第88話:もう1人の魔法少女
今回から、三人称に戻ります。
「そういえば、なんで絵梨が転入したのに俺は気づかなかったんだろう?」
「それはね、プリンが魔法で私が自然にこの学校にいたことにしてくれたの。時期的に変な時期に転校してきたし、魔物を倒す魔法少女だということもみんなには秘密だから、そっちの方が都合がよかったのよ」
「そういうことだったのか」
「あまり周りと仲良くするとその子達も狙われるから、ひとりぼっちなんだけどね……」
絵梨は寂しそうに微笑んだ。
「そんなことないよ、俺がいるじゃん!」
「ありがと……でも、ホッとした。りょーくんは女の子になってもりょーくんのままだったから」
「?」
「昔と一緒で心優しいとこだよ。はぁ……あの時に気持ちを伝えていればなぁ…………」
絵梨はふと何かを思い出し、深いため息をついた。
「どしたの?」
「りょーくん、私ね、りょーくんが好きだったんだ。いや、今も好き///」
「それは……俺も好きだったよ。絵梨のこと………」
「あははっ、なんか虚しいね。2人とも好きだったのに気持ちを伝えられないままだったなんて」
「そうだね」
「私は今でもりょーくんのこと好きだよ。たとえ女の子になったとしても、ルナの中のりょーくんはりょーくんのままだから」
「ありがとう……でも」
「うん、分かってる。りょーくんは倉田くんのことが好きなんだよね。だから、これからも親友でいてくれる?」
「もちろんだよ」
それからは久しぶりの再会で2人は思い出話に花を咲かせた。
「じゃあ、そろそろ俺は演劇に行かないと」
「主役、頑張って!」
絵梨からエールをもらい、ルナは体育館へ向かった。
体育館の裏口からステージ横の倉庫(演劇の際には控え室になっている)に入ると、もう皆揃っていた。
「夜月さん、お疲れ様。どう、宣伝はできた?」
渡辺さんがルナに駆け寄ってきた。
「うん、多分できたと思うよ」
「ありがとね。開演まであと10分くらいあるから、ボロ服に着替えておいて、あとはそれまで休憩してたりしてて」
言われたとおりにドレスからボロ服へと着替える。あとはカツラを忘れないように付けておかないといけない。普段は黒髪ロングなのだが、長い金髪のカツラをつけた。
鏡で見てみると、いつもとは違った雰囲気に見える。
「どう、似合ってる?」
たまたま隣に座っていた相手役であるお祓い屋にコメントを求めてみる。
「似合ってるんじゃないか?」
「もぉーなんだよ、その気の無い返事は!一応、相手役でしょ‼︎」
「オレはお前が可愛かろうが、別にどうでもいい」
「ということは可愛いとは思ってるということだね」
「クッ、しまった‼︎ まぁ、それは言葉の綾だ」
「ふふっ、まあいいや」
「なんだお前!オレをからかっておきながらまあいいやとは‼︎」
こんな会話でも、周りからはいちゃついている男女にしか見えないようだ。周りから、ひそひそと「あの2人っていい関係そうだよね」だとか「でも夜月さんって倉田くんと付き合ってなかったっけ?」だとか「番長とも良さげな関係らしいよ。いったい何人と関係を持っているのかしら。いいなぁ、私も夜月さんみたいに可愛かったらなぁ」などと聞こえてきた。迷惑極まりない‼︎
「おい、お祓い屋」
「ん?」
「これ以上の会話は避けよう」
「別にいいが……」
周りから変な誤解を受けながら、10分はあっという間に過ぎていった。
〔これより、2年3組による演劇、シンデレラの始まりです〕
アナウンスが流れ、体育館に集まった大勢の人の拍手の中、幕が開かれた。
ステージに上がってから、ついつい観客席を見渡してしまった。マサキが来ているかどうか知りたいからである。目を凝らして探していると前列から6列目に座っているのを発見した。しかも、スマホの画面をずーっとこちらへ向けている。写真を撮っているのか、それもと動画を撮っているのか?
