第82話:甘えたい
「……///。もう!マサキのバカ‼︎」
その場に立っていられず、急いで調理実習室に逃げ込んだ。ここはメイド喫茶に使われている教室の隣にあり、メニューの調理and控え室として使われている。
「まったく、マサキのやつ‼︎」
周りにたくさんの人がいる前で、あんな風に言われたら恥ずかしいじゃないか。そりゃ、嬉しいけど………。
「どうしたんですか、ルナ先輩?顔真っ赤ですよ」
そこへ凛がどうしたのかと尋ねてきた。
「凛、俺そろそろ行かないといけないから」
「えっ!そうなんですか⁉︎ 残念です……」
凛ががくりと落ち込む。
そんなに落ち込まれては、なんか罪悪感が生まれてしまうじゃないか!
自分で言うのもなんだが、俺はそういうのに弱い。人が良いという部類に入るだろう。
「ごめん、凛」
メイド服を脱ぎ制服に着替えると、俺は速やかに出て行った。
マサキも注文したものをちょうど食べ終わったらしく、再び2人で散策することにした。
「そういえばさ、マサキ」
「ん、なんだ?」
「さっきの、その……可愛いって………本当?」
「そうだけど?」
「マサキがそんな言ってくれるんなら、また着てみてもいいかな……って思ったり」
「それは楽しみだな。でも、いつものままでも十分可愛いぞ」
「もう‼︎マサキったら///」
楽しい。マサキとはまだ付き合ってわいないけれど、これはほぼデートだ。いつまでもこの時間が続けばいいのに。
「そういえば」
俺が通っていた小学校でも、規模のデカイ文化祭が行われていた。
「俺が通ってた小学校にも文化祭ってあったんだよ」
「そうなのか」
「それでさ、小2の時に同じクラスの女子が全身水飴だらけで途方にくれてた顔してたんだよ。文化祭っていったら、いつもあの顔思い出しちゃうんだよね」
本人には申し訳ないが、あの顔は本当に面白かった。
「あんな感じか?」
1人でクスクス思い出し笑いをしていると、マサキが前方に指をさした。
誰のことを言っているのだろうかと、マサキの指差した方へ目を追う。すると、そこにいたのはリリムだった。
「いったいどうしたんだ、リリム」
全身ベトベトだ。そしてその発端は手に持っている水飴。
急いで駆け寄ると、不安げなリリムの顔に少し明るさが戻った。
「ルナさん、どうしましょう。私、水飴食べたことなくて」
「どうして、そんなことになったんだよ。んーと、どうするもなにも、とにかくシャワーを浴びよう」
高校にはシャワー室がある。だが、シャワー室を使うためには職員室から鍵を取ってこなければならない。
「マサキ、外の蛇口でリリムの手を洗わせてて」
「わかった」
俺は、職員室に向かった。文化祭で先生皆が職員室を出払っているならなかなか面倒くさいが、幸いにも1人残っていた。
「あら、どうしたの?」
英語科の増田先生だ。
「シャワー室の鍵を借りたいんですけど」
「いいんだけどね、夜月さんどこも汚れてなさそうよ?」
「いえ、俺じゃなくて………妹が、水飴だらけになっちゃって」
リリムのことは、世間体では妹ということにしている。
「あら、そうだったの⁉︎ それは大変‼︎‼︎」
ちょうどその頃、マサキは。
「ねぇねぇ、倉田くんが手を洗わせてあげてる子、妹かな、どう思う?」
「なんかベトベトしてるね」
「倉田くんの彼女じゃない?」
「でも、中1くらいだよ」
「もしかして、変なプレイでもさせたんじゃ‼︎」
同じクラスの女子から、変態と勘違いされていた。
「ごめん、遅くなっちゃって」
マサキとリリムのもとに向かう途中で、遠目で引きながらマサキを見る女子たちを見たが、無視だ。
「じゃあ、俺はリリムをシャワー室に連れて行くから、マサキは教室から俺の体操服を取ってきてくれない?」
「任せろ」
ベトベトしたリリムを連れ、シャワー室に入る。
「じゃあ、まず服を脱いで。ベトベトしたやつはビニール袋に入れるから」
そう言って、リリムに両手を上げさせ、服を脱がせる。そしてビニール袋に入れる。と、その時、俺は気づいてしまった。
「ごめん、リリム!」
慌ててシャワー室から飛び出す。いけないいけない、俺が男だったってこと忘れかけてた。
「どうしたんですか、ルナさん?」
俺の慌てぶりが気になったのか、ドアから顔だけをのぞかせて、リリムが尋ねてきた。
「どうしたもなにも、俺って男だからさ。というか男だったから……。リリムも嫌だろ、裸見られるの」
「そんなことないです。ルナさんにならぜんぜん見られても平気ですし、私はルナさんを女の子として認識してますよ」
「そう言ってくれるのはありがたいけど……」
「ですから……その〜、背中を流してくれませんか。髪の毛も、いや、ぜんぶ洗ってもらえませんか?」
突然のリリムの発言に俺は驚いた。
「急にどうしたんだよ、リリム」
「私、母親といた記憶がないので、たまには甘えてみたいなぁと思いまして」
「そっか、リリム、以前の記憶があまりないんだよね」
「はい。なので、ルナさんが少し強い口調で注意しつつも、優しくシャワー室まで案内してくれて、服を脱がせてくれて……。」
俺はリリムが言いたいことが分かる気がした。俺にも幼い頃に同じ経験がある。その時も、叱られたものの、体も洗ってくれて、新しい服も着させてくれて、何から何までしてくれたものだ。
今までリリムには俺が甘えてばっかりだった。リリムはしっかりしていて、大人なんだと思ってばかりいた。だが、それは違った。リリムは人一倍その人の温かさや思いやりを受けてみたかったのだ。
「うん、リリムの身体洗ってあげるよ」
「い、いいんですか⁉︎」
「当たり前でしょ! リリムは俺の“妹”なんだから‼︎ 家族にはいくらでも甘えていいんだから」
そして、これからは俺ももっとしっかりしよう。これまではリリムに任せっきりなとこがあったし。
/シャーーー/
「どう、かゆいとこない?」
現在、リリムの頭を洗っている。指の腹で優しく優しく地肌をマッサージしながら洗ってゆく。
「ルナさんの洗い方、とっても気持ちがいいです」
リリムは気持ちよさそうにうっとりとしている。
「でしょ、髪の毛は自分で洗うよりも人が洗ってくれた時の方がすごい気持ちいいんだよ」
その頃マサキは……。
「ルナたち、遅いなぁ」
「ねぇねぇ、夜月さんがさっきの女の子を連れて行ったよ」
「たしか夜月さんって、倉田くんの彼女だったよね。いつも2人で仲良くしてるし。」
「ということは、泥沼の三角関係なんじゃない⁉︎」
「なるほど、人前につかないシャワー室の中で、壮絶な修羅場が…」
「ほら、倉田くん。シャワー室の前でじっと待ってるわよ。きっと、後で夜月さんからボコボコにされるんじゃないかしら」
相変わらず、勘違いされていた。




