に一つ確認しなければならないことがある。
「是非頂きたいんですけど、これ銃刀法に引っかからないですかね?」
「それは、大丈夫だ。本部の権力でヴァチカン所有の剣に関しては銃刀法に抵触しないことにしてるから」
なんか、『バレなきゃ犯罪じゃないんですよ』とかそういうレベルを超えてきた......
だがまぁ、そういうことならありがたくいただいておこう
「本当にありがとうございます、カレンさん! 家に飾っておきますね」
「常時帯剣してくれても構わないんだぞ?」
常時帯剣して高校生活を過ごしたくはない......
「アハハ、冗談だよ! じゃあな、若葉!」
そう言って彼女は去っていった。
本当に嵐のような人であった......