まずはルナが意地悪な継母と姉2人からいじめられるシーンなのだが、継母役の渡辺さんと姉役の木下さん・坂口さんの演技力が尋常じゃなく上手い。ルナもかなり練習してきたつもりだったが、3人にはかなわなかった。皆から、大根役者だと思われなければいいのだが……。
物語は進んでいき、魔法使いが現れて、魔法をかけてくれるシーンになった。このシーンの見所はルナの衣装を変える際に、いったん幕袖戻るのではなく、黒子役の女子生徒たちが、俺の周りにカーテンをかけ、そのステージ上で着替えをさせるという演出である。初めは黒子たちに見られるから嫌だと反対したのだが、渡辺さんの押しに負けてしまった。
そして、いよいよその演出がなされるというとき、観客たちの真上に1人の少女がういていた。
「え!絵梨どうしたの⁉︎」
その少女の姿はピンクと白の衣装とクリーム色のツインテールが可愛らしさを溢れさせる魔法少女であった。
「大変なの、魔物よ!」
絵梨が指差したギャラリーには目玉が1つの恐ろしげな化け物が立っていたのだ。
「魔物‼︎」
絵梨の魔物という言葉に敏感に反応して、ステージ上に出てきたのはお祓い屋であった。
「魔物め、待て‼︎」
お祓い屋は演劇のことなど忘れ、ステージ上から飛び出して、二階ギャラリーへ向かった。
これには観客たちも驚きまくっていた。そりゃそうだろう、恐ろしい化け物に宙に浮かぶ魔法少女、いきなりステージを飛び出す演者。もう、めちゃくちゃだ。
「演劇はめちゃくちゃになっちゃったけど、この際しょうがない。俺も魔物と戦おう」
吸血鬼の姿になろうとしたルナはリリムに止められた。
「ルナさん、何やってるんですか!皆さんにバレちゃいますよ‼︎」
「じゃあ、巫女姿に」
「それも討伐団から敵として認識されてるじゃないですか」
「じゃあどうすれば……」
「私にいい案があります。ルナさん、耳を貸してください。ゴニョゴニョゴニョ……」
「嘘でしょ⁉︎ 俺が………無理無理無理、恥ずかしい‼︎」
「緊急事態ですよ。ルナさんの力が必要です!」
「はぁ、分かったよ……」
リリムに説得され、リリムの案を採用することにした。
「今いくよ、絵梨」
絵梨と魔物が対峙している二階ギャラリーへ向かう。
「でも、どっちの姿も秘密なんでしょう? ここは私に任せていいから!」
「いや、俺も戦うよ。それに、絵梨と共闘するにはもってこいのアイデアをリリムが教えてくれた‼︎」
まずは、巫女姿になるためにいつも使っているマントを羽織り、マントへ変化して欲しいものを念じる。すると、マントは光を放ちながら、その姿を変えていく。
その光に包まれたルナにみんなの視線が集まっていることを感じた。今更ながら恥ずかしい。でも、ここまで来ては引き下がれない。
光が収まっていき、やがて消えた。
「「「「「あっ、もう1人の魔法少女になったぞ!可愛い‼︎」」」」」
下から観客の歓声が聞こえてくる。
ルナの髪は黒髪のままだがポニーテールになり、紫と黒を基調とした絵梨同様の衣装を身に纏ったのだ。
「溢れる美しさラブラブラブリー♡魔法少女ピュアルーナ誕生!あなたたち悪の魔物の手からみんなを守ります‼︎」
「りょーくん、その姿って⁉︎」
「どういうことだい、ルーナ?」
絵梨とプリンはルナの魔法少女姿に混乱していた。
「魔法少女はピュアハート以外には存在しないはずなんだけどなぁ」
プリンはルナの周りをくるくる回りながら観察し、首を捻らせている。その姿がまた可愛らしい。
「本当の魔法少女じゃないんだよ。これは俺が持ってる特殊なマントで自由に姿を変えられるんだ」
「なるほど、それでりょーくんが魔法少女の姿になれたってわけね」
「そゆこと。さてと、2人でこの魔物をさっさと片付けようよ」
「そうね。でもなんだか嬉しいなぁ。私、今まで1人で戦ってきたから、仲間の魔法少女ができたみたいで」
「そう言ってもらえると嬉しいし、やった甲斐があるよ。これからも絵梨と一緒に戦う時はこの姿になろうか?」
「うん、是非お願い!」
「よし、じゃあ倒そうか!絵梨‼︎」
「ちょっと待って。変身してる時くらい、お互い魔法少女の姿の時の名前で呼び合うって言うのはどうかしら? ピュアルーナ」
「わかったよ、ピ、ピュアハート」
「じゃあ、今度こそ行きましょう!」
「うん!」
2人は魔物へ一直線に飛んでいく。
ピュアハートはステッキを持ち、ピュアルーナは武器までは真似できなかったため、いつもの剣を使うことにした。
「ハート、俺が近接攻撃で相手と戦うから、ステッキを使って遠距離攻撃で援護してくれ!」
「分かったわ、ルーナ」
目玉魔物に正面から切り掛かるルーナだったが、魔物に避けられてしまう。魔物はそのまま逃走を図ろうとしていた。
「待ちなさい、逃がさないわ!」
