第62話:疾風の殺し屋
目の前にいるのは、あの優しかったアロエだ。
ルナには何が起きているのか、到底理解できない。
ルナが混乱しているのがよほど面白いのか、アロエは笑っている。
「嘘ですよね、アロエさん。」
「いいえ、残念ながらホントよ。私は殺し屋。ある人からあなたの殺しの依頼を頼まれたのよ。」
「えっ、そんな……」
ルナはまだ理解できない。いや、頭では理解している。だが、どうしてもあのアロエさんの本性がこんなものだとは、心が認めたがらないのだ。
「まったく、どれだけショックを受けているのかしら?」
アロエはそう言うと、片手剣を構え、ルナに向かって疾風のように駆けてくる。
「…‼︎」
心臓を一突きされそうなのを、ルナは間一髪で避ける。だが代わりに、ダンからもらった石をはめ込んであるネックレスが刃の餌食になってしまった。
ダンからもらった石は粉々に砕け散った。
ここまで来ると、さすがのルナもアロエに剣を向けた。
「やっと殺る気になったのね。」
「このまま、くよくよしてても殺されるだけだからね。」
「いいわね、その気で来てくれなきゃこっちも楽しめないもの。」
お互い、刃を向けた対峙が続く。
どちらもなかなか動かない。というよりは、ルナは動けないと言った方が適切かもしれない。
アロエは余裕の表情でルナの行動を伺っていたのだが、ルナの方は下手に動けば斬り殺されるので、やすやすと動くことができないのだ。
「私は鬼族のアロエ。身体能力の高さ、そして自慢の速さで今までいろんなやつを殺って来たわ。あなたも名乗りなさい。」
「一応、吸血鬼のルナ。速い相手なら今まで、何体か倒してきた! 速さだけじゃ、こっちは負けない‼︎」
「ふふ、威勢はよさそうにしてるけど、足は震えてるわよ。」
「うるさい!」
先に動いたのはルナだった。剣をアロエに向かって容赦なく振り下ろす。だが、相手も戦いのプロ。ひらりと身を翻し、ルナの頭上を一回転しながら、背後に立とうとした。
「空中なら、避けきれないはずだ!」
まだ、地面に降り立っていないアロエに、ルナは大きな氷柱を放った。強力な冷気を放ちながらクリスタルのような輝きを持った氷柱は真っ直ぐにアロエの方へ向かっていった。
氷柱はアロエに直撃。
「やったか⁉︎」
ルナはこの一言を後悔した。「しまった、自らフラグを立ててしまった。」と…
そのフラグ通りに、アロエは生きていた。
「なかなか効いたわ、でもダメ。鬼族はタフなのよ。その上、相手からダメージを受けるたびに全ての能力が上昇する。あなたが私に勝つためには、一撃で仕留めないといけないのよ。」
アロエの言う通り、この後も何度かアロエに傷をつけたのだが、倒れることはなく、逆に強くなっていった。
「はぁ、はぁ…」
ルナは完全に疲れてきていたが、アロエはむしろスピードに磨きがかかっている。
疾風の如き、アロエの一撃はルナの横腹をえぐった。
目にも留まらぬ速さにルナはなすすべがなかった。
「きぁぁぁーー‼︎」
痛さのあまり悲鳴を上げ、ルナは倒れた。
意識が痛みで朦朧とするが、不思議と死ぬ気はしない。
「ウフフ、吸血鬼は不死身だからね。でも、大丈夫。十字架をあしらったナイフで一突きすれば、天国に行けるわ!」
アロエはそう言いい終えると、胸元から、十字架をあしらった小型ナイフを取り出した。
「ウフフ、私ね、血を見るのが好きなのよ。特に赤い血。それに悲鳴がつけばもっといいわね。ウフフ、アハハハ‼︎」
どこぞで一度聞いたことのあるフレーズを聞きながら、ルナは思った。
(こいつって、俺のツンデレバージョンの時とまったく同じ性格なんじゃ…)と。
仰向けのルナに跨るようにしてアロエは座り、ナイフをルナの心臓の位置に向けた。
「ウフフ、これで心臓をつけば、一発で終わるわ。」
「くっっ‼︎」
終わった…
「ウフフ、その絶望の顔。サイコーよ!」
アロエはナイフをルナの胸へ突き立てた。
ツーッと真っ赤な血がルナの皮膚を伝う。ルナは痛みに必死にこらえた。
だが、その表情がアロエという異常者を逆に刺激してしまう。
「いいわぁ、その表情! すぐ楽にさせてあげようかと思っていたけど、変更ね。じわじわと刺していって、悲鳴を聞く方がいいもの。」
アロエはそう言うと、ナイフをゆっくりゆっくりと胸へ刺してゆく。
「うううっっ、いやぁーー、…キャーーー‼︎」
「いいわよ、すごく良いわ! って、なぜ笑っているの⁉︎」
アロエが驚くのも当然だった。痛みに悶えながらも、ルナはアロエを見て嘲笑の笑みを浮かべていたのだ。
次回も来週日曜投稿予定です。




