魔導書との和平
「お時間を戴き誠に有難うございます、若葉様。手短にお話しさせていただきますね」
深々と礼をしながら彼女はそう言う。
「単刀直入に申し上げますと、どうか私たちに干渉しないでください」
「どういうことよ?」
「今、『火の鳥』がこの付近をうろついて居るのです。それに加えてヴァチカンの『焚書官』までこの町に来ています。はっきり言ってそれで手一杯なんです」
「何でそんな面倒なものが極東の島国の片田舎に目白押しなのよ!?」
「それはこっちのセリフですよ! おかげでおちおち眠れやしない!」
「なんか結界とかびゃーって貼って、どうにかしなさいよ! あんた『法の書』でしょ?」
「無茶言わないで下さい…… 出来たらとっくにやっています!」
そう言って二人はまたギャーギャー諍いを起こし始めた。
話が進まないので僕はライラを宥めに入る。
「まぁ言い合っても仕方ないから落ち着いてよ、ライラ」
「あっちの態度がいけないのよ!」
まだご立腹のようだ。
気を逸らすために僕はライラに質問する。
「『焚書官』というのは前言ってた魔導書狩りの関係者なんだろうけど、『火の鳥』って何だい?」
「後で詳しく話すけど、『火の鳥』は魔導書の天敵その2よ」
多分1は救世教のヴァチカン本部とかいうやつなんだろう。
「まぁ、そういうわけで今は貴方に蒐集されるわけにはいかないんです」
「何でよ? 私の中ほど安全な場所はないじゃない?」
「私の読み手が、彼奴らに執着してましてね。如何しても、自らの手でケリをつけたいそうですの?」
「何を莫迦なこと言ってるの? あんた防御系でしょ?」
「私は一応防御系ですが、固有能力は防御系ではございませんし、本人が躍起になっているのであれば魔導書はそれに従うまでです」
エルさんが防御系でないとすれば、僕たちは今非常にまずい状況に陥ってはいないだろうか?
焦った僕はライラに問う。
「ライラ、一体エルさんの固有能力は何なんだい?」
「知らないわよ!? 私が知ってるのは、蒐集した事のある魔導書の幻影世界のトリガーだけよ。把握して置かないと中の魔導書が出てきちゃう時があるもの。それに比べて、固有能力の方は、蒐集時に無効化できるから把握する必要もなかったし、契約者がいる魔導書と出会うこともそんなになかったし……」
やっぱり肝心要の時に役に立たない……
「なにはともあれ、ご了承いただけますね? 私共としましても、新たな敵が出現するのは好ましくないですし、どうかよろしくお願いします! 事が終われば、しっかり蒐集されますから」
「胡散臭すぎるセリフね」
それに関しては同感である。
だが、此方が丸腰であるのだから、あちら側と闘わなくて済むのは助かる。
いつかは対立するであろうし、問題の先延ばしと言ってしまえばそれまでなのだが……
「そういう事情なら仕方がないし、僕としても無用な争いは避けたいところだから是非よろしく頼むよ、エルさん。ライラもいいよね?」
『いやよ! あんな胡散臭いやつ信じたらろくなことになりゃしないもの! 実力行使と行きましょうよ、若葉?』
念話の中でも強気のライラであった。
どこに行使できる実力があるというんだ……
もう色々と面倒くさいし、杏仁豆腐で釣ってしまおう。
『こんなところでひと悶着起こしたら、杏仁豆腐を食べる時間が無くなっちゃうんじゃないかな?』
そう念じると、途端にライラは慌てだし、
「やっぱり時には慈悲深さを下々の本に示すことも必要よね? それに私平和主義だし、今回の話に乗ってあげるわ!!」
などと上から目線にエルさんに告げるのであった。
何はともあれ、和平合意した僕たちは、無事に帰路に着いた。
まだライラと出会って一日しか経っていないのに、去年一年のイベントを還元濃縮したような濃い時間だった。
しばらくは、ほかの魔導書とも会わずに平穏に時が過ぎてほしい……
「そういえば、会話の途中で出てきた『火の鳥』というのはどんな厄介なものなんだい?」
手█治█作品に出てくる害鳥以外で『火の鳥』を僕は知らない。
「あれも元はといえば、ヴァチカンが作った魔導書を狩るための便利アイテムの一つなのよ。魔導書には基本的に物理攻撃は聞かないから、魔法の火を噴く奇跡の生物を作ろうってなってあれを開発したらしいわ。ただ、ヴァチカンも制御ができなくなって不法投棄したのよ……」
なんて杜撰な管理体制であろうか。
ヴァチカンに廃棄物処理法が適用されないことが悔やまれる。
「まぁ、一般人には無害だからいいんだけど、魔導書や契約者、さらには契約者の家族、果てにはヴァチカンの連中まで少しでも魔導書と関係するもののみを無差別に焼き尽くす厄介な鳥よ」
「それは非常にまずい事態じゃないか!」
「それに加えて焚書官まで来てるんだから、不幸のバーゲンセールねぇ……」
「焚書官っていうのはどれくらいヤバいんだい?」
「あいつらもあいつらでイカれてるわよ?」
まぁ、火の鳥を作ったまま不法投棄するような組織から派遣される人間なんだからイカれていて当然だろう。
「あいつらは魔導書を焼くためだけに魔導書を捕獲して、聖釘をぶっ刺して、魔導書を痛めつけて、そいつを禁書とか呼びながら、火を吐き出させて他の魔導書を焼かせるとかいうド畜生よ! 挙句の果てに、魔導書の契約者まで『異端に魅入られし愚かなもの』とか言って嬉々として殺しに来るんだから!」
そんなところに盗みに入った彼女も大概だと思う……
「私はあいつらから魔導書を守るために生まれてきたといっても過言ではないわね!」
「じゃあ、なんか対ヴァチカン専用能力とかあるのかい?」
「あるわけないじゃない!」
そんなことを胸を張って言わないでほしい……
「まあ、ヴァチカンの焚書官というのは基本人でなしで警戒を怠るなってことなんだね」
要は僕限定の殺人鬼みたいなものなのだから、油断が命取りであろう。
「そんなことはないぞ、少年! 焚書官というのは悪魔どもから世界を救うスーパーヒーローなんだからな」
またも、背後から突然声が響いてきた。
もう、嫌な予感しかしないんだが……




