第83話:食べさせ合いっこ
「綺麗さっぱりだね、リリム」
「はい、ありがとうございます!」
リリムを洗ってあげ、俺の体操着を着させている。リリムは中学生なので、少しブカブカだがそこがまた可愛い。
「ルナ〜〜」
そこへ、明里が駆け寄ってきた。
「どうしたの?」
「3人が呼んでたよ。ドレス着にきてって」
「あ、そういえばそうだったね」
渡辺さんたちからは、俺に演劇用のドレスを着て出店を回ってくれとお願いされていた。
渡辺さん曰く宣伝効果があるということだそうだ。
「マサキ、リリム、ちょっと行ってくるね」
あの3人を待たせると、また怒られそうなので足早に向かった。
被服室で演劇の着替えをすることになっていた。
被服室に着くと
「夜月さん、早速着替えるわよ」
「早く夜月さんがあのドレスを着る姿を見たいなぁ」
「早く早く!」
着いて早々、急かされる。
「わかったよ」
本当なら、演劇の本番以外は着たくないドレス。このドレスを着て、普通に校庭を歩くと思うと恥ずかしい。
というのも、ドレスは青色なのだが、胸元と背中は大きく開いていている。
「さあさぁ、この髪飾りも忘れないでね」
渡辺さんが俺に頭に金髪のカツラとティアラをつける。
「うん!可愛いよ♪」
「うんうん(激しく同意)」
「ホントだぁ〜〜‼︎」
3人があまりにも褒めまくるので、俺もいささか自分の姿が気になってきた。
鏡の前まで移動し、鏡に映る自分を見つめる。
「か、可愛い」
無意識にその言葉をつぶやいていた。
自分で言うのもなんだが、普段から俺は可愛い方だと思っていた。でも、今回のドレス姿はいつもの俺とはなんだか違う。金髪だからだろうか?
こんな言い方をしてはベタかも知れないが、本物のお姫様のようになっていた。
鏡の中のお姫様が嬉しそうな、照れ臭そうな笑みを浮かべた。
(えっ、俺、今笑ってた?)
鏡に映る自分の表情が信じられなかった。だって、俺はあくまで男だったわけで。この衣装も鏡を見るまでは嫌がってたはずだ。なのに、なぜ俺は嬉しそうにしているのだろうか………。
◇◇◇
「お待たせ!」
マサキとリリムの元へ戻ってきた。
「ルナさん可愛い!」
「可愛いな!シンデレラっぽくはないが……」
「やっぱりそうだよね。本当ならこんな露出高くないもん」
と言いつつ、マサキが『可愛い』と言ってくれたことに気持ちが舞い上がる。
「おーい、ルナちゃん‼︎」
誰かに呼ばれて、振り返る。
「あ、奈由先輩!それに龍樹先輩に拓先輩まで」
俺の所属している討伐団での班のメンバーが手を振っていた。どうやらこの3人も出店を開いているようだ。
「どうも、お久しぶりです」
「うん、ルナちゃん元気にしてた?」
「はい‼︎」
「元気そうで何よりです。君のおかげで魔物たちを一掃できそうですし」
「ま、俺たちに任せとけって。魔物の群れなんて蹴ちらすからな!」
龍樹先輩も拓先輩も魔物討伐に向けて気合十分のようだ。これは、俺も気合を入れなければ。
「話は変わりますけど、先輩たちは焼きそばを?」
奈由先輩が接客、龍樹先輩と拓先輩が焼きそばを作っている。
「そうだよ。これの売り上げを討伐団の運営費にするってわけ」
「なるほど。俺も買います!」
「えっ、ホント!あっ、でも気を使わなくてもいいんだよ?」
「いえいえ、本当に焼きそば大好きなんですよ」
「そうなの、それなら大丈夫ね。毎度あり〜!」
俺の分とマサキ、リリムの分を買っておいた。
「そういえば、ルナちゃん」
「なんですか?」
「うちの出店、手伝ってくれない? ルナちゃんが売り子をしてくれたら売り上げが倍増するって噂を聞いたんだけど」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
なんちゅー噂が広まってるんだ。これじゃあ、落ち着いて周れそうにないなぁ。
「じゃあ、宣伝よろしくね!」
ということで、俺は店先に立ち、呼び込みをすることになった。そして、奈由先輩の期待通り、客がわんさか集まっていく。
そんな客の中で、俺の顔をじーっと見ている高一男子生徒がいた。いくらなんでも気持ち悪い、というか怖い。
「本物だ‼︎」
「ん?何が本物??」
男子は手に持っている本と俺の顔を交互に見比べている。もしや………
「それって、俺が主人公の漫画だよね?」
「はい! 本物は絵よりもずっと綺麗ですね‼︎」
「う、うるさい///」
不意を突く、俺への褒め言葉。
