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目覚めると吸血鬼少女に  作者: らーめんま
第二章 つかの間の休息・文化祭編
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第77話:お前と出会えて

今回は真司の心境の話になります。

74、75、76話の話を振り返っての真司の日記のようなものになってます。

 


 この静寂に包まれた小部屋の中でじっと放課後になるのを待っていた。


 オレが学校に来ても、クラスの奴らは皆、オレに怯えてしまう。

 オレの外見と噂がそうさせてしまうようだ。


「はぁ……、つまんねぇな」


 小学生の頃からこの鋭い眼差しは健在で、柔道をしていおり、がたいもよく、みんなが外見にビビり、距離をとられていたように感じる。みんなオレのことが怖かったのだろう。


 そんなオレにとって、今日の出来事は衝撃的だった。


 準備室に来て、10分経った頃だろうか。

 誰も利用しないはずの準備室の扉がいきなり開いたのだ。


 一瞬、何が起こったのか分からなかった。

 小窓ひとつしかない薄暗い部屋に光が差し込み、そこに1人の女が立っている。

 背中まで伸びている綺麗な黒髪に、愛らしく美しい瞳。すらっとした鼻と可愛らしい唇。この世のものとは思えないような美少女がこの部屋に入って来たのだ。


 この女の名前をオレは知っていた。いや、全校生徒が知っているだろう。正式ではないが、男子生徒の中ではミス常和高ともてはやされている。

 そんな人気者の彼女が、こんな薄暗い部屋に来るなんて、場違いもいいとこだ。


 初めはオレに気づかないようで、「落ち着く〜」と背伸びをしていた。


「何だ?お前……」


 彼女がこの場にいる理由がまったく分からず、自然と口に出していた。


 すると彼女は俺に気づき、顔をこわばらせる。

 ビクビクと涙目で怯えているのを見ると、オレは何もしてないのに、なんだか罪悪感を感じてしまう。


 彼女はオレに謝ると、すぐさま部屋を出ようとした。

 彼女も何かしら用があるからこの部屋に来たわけで、追い返すのは申し訳ない。


「別に出て行こうとしなくてもいい。オレ一人の場所って訳じゃないんだ」


 オレが引き止めると、彼女は相変わらず涙目で出て行くのをやめた。おそらく、言うことを聞かないとボコられるとでも思ってるのだろう。



「……。」


「……。」


 引き止めたはいいが、これといって話すこともなく、気まずい時間が流れていた。

 オレから話してもいいのだが、きっと怖がらせてしまうだろう。

 それからもうしばらくすると、彼女の方から話しかけてきた。


「あの〜、番長さんはここで何を?」


 なかなかメンタルを抉ってくる質問をするな。

 ここはここで気に入っているが、オレだって出来れば普通にクラスの輪に混じりたい。ま、学校の人気者にはわからないだろうけど。

 彼女の質問には一応答えた。

「学校に来たんだがな……オレが教室に入るとクラス全員が怖がっちまうんだ。だからここで大人しくしてるのさ。お前もオレのこと怖いか?」


 俺の問いに始めは「怖くない」と答えていた彼女だったが、正直に答えてほしいと頼むと、素直に怖いと言った。

 自分で聞いたので自業自得なのだが、やはり落ち込んでしまう。

 彼女はオレのいろんなヤバイ噂を聞いたことがあるそうだ。どんな事かと聞いてみれば、どれも身に覚えのないことばかり、デマばかりだ。しまいには、彼女がオレがカツアゲするところを目撃したという。だが、それも彼女の見間違いだ。オレは急に倒れた婆ちゃんが心配になって、病院までの電車賃を貸してもらおうとしただけ。ただそれだけなのだ。あれをカツアゲと見られているなんてショックだ。



 カツアゲの件を弁解すると、彼女は理解してくれた。

 そして、俺の思い違いかもしれないが、憐れむような眼差しでオレを見てくる。オレってやっぱり可哀想な人なのか?