ハートがステッキで魔法を使い、ピンクの障壁が魔物の逃走経路を塞いだ。
逃げ場を失った魔物はオロオロと慌てふためいている。
「どうしてあいつ、攻撃してこないんだろう?」
「うーん……。もしかすると戦う魔物じゃないのかもしれないわね」
「というと?」
「あの目玉からして、例えば偵察用とか、何かの様子を探るための魔物かもしれない」
「ま、まさか⁉︎」
ハートの言葉にルーナはピンときたことがあった。それは、サキュバス率いる魔王軍が攻めてくることである。もしかすると、この魔物は下見用に送り込まれたのかもしれないし、あるいは今、攻め込めるかどうか最終確認をしに来たのかもしれない。
だとしたら‼︎
「ハート、早くこいつを倒そう!」
「えぇ、分かってるわ!」
「せっかくだから合体技っていうのはどうかな?」
「ルーナ、ナイスアイデア‼︎」
2人が必殺技を出そうとした時、ルーナの前にプリンが現れた。
「どうしたんだ、プリン?」
「キミにプレゼントだよ。もう1人の魔法少女はさすがに無理だけど、武器くらいなら創ることができたから」
プリンはそう言うと、ハートとは色違いの紫と黒のデザインのステッキを手渡した。
「ありがとう、プリン!」
「どういたしまして。これで2人でかっこ可愛く決めるんだよ‼︎」
「「うん」」
2人はステッキを敵へ向ける。
「【シャイニング】」
「【ムーンライト】」
「「【シャワー‼︎】」」
2人のピンクと紫に綺麗に光る光のシャワーは2つが重なり合い虹色に変わる。
「「喰らいなさい‼︎」」
虹色に輝く光のシャワーは、魔物へ降りかかった。
「グワァァーー‼︎」
魔物は苦しみながら浄化されていく。だが、最後に1つ言い残して行ったのだ。
「俺が死んでも、何も変わらない。お前たちはこの後すぐに地獄を見るだろう」と。
不安な魔物の一言をよそに、観客は大歓声をあげていた。
「すごい、こんなにクオリティが高いなんて!」
「夜月さんのコスプレ姿も拝めたし、サイコーだよ!」
「最近のシンデレラはこんな事をするのか!」
などなど………
観客たちは演劇が終わったと思い込み、続々と外へ出て行った。
今の戦いが劇の一環として見られていたなら、これほど好都合なことはない。2人にとってはありがたい勘違いだった。
2人は一件落着だと思い、変身を解いた。そして、皆と一緒に外へ出た。
「やったね、絵梨!」
「うん!やっぱり2人で戦うと心強いし、楽しいよ‼︎」
「さてと、絵梨、これから2人で出店を周らない?」
「もちろんオッケーだよ!」
2人は楽しげに出店エリアへ移動していた。と、その時‼︎
急に視界が暗くなったのだ。何事かと2人とも辺りを見回す。すると、先ほどまで晴天だった空に異変が起きていた。
常和高校のある町の上空に360度全方位から雨雲が集まってきて、渦を巻き続ける。
「絵梨、これは一体?」
「私にも分からない!」
「2人とも!」
混乱している2人の前にプリンが現れた。
「今、この常和高校から1キロ先に異常な時空の歪みを感じるんだ」
1キロ先に時空の歪み。ルナには聞き覚えのあるフレーズだった。
次の瞬間、地面が揺れ始めた。だが、地震ではない。地響きだった。そしてその原因は………。
/ピンポンパンポン/
防災無線が流れたのだ。
〔いますぐ、この町から逃げてください。未確認の生命体が多数接近中です。避難してください!〕と。
校内でも放送が流れ、生徒たちは今すぐ逃げるようにと指示があった。それと同時に討伐団員は集合しろとの命令も出された。
この放送でルナは確信した。サキュバス達が来てしまったのだと。
「ルナ!」
体育館から出てきた、マサキが駆け寄ってきた。
「今の放送、聞いたか?」
「うん。予定より少し早いけど、始まったんだよ」
「ルナ……当たり前の事を聞くかもしれないが、お前も戦うんだよな」
「当たり前でしょ!」
「そうだよな……ルナ、生きて帰ってこいよ」
「マサキの方こそ、避難してる途中で死んじゃったりしたら許さないから」
「そうだな、オレも頑張らないとな」
「ねぇ、マサキ」
「なんだ?」
「俺は月なんだ」
「月?」
「うん。太陽がいるからこそ、月は綺麗な光で夜を照らしてくれている。だから、この戦いが終わって平和になったら、俺の太陽になってください!」
そう、ルナにとってマサキは太陽のような人になっていた。マサキがいなければ、自分の存在価値がわからなくなってしまう。マサキはルナにとって生きる理由のような人になっていったのだ。
「何言ってるんだよ、オレの方が先に告白しただろ。オッケーに決まってるじゃないか」
2人は必ず生きて再会すると約束し、マサキは避難、ルナは戦闘へと、それぞれが今やるべきことへと進んだ。
ということで、今回で二章は終了となります。次回から三章へ‼︎