しまいには男子生徒が俺を崇め始めた。
「ちょっ、ちょっと!恥ずかしいからやめて‼︎」
「あ、すみません。あの〜サインしてください‼︎」
そう言うと、男子生徒は俺へ先程の漫画を差し出す。こんなもの破り棄ててやろうとも思ったのだが、男子生徒の期待の目に負け、しぶしぶサインを書いてやった。サインと言っても、自分の名前を一筆書きで書いてサインっぽく見せただけだ。
「有難うございます‼︎」
それでも、男子生徒は嬉しそうに礼を言った。
「ど、どういたしまして」
悪い気はしない。
その後もしばらくの間、呼び込みをしたところ、焼きそばはすぐに完売してしまった。
「ルナちゃん、ありがとね!」
「いえいえ」
「それにしてもすごい人気だね!ホントにすぐに完売しちゃったよ」
「自分でも驚いてます」
こんなにも俺って、学校で人気者になっていたのか。前々からそうなっていたことには気づいていたが、これほどまでの事とは思ってもいなかった。男の頃、フツーだったのが嘘のようだ。
奈由先輩と龍樹先輩、拓先輩と別れ、俺はマサキとリリムの元へ向かった。
「2人とも、ごめんね待たせちゃって」
「ルナさん、お疲れ様です」
「引っ張りだこだな、ルナ」
「まったくだよ。はい、お土産」
2人に先程買った焼きそばを渡す。
「ありがとうございます!」
「ありがとう、ルナ」
2人とも美味しそうに食べてくれている。買ってきて良かったなぁ。
「あの〜……」
「どした?リリム」
「私、お祭り初めてなので、とてもワクワクしてまして。それで、いろんな店を周りたいんですが……」
「いいよ、楽しんでおいで」
「ありがとうございます‼︎」
リリムは、はしゃぎながら歩いて行った。いつも大人なリリムしか見ないので、子供らしい姿が新鮮だ。
/グゥゥ〜〜/
隣でマサキが食べている焼きそばの匂いに反応し、お腹がなってしまった。
「お腹減っちゃって///」
マサキにお腹の音を聞かれてしまった。恥ずかしい。
「なんだ、ルナは自分の分は買ってないのか?」
「買ったんだけど、その後でお手伝いしてるうちに間違ってそのうちの1つを売っちゃったんだって」
「そうか……オレの食うか?」
「いいよ、それはマサキのために買ったんだもん」
/グゥゥ〜〜/
それでもなってしまうお腹。体は正直だ。
「腹は正直だな。じゃあ、半分ずつってのは?」
「マサキがそう言ってくれるなら、貰おうかな……」
「んじゃ、ほら、口開けて」
そう言われて、口を開けると、マサキが焼きそばをつかんだ箸を俺の口元へ運んだ。
これって、カップルがよくやる『あーん』ってやつ⁉︎
「美味しいか?」
「うん!マサキがあーんしてくれたから倍美味しかった気がするよ‼︎」
「オレも意識してなかったが、確かに今のはあーんだな」
「え、意識してなかったの?ちょっと残念だなぁ」
「ごめんな」
「うん、大丈夫。今度は俺があーんしてあげる!」
「ほら、『あーん』。どう、美味しい?」
「自分で食うより、10倍美味い!」
「それは大げさでしょ」
はたから見れば、かなりイチャイチャしていたのだろう。焼きそばを食べ終わる頃、こちらを見てくる視線に気づいた。またまた恥ずかしい。
「それじゃあ、ゴミ捨ててくるね」
「いいよ、オレが捨ててくるからルナは座って待っててくれ」
「いいからいいから、マサキは座って待ってて」
マサキを待たせ、俺は食べ終わった焼きそばの容器を捨てに行った。
「マサキと一緒に文化祭。楽しいなぁ♪」
鼻歌交じりで歩いているところ、誰かにぶつかってしまった。
「あ、すみません。俺の不注意で」
ぶつかったのは白衣を着たおじさんだった。白衣を着ているということは科学部の顧問の先生だろうか?だが、そのおじさんの顔は見覚えがなく、先生ではなさそうだ。
ぶつかった衝撃で、おじさんの鞄からたくさんの資料が地面に落ちてしまい、それを拾うのを手伝った。
「本当にすみませんでした。ちょっと浮かれてて……」
「いいよ、僕の方も前をよく見ていなかったのがわるいし」
おじさんの優しい言葉にホッとする。内心、怒られてしまったらどうしようかと思っていたのだ。
「それにしても……順調のようだね」
「え?」
意味深な言葉を残し、おじさんは去っていった。
おじさんの『順調のようだね』の意味が分からない。どういう意味だったのだろうか?
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