「良ければ、今日の放課後一緒に帰りませんか?」


 彼女の言ったこの一言には驚愕してしまった。今まで、このオレと一緒にいてもいいという奴なんていないと思っていたのだ。なのに、彼女はオレを誘ってくれた。


「オレなんかでいいならいいが……」


 素っ気なく返事をするのに努めた。本当は凄い嬉しかったんだ。


「じゃあ決まりで!放課後にこの部屋で。この部屋は2人だけの秘密ですね♪」


 この時の『2人だけの秘密ですね♪』にはドキドキしてしまった。なんせ、人差し指を唇に当てて、ウインクをしながら言うのだ。こんなことされたら、どんな男でもイチコロだろう。




 そして、放課後。

 彼女は本当に来た。冷やかしかもしれない、オレにかまう人間なんかいる訳ないと思っていたのでかなり驚いた。


「番長さん……」


 そういえば、彼女にはまだ名前言ってなかったっけな。


「中村真司だ。敬語はいらないし、出来れば苗字か名前で呼んでくれ……るとありがたいのだが」


 彼女はオレの名前を聞くと、「ウフフ」と笑った。何故かと聞くとどうやらオレの名前が普通すぎて笑ってしまったらしい。なるほど、確かに過去に何度か言われたことがある。『顔の割には、普通の名前だね』と。

 なんだか自分でも笑えてきた。


 彼女は自分のことを名前で瑠奈と呼んでほしいと言った。



 名前を教え合ってからは、だいぶ距離が縮まった気がする。

 瑠奈もだんだんと敬語がなくなってきたし、オレにビビらず、リラックスして話している様子だった。



 瑠奈を連れて、婆ちゃんのお見舞いのために電車に乗った時も大変だった。なんと、瑠奈が痴漢にあったのだ。決して助けを求める訳でもなく、ただひたすら我慢している様子だったが、顔が赤く、そして小さな声で「もう止めて」と懇願しているのが聞こえた。

 その時のオレはただただ怒りまくっていた。

 許せなかった。こんな心優しい子に何をするんだと。

 オレが犯人の腕を掴むと、犯人は慌てて逃げていき、追いかけたのだが逃げられてしまった。

 瑠奈に対して申し訳なかったと何度も謝った。。それと同時にオレに助けを求めず、まだ頼りにされてないんだなと感じた。


 瑠奈の目からは大粒の涙が零れ落ちる。オレは慌てて自分のハンカチを差し出した。


 痴漢があってからは瑠奈と乗客の間にオレが壁として立っていた。そうすれば、痴漢にあう心配もない。



 駅に着き、病院に向かって歩いている最中も 瑠奈は痴漢を引きずっている様子で、暗かった。



 病院に着いてからはやっと、立ち直れたようで、その顔には笑顔が戻った。

 お婆ちゃんは瑠奈が来てくれたことを喜んでくれたし、周りのばあちゃん達も喜んでいた。しまいには、瑠奈のことをオレの彼女だと思う始末だ。それは、オレなんかと付き合っていると思われる瑠奈に失礼だからきっちり否定したが、結局、婆ちゃんはオレ達が付き合っていると思ったままのようだ。





 ◆

 電車は常和町に行く間に幾つかの駅でとまり、その度に乗客が降りて行った。オレと瑠奈の立っている前の席がちょうど2人分空く。瑠奈も立っているのがそろそろ限界そうで、周りに立っているお年寄りもいなさそうなので、遠慮なく座った。

 それから少しして、オレの肩に瑠奈が凭れ掛かった。髪の毛からは甘くいい匂いがする。

 電車での緊張とずっとぎゅうぎゅうの中でとても疲れていたのだろう。小さく可愛げな寝息をたてながら眠っていた。


 瑠奈の寝顔から目を移し、窓を見ると、綺麗な夜景が広がっている。


「電車から見える夜景ってこんなに綺麗だったっけ」

 見舞いの度に電車に乗っているが、夜景がこんなにも美しいと思ったことがなかった。


 思えば今日1日、とても変化のあった1日に感じられた。


 周囲から怖がられ、あまり関わらないようにされているオレにとって、初めはビビりながらも、オレに好意的に接してくれた瑠奈との出会いは、オレの世界観を引っくり返らせた。

 毎日、見舞い以外には意味もなく、退屈な日々を過ごしていたオレの目には通学路、電車から見る景色、全てが灰かぶったような寂しげな色に見えていた。だが、瑠奈と出会った今日1日。退屈で無色な世界という名のキャンバスに鮮やかな色がついたのだ。

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