魔導書との会敵
「何とか一日乗り切れたー!」
本当に気を張り続けた一日だった。
これを毎日続ける体力が果たして僕にあるだろうか?
「そりゃ、この天才ライラ様が問題なんて起こすわけないでしょ? そういうのを杞憂っていうのよ?」
天災ライラの間違いではないだろうか?
「まぁ、何事もなくて良かったよ」
「そういえば若葉、まだ学校が近いのに念話じゃなくて大丈夫だったの?」
「周りは確認済みだよ。人っ子一人いない」
どこぞの残念な魔導書じゃあるまいし、僕は確認を怠るなんて油断はしない。
「じゃあ大丈夫ね。早くお家で杏仁豆腐たべまs、って待ちなさい若葉! なんかこの状況おかしくないかしら?」
「急に真剣な顔してどうしたの?」
正直、杏仁豆腐の部分との落差が激しすぎてついていけない。
「今日私たちって他の生徒たちと時間をずらして、下校してるわけじゃないわよね?」
「そうだね。だから校門を出るときもすごい警戒したんじゃないか」
「そんなに生徒がいれば一人ぐらいここを通る生徒がいてもおかしくないでしょ? まだ学校の近くなんだから」
「確かにそうだ……」
誰だ、油断せずに確認してるとか自信満々に言ったやつ。
「もしかしてこれ、魔導書の仕業なのかい?」
「私はそれ以外にこの現象を説明できないもの…… 多分、防御系や魔法系の魔導書が使える『人払い』じゃないかしら」
「御名答です。流石は『蒐集』の魔導書といったところでしょうか?」
突然、背後から凛とした高い声が響いた。
思わず振り返ると、そこには純白の僧侶服を着た女性が僕と同年代ぐらいの青年とともに立っていた
「初めまして、蒐集の『読み手』様。私は『法の書』と申します。呼びにくいと思いますので、お気軽にラテン語名のあだ名で『エル』とでもお呼びくださいまし」
非常に礼儀正しい挨拶でエルは、僕の魔導書のイメージをいい意味で壊してくれた。
「ご丁寧なあいさつをどうもありがとう、エルさん。僕の名前は熊野 若葉。ご存知の通り、となりにいるライラの契約者だよ」
「そんな慇懃無礼な奴に挨拶なんてしなくていいのよ若葉! あっちが勝手に人払いを掛けてきたんだから。なんて失礼で無礼で礼儀のなって無い魔導書なのかしら」
その失礼で無礼で礼儀のなってない魔導書に礼儀という点で彼女は大敗していると思うのだが……
「それにしても、『蒐集』の気の短さと胸の貧相さはあいかわらずですね」
あ、敢えて今まで触れていなかった胸の話を持ち出したよエルさん……
明らかに地雷だろうなと思っていたから絶対触れないでおこうと思ってたのに。
「おうコラ、テメェ胸がどうしたって? もう一遍行って見やがれ! うちの幻影世界でぶっ潰してやろうじゃねえか!」
案の定ぶち切れですね。
普段の高飛車さとか残念さとか何処へ行ったんだろうか。
完全にスケバンか江戸っ子である。
杏仁豆腐で落ち着くといいが……
「まぁまぁ、ライラ落ち着いて? 家に帰ったらダブル杏仁豆腐が待っているんだから。あとエルさんも無駄に挑発しないでください」
「そうよね。杏仁が待ってるものね」
「そうですわね。申し訳ございません」
何とかどちらも落ち着いた。
とりあえず僕はもう一人の青年について尋ねて気をそらそうと画策した。
「そういえば、そちらの男性はエルさんの契約者さんなんですか?」
「あぁ、ご紹介するのを忘れておりました。彼は私の『読み手』の佐々木 充ですわ。充さん一言お願いしますわ」
「佐々木 充だ。お前らと馴れ合うつもりはない。決して俺の邪魔をするなよ!」
何だかこちらはこちらで面倒ごとの火種になりそうな奴だった。
さっさとここから立ち去りたい.....,
「そうなんですね。じゃまするのもわるいんでしつれいしm」
「お待ちください、若葉様。今回はお二人にお話があってお会いに来たのです」
お話に来た相手に普通挑発するだろうか?
やはり、礼儀正しく見えても魔導書というのは、どこかずれているというか、イカレているのだろう。
「そうなんですね。ただこの後私用が在るのでまたの機会でいいですか?」
僕は両親不在の暮らしで身に着けた対勧誘スキル『私用』を駆使して、なんとかお話とやらを回避しようとする。
絶対に面倒なことになるだろうから……
「待ちなさい若葉。ここで私たちに攻撃じゃなくて話をしてきたということは、彼奴が今の所敵意のある魔導書じゃないってことだわ。貴重な情報源だし話は聞いたほうがいいと思うの」
いつになく真剣なまなざしでライラがこちらを見ながら言った。
よくよく考えてみれば、今うまく回避したとしてもまた彼らがやってくるのは明白であるし、情報源として利用できる可能性も考慮すれば、ここで話を聞くことはリスクよりリターンのほうが多いだろう。
僕はそう考えて、エルさんに言った。
「ライラがこう言ってますし、お話を聞かせてください。ただし、私用がありますので、できるだけ簡潔にお願いします」
私用の時間が来たので僕はもう帰りますねという保険は残したまま……




